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二章 異世界探索
旅の道中 前編
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「オリヴィアさん、本当にここを通るんですか?」
僕はこれから通るであろう道を見て顔を引きつらせる。
僕の目の前に広がっているのは薄暗い森である。それになんだか空気が重い感じがする。
これ絶対幽霊と遭遇したり、殺人現場とかになっていたりしてそう。そして地面に死体が埋まっているとか……。
やめだ。やめ。考えただけで鳥肌立ってきた。違うこと考えよう。とりあえず深呼吸だ。落ち着け僕!
「ここを通らないとエルフの里にはたどり着けないよ?」
そんな僕の考えていることを知らないオリヴィアさんは不思議そうにきょとんとしていた。
オリヴィアさんは怖くないのか!? 僕は怖いんだけど。それに苦手な虫とかいそうだし……。でもここからしか行けないみたいだししょうがないか。
「そうですか……。その、もしかしたら僕、道中うるさいかも知れないですけど気にしないでください……」
僕は覇気がない声でそうオリヴィアさんに言った。悲鳴上げることがないといいんだけど……。
「そう? じゃあ、森に入ろうか? ――ロジェ、しっかりつかまってて」
オリヴィアさんはロジェを抱きかかえ、魔法で自分に身体強化をかけた。そして再び振り向いて僕と目線を合わせた。
「それと、リアン君、君はまだ自分で身体強化を完璧にかけることができないから練習だと思って今日は一人で身体強化をかけてみて。失敗しても回復してあげるから」
『身体強化』
ここの住民は少しでも怪我をしないように身体強化をかけて森に入ったり、魔物を討伐したりするらしい。そして人と戦うとき、ほとんどの人が身体強化をかけているそうだ。そう僕が裏ギルドで訓練しているときに聞いた。でも僕は今だに身体強化を上手く扱えない。
大抵みんな子供の時に練習して使えるようになることが多いらしい。その方が身体強化が当たり前の動作になり使うのが容易になるのと魔力がまだ少ない内の方が安全だからだそうだ。体が身体強化になれるっていうのもあるらしい。でも僕は16でここに来たからそう上手く使えず苦戦している。
魔力を入れすぎると下手したらそこの部分の骨が砕けたり魔力を込めた部分が吹っ飛んだりするらしい。僕はそこまでなったことはないけど骨に罅が入ったことはある。うん。忘れよう。
「分かりました」
そして僕たちは森へと足を踏み入れた。
森に足を踏み入れて数時間が経過した。
僕の息は上がっていた。ただ走った訳じゃなく歩いただけなのだが汗をかいてしまった。服脱ぎたい。
「少し、休憩しようか? 丁度ここに丸太があるしそこに座ろう」
そう言ったオリヴィアさんは丸太の上にロジェ君を座らせその隣に座った。僕もその隣に座る。
「リアン君、身体強化、前より上手くなったね。でも持続できないみたいだね?」
オリヴィアさんはそう言いながら水筒の水をコップに注ぎ、ロジェ君と僕に渡した。
「原因は分かっているんです。でも、体の動きに合わせて魔力を入れる時にどうしても一つ一つの動きに気をつられてつなぎの動作のときに魔力をそこの部位に入れるのが難しくて……」
オリヴィアさんは僕の顔に流れる汗をタオルでやさしく拭いてくれた。近い!! 恥ずかしい。もっと汗でそう。うれしい、うれしいんだけど!! 僕にはちょっと刺激が強すぎるというか。
「リアン君はすごいと思うよ。みんな子供の時からやっていたから簡単に見えるけど大人になってから習得するのはとてつもなく大変。それをこの短期間で完成まで近づきつつある。それは誇ってもいいと思うよ」
「そうですかね。僕、少しは成長していますかね?」
「そこは私の折り紙付き。――ところで、リアン君はハードルやったことある?」
いきなり何だろう? どうしてハードルの話?
「やったことありますよ?」
「ハードルを越えるとき右足で踏み切って飛んで次は右足を前に出してって考えながら跳んでる?」
「いえ、そんなこと考えず跳んでいます」
「つまりそういうこと」
「どういうことですか?」
「リアン君は考えすぎだってこと。それと無意識だと思うけど、普通の身体強化を最大限までしようとしているから持続できないんだと思う。体がまだ身体強化になれてないのにそれ以上にしようとするから体がそれを拒否ってる」
「体が拒否る……」
「少量の魔力を薄く体に伸ばしてみて。そのとき深く考えないで。そしたら今のリアン君ならできると思う」
「それだと身体強化の効果がそれほどでませんよね?」
そうなのだ。それじゃあ、身体強化の効果が薄れる。自分の最高のパフォーマンス時の身体能力を維持できるだけなのだ。それもすごいことではあると思うけどそれじゃあ僕は弱いままだ。
「焦らないで。焦りは成長の邪魔をするだけ。身体強化をさっきのまま数時間維持できたら、リアン君がやっていた部分的に魔力の入れる量を変えて技の威力をかえる方法を教えてあげる」
「分かりました。僕、やってみます」
「うん。頑張って。――そろそろ移動しようか。ロジェもリアン君も水飲み終わったみたいだし」
移動しようと僕たちが立ち上がろうとしたとき近くで魔物の雄叫びがこだました。
僕たち3人は思わず耳を塞ぐ。うるさい。めっちゃ大音量。黒板を爪で引っかいた時の音ぐらい嫌な音!!それになんだか人の声も混じって聞こえたような気がする。
「この声、ランクが高い魔物。それに人が多分襲われている」
やっぱり気のせいじゃなかったんだ。僕だけ聞こえてたら幽霊だったよね、確実に。良かった、幽霊じゃなくて。
オリヴィアさんは荷物をそのまま丸太の近くに置いたまま魔物のもとへと走り出してしまった。
僕は慌てて荷物を持ち、ロジェ君を連れてオリヴィアさんを追いかけた。
オリヴィアさん相当焦ってる気がする。どのくらい強い魔物なんだろ……。
そうこうしているうちに僕はオリヴィアさんに追いついた。そして――
「ガァァァァァァァァァァァ――――?!」
オリヴィアさんの蹴りが魔物の腹に食い込んでいる光景を目のあたりにした。うわ、痛そう。でもオリヴィアさんの蹴りを食らっても血が出てない。ただへこんでいるだけだ。
それでもすごいんだけど、オリヴィアさん別に手を抜いたとかじゃないと思うんだよな。だからきっとあの魔物、相当硬いんだろうな。
そう思っているとオリヴィアさんの後ろに冒険者らしき人がいるのに気づいた。怪我してる。それにオリヴィアさんが戦っている魔物以外に他の気配が近づいている気がする。――まずい、冒険者らしき人たちの後ろに別の魔物が近づいてきている。
「ロジェ君はこの木の後ろに隠れて待っていて」
走り出しながら僕はロジェ君にそう言い残した。
銀色の一線が魔物の首を紙切れのように切断する。
間に合った。良かった。――でも、一匹だけじゃない!! オリヴィアさんがあの魔物に集中できるように僕はこっちの魔物を片づけよう。
「この人たち、強い!!」
「ああ、強すぎる。A級冒険者か?」
「あの魔物相手にここまで?!」
三人の冒険者の瞳が驚愕に染まる。
残り三体。大丈夫、行ける。
三……、二……、一……
戦闘終了。僕は息を整え、剣を鞘に収めようとしたそのとき―――
「うわぁぁぁぁ!!」
木の陰に隠れていたロジェの悲鳴が鳴り響く。魔物を倒し終わったオリヴィアさんや冒険者たちの焦りの表情がこちらを向いた。
このままじゃあまずい、間に合わない。だったら魔法しかない。
僕はロジェ君の元に走り出しながら魔法の言葉を紡いだ。
『ショット』
指から黒い球が魔物に向かって銃弾のごとく放たれる。合計五発。
五発全て命中し魔物は絶叫を上げ、動きを鈍らせた。
その隙を僕は見逃さなかった。
容赦なく懐に入り剣撃を見舞わせた。肉の断ち切る音がこの場を支配する。
魔物は僕の剣撃についてこられず、絶叫をあげ、体から噴水のごとく血を噴き出した。
まだ生きてる!! 生命力が強いのか!! でも出血多量で事切れるまで僕が耐えきれば僕の勝ちだ。
――終わった。今度こそ終わった。
僕は大きく息を吐き、剣に付着した血をなぎ払った。魔物との討伐はさっきの道中で少しやったけどほとんどこの魔物たちより弱かったから少し焦った。人とはたくさん戦ったことあるけどさすがに魔物だと勝手が違うし。
そう考えながら剣を鞘にしまうと後ろからロジェ君が抱きついてきた。よっぽど怖かったんだろうな。トラウマにならないといいけど。
僕はそんなロジェ君の背中をなでた。あのときオリヴィアさんがやっていたみたいに。そしたらロジェ君の涙腺が崩壊したかのように大粒の涙が緑の瞳からこぼれ落ちた。
その間、ここ一帯はロジェの嗚咽だけが鳴り響いていた。
僕はこれから通るであろう道を見て顔を引きつらせる。
僕の目の前に広がっているのは薄暗い森である。それになんだか空気が重い感じがする。
これ絶対幽霊と遭遇したり、殺人現場とかになっていたりしてそう。そして地面に死体が埋まっているとか……。
やめだ。やめ。考えただけで鳥肌立ってきた。違うこと考えよう。とりあえず深呼吸だ。落ち着け僕!
「ここを通らないとエルフの里にはたどり着けないよ?」
そんな僕の考えていることを知らないオリヴィアさんは不思議そうにきょとんとしていた。
オリヴィアさんは怖くないのか!? 僕は怖いんだけど。それに苦手な虫とかいそうだし……。でもここからしか行けないみたいだししょうがないか。
「そうですか……。その、もしかしたら僕、道中うるさいかも知れないですけど気にしないでください……」
僕は覇気がない声でそうオリヴィアさんに言った。悲鳴上げることがないといいんだけど……。
「そう? じゃあ、森に入ろうか? ――ロジェ、しっかりつかまってて」
オリヴィアさんはロジェを抱きかかえ、魔法で自分に身体強化をかけた。そして再び振り向いて僕と目線を合わせた。
「それと、リアン君、君はまだ自分で身体強化を完璧にかけることができないから練習だと思って今日は一人で身体強化をかけてみて。失敗しても回復してあげるから」
『身体強化』
ここの住民は少しでも怪我をしないように身体強化をかけて森に入ったり、魔物を討伐したりするらしい。そして人と戦うとき、ほとんどの人が身体強化をかけているそうだ。そう僕が裏ギルドで訓練しているときに聞いた。でも僕は今だに身体強化を上手く扱えない。
大抵みんな子供の時に練習して使えるようになることが多いらしい。その方が身体強化が当たり前の動作になり使うのが容易になるのと魔力がまだ少ない内の方が安全だからだそうだ。体が身体強化になれるっていうのもあるらしい。でも僕は16でここに来たからそう上手く使えず苦戦している。
魔力を入れすぎると下手したらそこの部分の骨が砕けたり魔力を込めた部分が吹っ飛んだりするらしい。僕はそこまでなったことはないけど骨に罅が入ったことはある。うん。忘れよう。
「分かりました」
そして僕たちは森へと足を踏み入れた。
森に足を踏み入れて数時間が経過した。
僕の息は上がっていた。ただ走った訳じゃなく歩いただけなのだが汗をかいてしまった。服脱ぎたい。
「少し、休憩しようか? 丁度ここに丸太があるしそこに座ろう」
そう言ったオリヴィアさんは丸太の上にロジェ君を座らせその隣に座った。僕もその隣に座る。
「リアン君、身体強化、前より上手くなったね。でも持続できないみたいだね?」
オリヴィアさんはそう言いながら水筒の水をコップに注ぎ、ロジェ君と僕に渡した。
「原因は分かっているんです。でも、体の動きに合わせて魔力を入れる時にどうしても一つ一つの動きに気をつられてつなぎの動作のときに魔力をそこの部位に入れるのが難しくて……」
オリヴィアさんは僕の顔に流れる汗をタオルでやさしく拭いてくれた。近い!! 恥ずかしい。もっと汗でそう。うれしい、うれしいんだけど!! 僕にはちょっと刺激が強すぎるというか。
「リアン君はすごいと思うよ。みんな子供の時からやっていたから簡単に見えるけど大人になってから習得するのはとてつもなく大変。それをこの短期間で完成まで近づきつつある。それは誇ってもいいと思うよ」
「そうですかね。僕、少しは成長していますかね?」
「そこは私の折り紙付き。――ところで、リアン君はハードルやったことある?」
いきなり何だろう? どうしてハードルの話?
「やったことありますよ?」
「ハードルを越えるとき右足で踏み切って飛んで次は右足を前に出してって考えながら跳んでる?」
「いえ、そんなこと考えず跳んでいます」
「つまりそういうこと」
「どういうことですか?」
「リアン君は考えすぎだってこと。それと無意識だと思うけど、普通の身体強化を最大限までしようとしているから持続できないんだと思う。体がまだ身体強化になれてないのにそれ以上にしようとするから体がそれを拒否ってる」
「体が拒否る……」
「少量の魔力を薄く体に伸ばしてみて。そのとき深く考えないで。そしたら今のリアン君ならできると思う」
「それだと身体強化の効果がそれほどでませんよね?」
そうなのだ。それじゃあ、身体強化の効果が薄れる。自分の最高のパフォーマンス時の身体能力を維持できるだけなのだ。それもすごいことではあると思うけどそれじゃあ僕は弱いままだ。
「焦らないで。焦りは成長の邪魔をするだけ。身体強化をさっきのまま数時間維持できたら、リアン君がやっていた部分的に魔力の入れる量を変えて技の威力をかえる方法を教えてあげる」
「分かりました。僕、やってみます」
「うん。頑張って。――そろそろ移動しようか。ロジェもリアン君も水飲み終わったみたいだし」
移動しようと僕たちが立ち上がろうとしたとき近くで魔物の雄叫びがこだました。
僕たち3人は思わず耳を塞ぐ。うるさい。めっちゃ大音量。黒板を爪で引っかいた時の音ぐらい嫌な音!!それになんだか人の声も混じって聞こえたような気がする。
「この声、ランクが高い魔物。それに人が多分襲われている」
やっぱり気のせいじゃなかったんだ。僕だけ聞こえてたら幽霊だったよね、確実に。良かった、幽霊じゃなくて。
オリヴィアさんは荷物をそのまま丸太の近くに置いたまま魔物のもとへと走り出してしまった。
僕は慌てて荷物を持ち、ロジェ君を連れてオリヴィアさんを追いかけた。
オリヴィアさん相当焦ってる気がする。どのくらい強い魔物なんだろ……。
そうこうしているうちに僕はオリヴィアさんに追いついた。そして――
「ガァァァァァァァァァァァ――――?!」
オリヴィアさんの蹴りが魔物の腹に食い込んでいる光景を目のあたりにした。うわ、痛そう。でもオリヴィアさんの蹴りを食らっても血が出てない。ただへこんでいるだけだ。
それでもすごいんだけど、オリヴィアさん別に手を抜いたとかじゃないと思うんだよな。だからきっとあの魔物、相当硬いんだろうな。
そう思っているとオリヴィアさんの後ろに冒険者らしき人がいるのに気づいた。怪我してる。それにオリヴィアさんが戦っている魔物以外に他の気配が近づいている気がする。――まずい、冒険者らしき人たちの後ろに別の魔物が近づいてきている。
「ロジェ君はこの木の後ろに隠れて待っていて」
走り出しながら僕はロジェ君にそう言い残した。
銀色の一線が魔物の首を紙切れのように切断する。
間に合った。良かった。――でも、一匹だけじゃない!! オリヴィアさんがあの魔物に集中できるように僕はこっちの魔物を片づけよう。
「この人たち、強い!!」
「ああ、強すぎる。A級冒険者か?」
「あの魔物相手にここまで?!」
三人の冒険者の瞳が驚愕に染まる。
残り三体。大丈夫、行ける。
三……、二……、一……
戦闘終了。僕は息を整え、剣を鞘に収めようとしたそのとき―――
「うわぁぁぁぁ!!」
木の陰に隠れていたロジェの悲鳴が鳴り響く。魔物を倒し終わったオリヴィアさんや冒険者たちの焦りの表情がこちらを向いた。
このままじゃあまずい、間に合わない。だったら魔法しかない。
僕はロジェ君の元に走り出しながら魔法の言葉を紡いだ。
『ショット』
指から黒い球が魔物に向かって銃弾のごとく放たれる。合計五発。
五発全て命中し魔物は絶叫を上げ、動きを鈍らせた。
その隙を僕は見逃さなかった。
容赦なく懐に入り剣撃を見舞わせた。肉の断ち切る音がこの場を支配する。
魔物は僕の剣撃についてこられず、絶叫をあげ、体から噴水のごとく血を噴き出した。
まだ生きてる!! 生命力が強いのか!! でも出血多量で事切れるまで僕が耐えきれば僕の勝ちだ。
――終わった。今度こそ終わった。
僕は大きく息を吐き、剣に付着した血をなぎ払った。魔物との討伐はさっきの道中で少しやったけどほとんどこの魔物たちより弱かったから少し焦った。人とはたくさん戦ったことあるけどさすがに魔物だと勝手が違うし。
そう考えながら剣を鞘にしまうと後ろからロジェ君が抱きついてきた。よっぽど怖かったんだろうな。トラウマにならないといいけど。
僕はそんなロジェ君の背中をなでた。あのときオリヴィアさんがやっていたみたいに。そしたらロジェ君の涙腺が崩壊したかのように大粒の涙が緑の瞳からこぼれ落ちた。
その間、ここ一帯はロジェの嗚咽だけが鳴り響いていた。
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