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第一部 一章 平凡な日常

ある酒場にて (主人公の裏側サイド)

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 寝静まった時間。ガザニア国の裏通りにひっそりとある酒場。そこに入る人影が――――

 カランカラン

「あら、久しぶりね~。ここに来たのは半年ぶりじゃないかしら」

 ここの酒場のオーナーがユースティアを笑顔で迎える。

「そうだな。最近忙しかったし」

「いつものコーヒーでいい?」

「いや、今日は酒を飲みたい。おすすめのカクテルはある?」

(あら、珍しい。いつも酒場に来るとコーヒーばかり飲んでる変人なのに)

「そうね、ジンバックなんかどう?」

「カクテルに詳しくないし、任せるよ」

 ユースティアは肩をすくめて言った。


 
 そっと席の前にカクテルが置かれる。

 オーナーが目の前に座り、お互い乾杯をする。

「今日は、情報をもらいに来たんだ」

 コップと氷がぶつかってカタンという音が鳴った。

「友達だけど、ただって訳にはいかないわ。私も商売だしね?」

「ああ、分かってる。だが、今回は金ではなく、情報交換で頼む」

「ええ、いいわよ。魔族の売買の件よね?」

「ああ、そうだ」

「今回のオークションで、レオナに殺された冒険者は下っ端よ。リンが殺した人が表向きの首謀者だけど、道化師に乗せられていたところがあったわね」

「道化師についての情報は?」

「たいした情報は手に入ってないわ。ビルで道化師の格好の男が高笑いしていたっていう目撃証言はいくつかあるけど、信憑性はないわね」

「そうか……」

 少し残念そうな顔がカクテル表面に映し出される。

「人間の国が魔族の売買に関わっているって話は知っているかしら?」

「それは知ってる。それがどうかしたのか?」

「勇者と魔王の戦いで一度は決着がついたのだけど、まだ条約が結ばれてないみたいなの。それと関係しているかわからないけど少しきな臭くなっているわ。もしかしたら禁忌に手を染めたんじゃないかって言う人もいたわ。そのための魔族の売買。生け贄じゃないかって」

「確かめておこう」

「あなたからの情報は何かしら?」

「別世界からの転生者の情報だ。最近、そいつが騒ぎを起こしているのは知っているだろう?」

「ええ」

「別世界では一匹狼だったんだが、こっちの貴族に転生してからはやりたい放題やっている」

「力に溺れたのかしらね」

「騒ぎを起こすのは多めに見ても今回のはやり過ぎだ」

「今回の?」

「エルフの里を襲撃するだけに飽き足らず、王を洗脳してハーレムを築いている」

「なあ?! それちょっとやばくない? そこを管轄している四天王は確かアーベントだったわよね? いったい何してるのよ……」

 オーナーの顔には驚きとあきれが混じっていた。

「アーベントはマイペースだからな」

「いやいやいや、あれはマイペースじゃあ…………。ただめんどくさがりなだけでしょ」

「私からは以上だ」

 オーナーはため息をつくと、疲れたような表情を浮かべ言った。

「はああ、こんな話聞きたくなかったわ。それにこの情報、私のより価値があるじゃない。いいわ、今回のカクテル代と次の情報提供は無料にしてあげるわ」

「ありがとう」

 そういったユースティアはいたずらが成功した笑みを浮かべ闇夜に姿を消した。
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