僕は幸せになるために復讐したい!

雨夜澪良

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三章 依頼任務

暴走と決断

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「ただいま戻りました。ルーカス王子」

「アドルフか。フローレス嬢、見つかったんだな。それと後ろにいる人たちは……」

「ロジェ王子とその仲間たちです。ハロルド王子に連れて行けと頼まれました」

「そうか」

「リュカ、リュカ」

 僕は青い顔をしたグレタさんが走る方向に目を向ける。その瞬間、鼓動がドクっドクっという音が異常に耳にとどいた。

 どういうこと? リュカ王子はアヴァイル国の王子じゃなかったの?

 嫌な汗が背中をつたう。

「どうした?」

 ルーカス王子と呼ばれていた青年が心配したような目で僕を見る。

 みんな、気づかないのだろうか。目の前のリュカと呼ばれた彼が人間ではなくなっていることに。

 僕はリュカ王子の目の前まで歩くと、じっとを観察するようにリュカ王子見つめた。

「本当にリュカ王子なんですか?」

「そうだが?」

 戸惑う僕を今度はグレタさんが不思議そうな顔で見つめる。

「どうしたんですの?」

「だって、その人、人間やめてますよね? というか生きているんですか?」

 王子だって話だったよね……。でも王子なのに人間やめてるって明らかにおかしい。

「何を言って――」

 ルーカス王子の戸惑いの声と被るようにドアから大きな音が鳴り響く。

 みんながドアの方を見る中で僕はリュカ王子から目を離せなかった。





「ここだね」

「そうなのです! ビンゴなのです!」

 ドアを蹴破って入ってきたヒエロニウスとリリアンは当たりとばかりに笑みを浮かべた。

 みんなが驚きで呆然と立ちすくむ中、オリヴィアはいち早く二人の元に走り、回し蹴りをおみまいするが、ヒエロニウスはしゃがみ込むことで躱す。一方でリリアンは腕でガードしつつも外に吹き飛ばされる。

 ヒエロニウスが隙とばかりにオリヴィアの懐から上に向かって魔力を込めた一撃もって反撃をするが、オリヴィアは圧倒的な体の柔らかさで後ろから手を地につけ、蹴り上げた。

「今のは効いたね」

「どうして、あなたがここに?」

「あれ~、よく見るとオリヴィアじゃん? 強くなったんだね? まあ今はそんなことどうでもいいよね。リュカ王子はもらっていくよ」

「そんなことさせない」

「主様の邪魔はさせないのです『ファルシオン』」

 外に吹き飛ばされたリリアンが戻ってきてオリヴィアに魔法で編み出した斬撃を放つ。

「加勢します」

雷鎌サンダーファルシオン

絶縁インシュレーション

 驚きから持ち直したアドルフは剣を抜き、オリヴィアに加勢しようとするが雷を纏い光速となった魔法の斬撃が左足を切断し、バランスを崩す。

「アドルフ!!」

「ルーカス王子……こちらに、来てはなりません。リュカ王子たちを連れて逃げて、ください……」

 苦痛に顔を歪めながらも主の近くには行かせないと、剣を杖のようにして立ち上がろうとするが、脂汗が増えるだけで立ち上がることができなかった。
 幸運なことがあるとすれば、長年の戦闘経験による判断が早かったことで、魔法を即座に発動させ雷を防げたことと、電撃による熱量で傷口が塞がったこと。少なくとも今出血多量で死ぬことはない。

「逃げられないよ」

 いつの間にかリアンの隣に来たヒエロニウスはリアンの肩に手を乗せ、覗き込むようにリアンの顔を確認する。

「君、やっぱり八年前の子だ。どうしてリュカ王子がこんな目に遭っているか知ってる? それは君が役目を果たさなかったからだよ」

 耳元で話され、リアンの背中がぞわりと悪寒が走る。リアンが攻撃に移そうとするが肩に力を込められその場から動けない。

「その子から、手を離せ」

 ルーカス王子がリアンを守ろうとして剣を鞘から抜き、構える。
 だが、力の差は歴然。ヒエロニウスはいちべつすると興味なさそうな顔をし、再び僕に話しかけようと口を開く。

 リアンには何も聞こえなかった。聞きたくなかった。

(やめろ、そんなことしても無駄死にだ。そんなの耐えられない。どうして僕はいつも大事な場面で何も成せない。この人の力が羨ましい。力がない自分に吐き気がする)

 リアンは頭に鋭い痛みが走り両手で頭を覆うように押えた。脳の血管が手越しでもドクドクいっているのを感じる。

 リアンの周りに禍々しい風が巻き起こる。

 ロジェがいち早くリアンの異変に気づき、能力を発動させる。

『緑の環』

「お願い、妖精たち僕たちを守って」

 リアンの能力が暴走する。





 能力発動『嫉妬』

 この能力は嫉妬を司る物の力を再現できる。つまり、最強生物としての力を発揮するのだ。強すぎて通常の人では操作しきれない。それどころか能力に飲まれる可能性の方が高い。

 空き家が吹き飛ばされる。

「リアン兄ちゃん……」

「これだよ。これを待っていたんだ。さあ、戦おうか!」

 僕には何を言っているか分からなかった。何も聞こえない。もう、全部吹き飛べ。俺の平穏を邪魔をするものは全員死ねばいい。違う、そんなこと思っていない。やめろ。そんなことは望んでいない。本当に?

「ああ、ティア、ごめんなさい。私の封印、破られちゃった。このままじゃ……、止めないと」

「ダメなのです。主様はとびっきり楽しそうなのです。邪魔はさせないのです! 『ショット』」

 リリアンがオリヴィアを止めるべく、魔法を放つ。だが、その魔法がオリヴィアに当たることはなかった。

「それはこっちのセリフだ、妹よ」

 たった今空き家に到着したルシファーがオリヴィアを庇うようにリリアンの目の前に立ちはだかっていた。

「お兄様!? それにユースティア様!!」

 リリアンはルシファー達を視界に入れ、目を見開いた。そして、驚きを隠すように手を口元に当てた。

「パルウェ、リリアンの相手を頼んだ。僕はヒエロニウスを止める」

「うう、嫌ですけど、そんなこと言っている場合ではないですね。分かりました、行きますよ!!」

 半ば自暴自棄になりながらパルウェがリリアンに攻撃を仕掛ける。

 ルシファーも自身の言った通り、ヒエロニウスを止めるべく、ヒエロニウスの元へ向かった。

 この場に残ったのはオリヴィアとユースティアだけだった。

「オリヴィア、一緒にリアンを止めるぞ」

「ティア……。それはリアン君を殺すってことだよね?」

「そうだな」

「絶対殺さないといけないの?」

「情が移ったか。戦えないと言うなら戦線離脱しろ。お荷物はいらない」

 オリヴィアの表情が曇る。

「リアンと戦わない理由をつくってやろう。お前は、戦争している連中並びに後ろにいる者らを避難及び救護に当たるために戦線離脱する。それでいいだろう? それとも私と敵対するか? それこそ無駄死にだがな」

 オリヴィアは動いた。

 リアンを殺したくない以上に多くの人が死ぬのが嫌だったから。聖女としてやるべきことはやらなくては。逃げていることは分かっている。でも、ユースティアの言う通り、リアンに情が移ってしまったオリヴィアにはどうしても無理だった。

「ごめん、ティア。戦線離脱する。でも、もしリアン君が正気に戻ったらもう一度チャンスが欲しい」

「いいだろう」

 そう言ったユースティアは一瞬にしてこの場を去り、リアンの元へと向かった。

「ロジェ、私たちは逃げるよ」

「オリヴィア姉ちゃん……。ううん、何でもない。僕がみんなを守るからオリヴィア姉ちゃんはリュカ王子をお願い」

「分かった」
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