僕は幸せになるために復讐したい!

雨夜澪良

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三章 依頼任務

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 アヴァイル国とシネラリア国の戦争が開幕してからの始めての夜。アヴァイル国の城の研究室では問題が起こっていた。

「これは契約破棄ってことでいいんだよね? リュカ王子を逃がした以上この研究は期限までに完成しないんだから」

 話している口調とは裏腹に研究室内はこの男の殺気に包まれた。

「ヒエロニウス様、契約は必ず完遂して見せます。リュカ王子は早急に連れ戻しますので何卒少しお待ちいただきたい」

 この国の宰相であり、公爵のフローレス公爵は殺気に怯えながらも毅然と答える。

「どうして、俺が待たないといけないのかな? それに俺に指図するの? ダメだよ、そんなことしちゃ。それに俺が直々に迎えに行った方が早いしね。じゃあ、バイバイ」

 ヒエロニウスと呼ばれた男は笑顔で言うと公爵の心臓をくり抜いた。

「なぜ……」

 公爵から言葉は続かなかった。
 当たり前である。
 心臓をくり抜かれたことはもちろんのこと、とどめと言わんばかりに頭を踏み潰されたのだから。

「本当に最後までうるさいな。俺、約束を守らない奴は嫌いなんだよね」

「主様、汚いのです。もっときれいに殺さないと芸術的じゃないのです」

 そう言って研究室に入ってきたのはメイドの格好をした女の人だった。彼女は、フローレス公爵の残骸を見るなり、嫌そうな表情を浮かべた。

「リリアンか。ごめんね~。俺、芸術に興味ないからさ」

「む~。主様の強さには惹かれますが、やっぱり美しく殺さないのは私好きになれないのです」

 リリアンと呼ばれた彼女はスカートの裾を握りながら、顔をぷいっと横に向けた。そして呪文を唱え始める。   
 唱え終えると、死体は発火し始めた。

「はは、できるだけ善処するよ」

 ヒエロニウスは笑いながら、出来もしないことを言う。リリアンは呆れ顔を浮かべながら、「もういいです」と話題を変えた。

「これからどうするのです?」

「リュカ王子を迎えに行かないとね」

「私も行くのです。どうせ、主様はリュカ王子がどこにいるか分かっていないのです」

「正解。よく分かったね。じゃあ、一緒に行こうか」

「はいなのです」

 死体を燃やした炎は死体だけを燃やすと消え、研究室は暗闇に包まれたのだった。







 同時刻。

 研究室内を建物の屋上から覗いていた者がいた。彼女は赤い宝石に魔力を込め電話をつなぐ。

「ルシファー、ヒエロニウスが動いた。戦争には直接参加するわけではないようだ。何を企んでいるのかまでは分からなかった。あと、お前の妹リリアンもこっちに来ている」

『そうなんだ。あいつのことなんてどうでもいいよ。それより、僕もそっちきてもいい? ティアたんと一緒にいたいなあ』

「懲りないな。パルウェにあれだけ怒られたのに。こっちに来たら高確率で巻き込まれるぞ」

『だって、ティアたんが心配なんだもん。強いのは分かっているけどさ。
 それに結局、聖女の予言で僕があいつと戦うのは確定事項でしょ? 魔王城荒らされるより行った方がいいかなって』

『ルシファー様、何を言っているんでしょうか? まあしょうがないですね。あなたは止めても行く気でしょうし。だったら私も行きます』

『なっ、パルウェ。正気か。私のデートを邪魔する気か!』

『やっぱりそっちが本命ですか!! 抜け駆けは許しませんよ。ユースティア様は魔国のアイドル的存在なんですから。あなたに汚されてたまるか!』

 ユースティアは画面越しでケンカの様子をあきれながらに見ていた。

(またか。本当にもめてばかりだな)

「私はこのままヒエロニウスを尾行する。来るなら勝手に来い。レオナが魔王城に来るかも知れないから置き手紙は残しておいてほしい」

『分かったよ。ティアたん! すぐ行くから』

 電話が切れる。

(はあ、本当に元気だな。あいつらは。さて、尾行を続けるか)

 ユースティアは赤い宝石を異空間にしまうと、屋上から移動を始めた。





◆◇◆◇

 戦争が開幕してから零時を過ぎた頃。
 ルーカス王子のいる空き家にて、ルーカス王子のもう一人の側近が室内に入ってきた。

「ただいま戻りました」

「アドルフか。フローレス嬢は見つかったか?」

 アドルフに椅子に座るよう、ルーカス王子は催促し、本題を告げる。
 アドルフは頭を下げながら、椅子に座った。

「いえ、見つかりませんでした。少なくともシネラリア国内にはいないようです」

「私も、魔国の方を調べたんだがいなかった。それにアメリアもどこに行ったのか分からん。そのうち帰ってくるとは思うが。あのお転婆娘」

 怒りと心配の感情を落ち着かせるように白湯を一気飲みするルーカス王子を、アドルフはチラ見しながら、続きを話す。

「カーター男爵令嬢ならすでにこちらで見つけ、城で保護してもらいました。戦争の方は予定通りだと明後日には終わるが何か嫌な予感がするとハロルド王子が」

「兄上か。それで兄上は他に何か言っていたか?」

「リュカ王子の扱いはこのまま弟に任せると。それと首輪の件ですが、禁書庫にも載ってなかったそうです」

「そうか……。ご苦労。すまんな、お前にばかり動いてもらって」

「いえ、構いません。それでは引き続き、フローレス嬢の捜索、並びに戦争の様子を見てきます」

 椅子から立ち上がろうとするアドルフに「待て」と待ったをかける。アドルフは再び椅子に座ると、ルーカス王子の顔を不思議そうに見つめた。

「少しは休んでいけ。アドルフ自身が構わなくても私が気にする。今、飲み物持ってくるから。何がいい?」

「それなら自分で!!」

 勢いよく立ち上がろうとするアドルフを手で静止させる。

「座っていろ。たまには部下を労らせろ」

(アドルフは真面目すぎるからな。私が息抜きさせてやらないといつ倒れるか分かったもんじゃない)

「それではお言葉にあまえさせてもらいます。ルーカス様と同じ白湯で」

「分かった」

 長い間柄にも関わらず、よそよそしくなった状態になってしまった二人はしばしの静寂の後にお互い苦笑しあった。
 
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