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二章 異世界探索

エルフの里

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 城内の玉座の間にて。

「ねぇ、エドワード。あの人たちと手を組まなくてよかったの?」

 玉座に座っている男に寄りかかり話すのは金色の髪、緑色の目をしたこの国の第三王女であるエルフ。

「シア、その名前で呼ぶな。次、言ったら殺すぞ」

 エドワードと呼ばれた黒髪、黒目の男は殺気を放つ。

「そうね、今のはふざけすぎたわ。ごめんなさい、龍馬リョウマ

「ふん。あいつらの目的と俺の目的は一見、一致しているように見えるが違う。俺の目的はあいつに復讐することだからな。破壊することは手段に過ぎない」

 玉座に座る男は鼻を鳴らし、そう言った。

「そう。最後まで付き合うわ」

「お前こそいいのか。仮にも身内だろ」

 龍馬はシアがある一人の王子を国から逃したことを知っていた。だからこそ、これからやろうとしていることを邪魔しないかが心配だった。それにシアはあいつのことを――――――。

「えぇ、私はこの国がどうなろうとどうでもいいもの。私たちを認めてくれない世界なんて滅べばいい。あなたこそ私の邪魔はしないでね」

 笑顔で言ったシアの顔には狂気がはらんでいた。








 森に囲まれ、きれいな川に清涼感のある空気。どこか神聖さを思わせる風景がそこには広がっていた。

「ここがエルフの里ですか……。冒険者たちが言っていたようにのどかな所ですね。それにしてもみなさん普通っぽいですよね?」

 今は外套をかぶって顔を隠しているロジェから聞いていた情報と今の光景との食い違いに気づく。

「そうだね。城内の人だけがそうなのかな」

 オリヴィアさんも少し戸惑っていた。

「僕がここにいたときはみんなそうだったよ?」

 ロジェは信じてと言わんばかりの目で僕とオリヴィアさんを見つめる。うっ、まぶしい。そんなつぶらな瞳で見つめないで欲しい。僕が悪いことしているみたいな気分になる。

「とりあえず、里の人に話を聞いてみますか?」

「それが一番良さそうだね」

 そうして僕たちは里の人に話を聞いてみることにした。



「最近変わったことってありませんでしたか?」

「あら、旅の人かい? そうね~、第三王女に婚約者ができたことかしら。相思相愛らしくって、身分違いの恋が叶ったって若い子たちがはしゃいでたわ」

「その相手って誰か分かりますか?」

「最近冒険者になった人みたいよ? 噂ではあちこちで問題起こしていたらしいけど今は大人しくなったらしいわ。恋は人を変えるのね~」

 他の人にもこの調子で僕たちは話しかけていった。

「そんなに手がかりは得られませんでしたね」

 僕は紙にメモした今回得られた情報を見ていた。


 一、最近、第三王女が新人冒険者と婚約。

 二、最近周りに魔物がいないのはその新人冒険者が討伐しているから。

 三、王が病に伏せっているらしく、最近姿を見かけないこと。


「そうだね。多分これ以上住民聞いても手がかりは得られないと思うし宿にある新聞を見に行こうか」

「新聞、ですか?」

「うん。もしかしたら私たちがこの国に向かっている間に出た新情報が得られるかも知れない。国の姫との婚約は新聞に載ってもおかしくはないから」

「それもそうですね。行きましょう」

 姫の婚約とか絶対大々的に新聞に載りそうだし。というか絶対載るよね?

 それにしても前々から思っていたけどこの大陸は僕がいた大陸と文明レベルは同じかそれ以上な気がする。生活も不便がないし。機械類というか電子機器といえばいいのかな?はないけどそれの代わりに魔導具と呼ばれる物がそれを補っているから特段困ることなかったし。自然よりの暮らしといえばいいのかな。エルフの里はそれが顕著な気がする。

 そうして僕たちは宿へと向かった。

「ようこそいらっしゃいました。何名様のご来店でしょうか?」

「三名です」

 オリヴィアさんは指で三のポーズをとりながらそう言った。

「部屋はどうします? それと何泊の予定ですか?」

「一部屋でお願いします。それと三泊の予約でお願いします。もしかしたらそれより前後するかも知れませんが代金はすべて払わせてもらいます」

 えっ、大丈夫なの。その、オリヴィアさんは仮にもれっきとした女の人で男女同じ部屋とかその何か起こるかもしれないし。僕にはそんなことする度胸とかはないんだけどね。

 僕の顔に熱が集まる。それを隠すように手で顔を覆った。

「あらあら、ご家族でのご来店だったかな。それにしてもそこの僕、ウブだね」

 家族、家族って。

 僕の顔がもっと赤く染まる。それに体まで赤くなってる気がする。落ち着け、僕。心頭滅却だ。心頭滅却、心頭滅却、心頭滅却。

「これが部屋の鍵です。あちらの奥になります。ロビーのスペースの飲み物はご自由にお飲みください。そちらにある新聞や雑誌もご自由に閲覧できます。部屋にも一応新聞は置いてあります」

「分かりました――リアン君、とりあえず部屋に荷物を置きに行こうか」

「はい……」

 オリヴィアさんは僕の返事を聞くとロジェの手を引いてそのまま部屋へと歩き出した。

 僕、大丈夫かな。寝られない気がする。

 





「リアン君、何が飲みたい? 私、飲み物取ってくるよ」

「それじゃあ、お言葉に甘えて。オレンジジュースでお願いします」

「分かった。ロジェは?」

「僕もオレンジジュースがいいな」

「行ってくる。リアン君、ロジェをよろしく」

「はい」

 どっ、どっ、どうしよう。このままじゃ本当に同じ部屋だよ。

「リアン兄ちゃん、その一緒に遊びたいな。そこにあるトランプで」

 トランプなんて部屋にあったのか。気づかなかった。珍しいな、部屋にトランプ常備しているなんて。それとも前の客の落とし物?

「いいよ。遊ぼっか」

 ロジェもいるんだ。僕、しっかりしなきゃ。お兄さんだもんね。

「え、なんで」

「リアンお兄ちゃん、あのね、言いにくいんだけど全部顔に出てるよ?」

「嘘」

「本当だよ」

「あはは、負けちゃったか」

「ただいま」

「帰ってきたんですね。オリヴィアさん」

「何やっているの?」

「ババ抜きです。久しぶりにやりました。ロジェに負けてしまいましたけど」

 僕は笑いながらそうオリヴィアさんに言った。ちょっと情けないや。子供相手だからわざと負けたんじゃないからなおさら。素の実力で負けるなんて。そういえば僕、絶対勝てないからババ抜きしなくなったんだった。スピードは得意なんだけどなあ。

「これ、飲み物」

「あっ、ありがとうございます」

「ロジェも」

「ありがとう」

 オリヴィアさんは飲み物を渡し終わるとベットに座った。イス、僕たちが占領しちゃってるからしょうがないと言えばしょうがないんだけど。僕、男として見られてないのかな。

「新聞もう一つもらってきた。この部屋には一つしかないみたいだから。それとリアン君にはこれを」

 これは翻訳してくれる魔導具。新聞は英語で書かれているらしいけど、僕新聞はさすがに読めないしな。ありがたい。

「ありがとうございます」

 そうして僕たちは飲みながら新聞を読み始めた。

 婚約、婚約っと。ん?僕が見逃しただけかな?

 ――――ない。婚約という文字がどこにもない。

 えっと、じゃあ、王様と新人冒険者は……。あった。新人冒険者だけ。


 最近、期待のルーキーが現れた!!
 なんとギルドに入って初日に魔物を十匹討伐。数字だけ見たらたいしたことないと思うでしょ? それがなんと倒した魔物は全てがBランク以上。しかもソロということです。これは今後の快進撃も見逃せません!! 皆さん、真似はしてはいけませんよ? 応援だけしておきましょう。
 続いては――――――


 この新人冒険者のことかな。住民が言っていた新人冒険者って。十中八九そうだと思うんだけど、僕だけかな。名前は、リョーマ。男だしなおさら可能性が高くなった。アンさんが新人冒険者がこの辺で暴れまわっているっても言ってたし。それにしてもこの名前、もしかして日本人? そんなわけないか。リンさんもこう言ってたし。

『貿易はしているがほとんどこの土地に住む人はいない。迫害される恐れがあるからな。逆も人族以外はいない。といっても人族もほとんどいないと言っていいレベルだ』

 うん、僕の気のせい、気のせい。
 
 これ以上、情報は得られないかな。

 僕はオリヴィアさんの方を見た。オリヴィアさんはすでに読み終わっているようだった。
 

「オリヴィアさん、なんか分かりましたか? 僕はこの新人冒険者が住民の言っていた新人冒険者かなってぐらいしか分からなかったです」

「私もそう思う。お互い、得られた情報は同じみたいだね」

「オリヴィアさんもそうなんですね。情報から察するにこの冒険者相当強いですよね? ただ者じゃないというか」

「私も同意見。――――ロジェ、王が病に伏せっているのは本当?」

 僕はいつの間にかオリヴィアさんの膝の上に乗っているロジェの方に視線を向ける。

「そんなことないと思うよ? 僕、ここにいたときよく遊んでくれたし、どこも悪くないように見えたなぁ」

 そう言ったロジェはなんだか眠そうだった。

 もう八時をまわった頃だし、子供は寝る時間だよな。

「明日、王を尋ねてみようか」

「急に行けるものなんですか?」

 王との謁見とかって予約制じゃなかったけ? それに僕たち王様と知れてる仲って訳でもないと思うんだけど……。

「ちょっとしたコネがあるから、大丈夫」

 オリヴィアさんはロジェをベットに運びそのままベットに寝かせた。

 一応ベットは二つあるけど。やっぱりこのまま寝るわけにもいかないよな。

「オリヴィアさん。あの、今頃言うのも悪いんですが部屋、同じはさすがにアウトじゃないかなって」

「別の部屋だとリアン君を守り切れない。私にリアン君を守らせて?」

 うっ、それもその通りだ。一応敵地なのかもしれないし、そうじゃないかもしれないけど。まだ判断材料が少なすぎる。オリヴィアさん、最初からそう考えていたんだ。僕、そんなことさっきまで頭になかったや。

「分かりました。その、ありがとうございます」

 オリヴィアさん、急に言動がイケメンになるというかなんというか。さりげなく守ろうとしてくれるところ僕も見習いたい。そうなれるように僕も頑張らなくちゃ。
 
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