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第一部 一章 平凡な日常
就職しよう
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出された朝食を見ると普段僕が食べているものと変わらないみたいだった。もっとやばいもの出されたらどうしようと思ったから少し安心した。
一口食べてみる。何これ、ものすごくふわとろなオムライスだ。めちゃくちゃ美味しい。これリンさん作ったんだよな。プロ並みじゃん! オリヴィアさんがたくさん食べたくなるのもうなずける。
お腹がすいていたせいであっという間に食べ終わってしまった。そういえばリンさんは食べてないよな。食べないのかな。
「リンさんは食べないんですか?」
「俺は朝はいいんだ」
「そうですか」
なんかリンさんから悲しそうな雰囲気がする。気のせいかな……。
リンさんは僕の食べた皿を洗い終わるとオリヴィアさんの隣に座った。そして真剣な目をしてこれからの希望を聞いてきた。
「リアンはこれからどうしたい?」
オリヴィアさんはそんなリンさんに膝枕されていた。
かわいい。僕もしたい。いや何を考えているんだよ! 下心満載じゃないか。
リアンは脳内で自分で自分に突っ込みを入れていた。
今はそう思っている場合じゃないだろ僕!
「僕は元の場所にできれば戻りたいです。できないならできないなりにこの地で自分の足で生きたいです。――――つまりどこかに就職したいです。家なし無一文は嫌です」
僕は最後本音をもらしてしまった。そうなんです。僕今家なし無一文なんです。このままじゃ知らない土地でホームレス。自分が死ぬ未来しかみえない!!
「就職先に希望はあるか? ――って言ってもどんな仕事があるか分からないか……」
「そうですね。それに僕ものすごく頭いいとかでもないですしね」
自分で言っていて何か落ち込んだ。でも学生にできることなんてたかが知れてるよね。多分。僕だけじゃないはず!
「私が拾ってきたから私が面倒みる。だから私たちと同じ職場の方が何かと都合がいい」
オリヴィアさんが起き上がり僕に視線を向ける。あれ、これガン見されてる?
僕の顔に熱が集まる。落ち着かない。なんか気分的には推しに見つめられている感じ。かわいい。ダメだ。語彙力も低下してる。
「猫じゃないんだから言い方もっとどうにかできなかったのか」
リンさんはオリヴィアさんにあきれている様子を見せる。それに対しオリヴィアさんはきょとんとした顔をしていた。リンさんのため息がもれる。
「まあいい。オリヴィアの言うとおり俺たちと同じ職場の方がいいか。リアンは何も知らないだろうしな。――ただ試験に受けて合格してもらわないとダメだ」
「分かってる。試験相手は私がする」
「本気出すなよ」
「うん」
僕は話にいまいちついていけずおそるおそる手を上げて聞いてみる。
「あの、職場って……。それに試験って何をするんですか?」
「俺たちの職場は裏冒険者ギルドだ」
裏冒険者ギルド? 冒険者ギルドじゃなくて?
意識がある状態で外に出るのは初めてだな。なんか雰囲気的にはイタリアに近いかも。写真とかアニメのモデルとしてしか見たことないから実際はもっと違うのかも知れないけど。あと空気がおいしい。
「リアン、やっていた習い事とか得意なことあるか?」
僕は周りの雰囲気に浸りながら歩いていたせいで遅れていることに気づいた。僕はリンさんとオリヴィアさんの元に急いで走った。
「運動が得意かな。人よりはできると思う。自分でいうのもなんだけど。勉強の方はあまり得意じゃないかな。それにまだ十六歳だし」
「十六歳なのか。もっと下だと思っていた。背もそんなに高くないし」
僕はイラッとした。
僕にとって身長の話はタブーである。ものすごく気にしてる。気にしすぎて牛乳を毎日欠かさず飲んでいるぐらいだ。レオナぐらい身長があったらと何度考えたことか。
「チビだと言いたいのか。これでも僕は頑張って牛乳飲んでるんだぞ!」
あ、やば。怒りで思わずため口きいてしまった。おそらくリンさんは僕より年上だし助けてもらった人だし。礼儀はわきまえないといけなかった。
僕は自分の行動にしゅんとする。
リンさんは気にしていないどころか僕に気をつかってくれた。
「今の口調が素だろう。無理して俺らに敬語使わなくてもいい」
「ありがとう」
リンさんってものすごくモテる人では? 真面目で心が広い人な気がする。まだ会って間もないからまだ断言はできないけど。
「ここが試験場及び訓練場だ。リアンは運動が得意らしいから戦闘員の試験でいいだろう。オリヴィア」
「うん。分かってる。一応聞いておくけどボスには伝えたんだよね?」
「ああ、伝えてある。審判は俺だ」
「了解。とりあえずリアン君は、武器はまだ使えないと思うし、こっちからは攻撃しない。その代わり私に触れたら合格」
「あの、僕、部活、剣道部でした。だから竹刀みたいなのがあれば戦えると思います」
僕は中学から剣道部だった。だから武器が使えないとは言い切れない。
「分かった。リン、木刀もってきて」
そう言うとオリヴィアさんはポケットから手袋を取り出し身につけた。
リンはオリヴィアの指示に従い訓練場の武器庫から木刀を持ってきてリアンに渡した。
「これでいいか?」
「大丈夫です。ありがとう」
僕は木刀を持ったがオリヴィアさんは何も武器を持っていない。恐る恐るオリヴィアさんに尋ねてみた。
「あの。オリヴィアさんは武器なにか持たなくていいんですか? 女性の方ですし僕だけがもっているのも……」
言葉を最後まで紡ごうとしたがオリヴィアさんから不機嫌オーラを感じ何も言えなくなった。
「私が弱いと言いたいの?」
怒らせた?! なんかドスの聞いた声だし!! ひえ、僕、オリヴィアさんの地雷踏んじゃった!?
「そんなこと滅相もありません」
美人が怒ると怖い。もしかしてこの後僕ボコボコにされるんかな。
「試験時間は十分。今回は武器を持っているから両方とも攻撃は有りだ。その上でオリヴィアに触れるもしくはリアンが戦闘不能なったら試合終了。始め」
リンの合図とともに試合が始まった。
オリヴィアさんが先に仕掛けてきた。速い!! そして一つ一つの拳が重い。
「っ!」
このままじゃ攻撃に転じるどころか防御すら危うい。
まずい!! この一撃食らったら絶対木刀折れる。
僕はその一撃をまともに食らうまいと後ろに飛んだ。だがこれでも拳の威力が完全に消えてくれなかった。
木刀を握っていた手がさっきの一撃で痙攣する。それにオリヴィアさんの気迫に飲まれてる。このままじゃオリヴィアさんのペースに持ち込まれるのは必然。
「リアン君、もう少し本気を出そうか」
核心を突かれた言葉に冷や汗が止まらない。ただでさえさっき怒らせちゃったのに……。
「はい」
オリヴィアさんはゆっくりと僕に向かって静かに歩いてくる。
僕は正直さっきまで手を抜いていた。いつもの部活中みたいに。こう言うと嫌な奴に思えるかも知れない。
僕は昔、師匠に言われたことがある。『これから全力でやってはいけないよ。リアンが人を殺したくないならね。――そうだな、みんなのレベルがどのくらいか確かめておいで』
そして僕は剣道を始めたのだ。師匠、僕、師匠以外で全力を出しても殺す心配がない相手に巡り会うことができました。
僕はオリヴィアさんに向かって一気に距離を詰める。縮地と呼ばれるものだ。
オリヴィアさんが一瞬驚いた顔を見せた。しかし僕の一撃を躱し後ろに跳躍した。
「やっぱりまだほとんど力を出してなかったんだね」
僕は剣道の構えをやめ師匠に習った構えをとる。
「僕、迷っていたんです。でも迷うのはもうやめにします」
日和さんに襲われた時もそうだった。竹刀を持っていなかったのもあるけど僕は怖かったのだと思う。万が一でも人を殺してしまうんじゃないかって。でも今は考えないことにする。
「速い。でもこれじゃあ足りない」
「本当にそうですか?」
オリヴィアさんが僕の一撃目を受け止めようとしたがそこには何もなかった。
「これは残像!!」
オリヴィアさんが少し焦った表情を見せた。
一撃目は残像。二撃目は今!
「なっ、躱された。絶対に死角だったはずなのに……」
「すごいね。でも戦闘練れしてないね」
さっきの焦った表情、わざとだったのか。もしかして読まれてた?
だったらこれ以上攻撃しても無意味だ。僕は時間内にオリヴィアさんに触ることは不可能に近い。それにオリヴィアさんはおそらく本気を出してすらいない。
僕は両手を挙げ降参のポーズを取った。
「参りました」
「試合終了。リアンの降参により勝者オリヴィア」
リンさんは僕の言葉を聞き、すぐに試合終了の合図を出した。
「オリヴィア、少し大人げないぞ。まあでもオリヴィアの攻撃を受け切れた。合格だ」
落ち込んでいた僕は顔を上げ、目を見開く。
「えっ、待ってください。オリヴィアさんもリンさんも触れたら合格だって。僕、触れてませんよ!!」
「あれは嘘だ。そうしないと大抵の者は緊張感がなくなるからな。この程度でいいだろうと勝手に解釈する。そもそもオリヴィアに勝てるものはそんなに多くない」
「合格…………よかった」
全身の神経が研ぎ澄まさないといけない状況から安堵したことにより足に力が入らなくなってしまった。
「リアン、手を貸す。次はボスの下に行く。オリヴィアは部屋に戻っていろ」
そうして二手に分かれそれぞれ移動を始めた。
結果からいうとボスには会えなかった。出かけてしまったようである。リンさんはため息をついた。リンさん曰くよくあることだそうだ。
「とりあえず、今日は休め。明日ギルド内を紹介する。必需品の買い出しはこっちでやっとく。心を整理する時間も必要だろうしな?」
「なにからなにまでありがとうございます」
「部屋はこっちだ」
リンさんの後ろを僕はついていく。
「ここだ。隣の部屋は俺とオリヴィアの部屋だ。何かあったら俺やオリヴィアの部屋を訪ねろ。必需品をとりあえず買ってくるから部屋にいろ。いや、部屋から出るなよ」
念を押して言うリンさんに僕は思わず笑ってしまった。
「分かった。部屋から出ないよ」
その言葉を聞くとリンは行ってしまった。
部屋を開ける。部屋が思ったより広くて驚いた。
とりあえず冷蔵庫に何か入っていないかな?もうすぐお昼だし、お腹が減った。あっ、弁当らしきものが入っている。僕はこれを食べることにした。
食べ終わるとなんだか眠くなってしまった。とりあえず僕は眠ることにした。
起きたら夜だった。
なんだか隣の部屋から話し声が聞こえる。
これはオリヴィアさんと誰?いや、盗み聞きはよくない。そう思い、布団に入るが寝られなかった。
気を取り直し、窓を開けて外の空気を吸うことにした。立ち上がり窓に向かおうした瞬間意識を失ってしまった。
またあのときの……。
「あ~らら、こっちの世界に来ちゃったか。リアン、君にとってはつらい現実を突きつけられることになるだろう。せいぜい頑張ってよ。フォローはするからさ」
意識を失う直前、茶化すように話す男の人の声が聞こえた気がした。
「ははははははっ!! ほんっっっっとうにうれしいよ。
8年だ、8年長かったさ、でもこれで役者はそろった!!
さじは投げられ混沌へと続くカウントダウンはもう始まったよ、ティア!!!!
たとえ、この世界が混沌となろうとも私だけは君を慈しみ愛してあげよう!!
さあ、ユースティア、そのダイヤモンドよりも固く美しい心が絶望で塗り替えられる姿を見せておくれ」
ビルの屋上にて踊りながらゲラゲラと笑う男が一人。
一口食べてみる。何これ、ものすごくふわとろなオムライスだ。めちゃくちゃ美味しい。これリンさん作ったんだよな。プロ並みじゃん! オリヴィアさんがたくさん食べたくなるのもうなずける。
お腹がすいていたせいであっという間に食べ終わってしまった。そういえばリンさんは食べてないよな。食べないのかな。
「リンさんは食べないんですか?」
「俺は朝はいいんだ」
「そうですか」
なんかリンさんから悲しそうな雰囲気がする。気のせいかな……。
リンさんは僕の食べた皿を洗い終わるとオリヴィアさんの隣に座った。そして真剣な目をしてこれからの希望を聞いてきた。
「リアンはこれからどうしたい?」
オリヴィアさんはそんなリンさんに膝枕されていた。
かわいい。僕もしたい。いや何を考えているんだよ! 下心満載じゃないか。
リアンは脳内で自分で自分に突っ込みを入れていた。
今はそう思っている場合じゃないだろ僕!
「僕は元の場所にできれば戻りたいです。できないならできないなりにこの地で自分の足で生きたいです。――――つまりどこかに就職したいです。家なし無一文は嫌です」
僕は最後本音をもらしてしまった。そうなんです。僕今家なし無一文なんです。このままじゃ知らない土地でホームレス。自分が死ぬ未来しかみえない!!
「就職先に希望はあるか? ――って言ってもどんな仕事があるか分からないか……」
「そうですね。それに僕ものすごく頭いいとかでもないですしね」
自分で言っていて何か落ち込んだ。でも学生にできることなんてたかが知れてるよね。多分。僕だけじゃないはず!
「私が拾ってきたから私が面倒みる。だから私たちと同じ職場の方が何かと都合がいい」
オリヴィアさんが起き上がり僕に視線を向ける。あれ、これガン見されてる?
僕の顔に熱が集まる。落ち着かない。なんか気分的には推しに見つめられている感じ。かわいい。ダメだ。語彙力も低下してる。
「猫じゃないんだから言い方もっとどうにかできなかったのか」
リンさんはオリヴィアさんにあきれている様子を見せる。それに対しオリヴィアさんはきょとんとした顔をしていた。リンさんのため息がもれる。
「まあいい。オリヴィアの言うとおり俺たちと同じ職場の方がいいか。リアンは何も知らないだろうしな。――ただ試験に受けて合格してもらわないとダメだ」
「分かってる。試験相手は私がする」
「本気出すなよ」
「うん」
僕は話にいまいちついていけずおそるおそる手を上げて聞いてみる。
「あの、職場って……。それに試験って何をするんですか?」
「俺たちの職場は裏冒険者ギルドだ」
裏冒険者ギルド? 冒険者ギルドじゃなくて?
意識がある状態で外に出るのは初めてだな。なんか雰囲気的にはイタリアに近いかも。写真とかアニメのモデルとしてしか見たことないから実際はもっと違うのかも知れないけど。あと空気がおいしい。
「リアン、やっていた習い事とか得意なことあるか?」
僕は周りの雰囲気に浸りながら歩いていたせいで遅れていることに気づいた。僕はリンさんとオリヴィアさんの元に急いで走った。
「運動が得意かな。人よりはできると思う。自分でいうのもなんだけど。勉強の方はあまり得意じゃないかな。それにまだ十六歳だし」
「十六歳なのか。もっと下だと思っていた。背もそんなに高くないし」
僕はイラッとした。
僕にとって身長の話はタブーである。ものすごく気にしてる。気にしすぎて牛乳を毎日欠かさず飲んでいるぐらいだ。レオナぐらい身長があったらと何度考えたことか。
「チビだと言いたいのか。これでも僕は頑張って牛乳飲んでるんだぞ!」
あ、やば。怒りで思わずため口きいてしまった。おそらくリンさんは僕より年上だし助けてもらった人だし。礼儀はわきまえないといけなかった。
僕は自分の行動にしゅんとする。
リンさんは気にしていないどころか僕に気をつかってくれた。
「今の口調が素だろう。無理して俺らに敬語使わなくてもいい」
「ありがとう」
リンさんってものすごくモテる人では? 真面目で心が広い人な気がする。まだ会って間もないからまだ断言はできないけど。
「ここが試験場及び訓練場だ。リアンは運動が得意らしいから戦闘員の試験でいいだろう。オリヴィア」
「うん。分かってる。一応聞いておくけどボスには伝えたんだよね?」
「ああ、伝えてある。審判は俺だ」
「了解。とりあえずリアン君は、武器はまだ使えないと思うし、こっちからは攻撃しない。その代わり私に触れたら合格」
「あの、僕、部活、剣道部でした。だから竹刀みたいなのがあれば戦えると思います」
僕は中学から剣道部だった。だから武器が使えないとは言い切れない。
「分かった。リン、木刀もってきて」
そう言うとオリヴィアさんはポケットから手袋を取り出し身につけた。
リンはオリヴィアの指示に従い訓練場の武器庫から木刀を持ってきてリアンに渡した。
「これでいいか?」
「大丈夫です。ありがとう」
僕は木刀を持ったがオリヴィアさんは何も武器を持っていない。恐る恐るオリヴィアさんに尋ねてみた。
「あの。オリヴィアさんは武器なにか持たなくていいんですか? 女性の方ですし僕だけがもっているのも……」
言葉を最後まで紡ごうとしたがオリヴィアさんから不機嫌オーラを感じ何も言えなくなった。
「私が弱いと言いたいの?」
怒らせた?! なんかドスの聞いた声だし!! ひえ、僕、オリヴィアさんの地雷踏んじゃった!?
「そんなこと滅相もありません」
美人が怒ると怖い。もしかしてこの後僕ボコボコにされるんかな。
「試験時間は十分。今回は武器を持っているから両方とも攻撃は有りだ。その上でオリヴィアに触れるもしくはリアンが戦闘不能なったら試合終了。始め」
リンの合図とともに試合が始まった。
オリヴィアさんが先に仕掛けてきた。速い!! そして一つ一つの拳が重い。
「っ!」
このままじゃ攻撃に転じるどころか防御すら危うい。
まずい!! この一撃食らったら絶対木刀折れる。
僕はその一撃をまともに食らうまいと後ろに飛んだ。だがこれでも拳の威力が完全に消えてくれなかった。
木刀を握っていた手がさっきの一撃で痙攣する。それにオリヴィアさんの気迫に飲まれてる。このままじゃオリヴィアさんのペースに持ち込まれるのは必然。
「リアン君、もう少し本気を出そうか」
核心を突かれた言葉に冷や汗が止まらない。ただでさえさっき怒らせちゃったのに……。
「はい」
オリヴィアさんはゆっくりと僕に向かって静かに歩いてくる。
僕は正直さっきまで手を抜いていた。いつもの部活中みたいに。こう言うと嫌な奴に思えるかも知れない。
僕は昔、師匠に言われたことがある。『これから全力でやってはいけないよ。リアンが人を殺したくないならね。――そうだな、みんなのレベルがどのくらいか確かめておいで』
そして僕は剣道を始めたのだ。師匠、僕、師匠以外で全力を出しても殺す心配がない相手に巡り会うことができました。
僕はオリヴィアさんに向かって一気に距離を詰める。縮地と呼ばれるものだ。
オリヴィアさんが一瞬驚いた顔を見せた。しかし僕の一撃を躱し後ろに跳躍した。
「やっぱりまだほとんど力を出してなかったんだね」
僕は剣道の構えをやめ師匠に習った構えをとる。
「僕、迷っていたんです。でも迷うのはもうやめにします」
日和さんに襲われた時もそうだった。竹刀を持っていなかったのもあるけど僕は怖かったのだと思う。万が一でも人を殺してしまうんじゃないかって。でも今は考えないことにする。
「速い。でもこれじゃあ足りない」
「本当にそうですか?」
オリヴィアさんが僕の一撃目を受け止めようとしたがそこには何もなかった。
「これは残像!!」
オリヴィアさんが少し焦った表情を見せた。
一撃目は残像。二撃目は今!
「なっ、躱された。絶対に死角だったはずなのに……」
「すごいね。でも戦闘練れしてないね」
さっきの焦った表情、わざとだったのか。もしかして読まれてた?
だったらこれ以上攻撃しても無意味だ。僕は時間内にオリヴィアさんに触ることは不可能に近い。それにオリヴィアさんはおそらく本気を出してすらいない。
僕は両手を挙げ降参のポーズを取った。
「参りました」
「試合終了。リアンの降参により勝者オリヴィア」
リンさんは僕の言葉を聞き、すぐに試合終了の合図を出した。
「オリヴィア、少し大人げないぞ。まあでもオリヴィアの攻撃を受け切れた。合格だ」
落ち込んでいた僕は顔を上げ、目を見開く。
「えっ、待ってください。オリヴィアさんもリンさんも触れたら合格だって。僕、触れてませんよ!!」
「あれは嘘だ。そうしないと大抵の者は緊張感がなくなるからな。この程度でいいだろうと勝手に解釈する。そもそもオリヴィアに勝てるものはそんなに多くない」
「合格…………よかった」
全身の神経が研ぎ澄まさないといけない状況から安堵したことにより足に力が入らなくなってしまった。
「リアン、手を貸す。次はボスの下に行く。オリヴィアは部屋に戻っていろ」
そうして二手に分かれそれぞれ移動を始めた。
結果からいうとボスには会えなかった。出かけてしまったようである。リンさんはため息をついた。リンさん曰くよくあることだそうだ。
「とりあえず、今日は休め。明日ギルド内を紹介する。必需品の買い出しはこっちでやっとく。心を整理する時間も必要だろうしな?」
「なにからなにまでありがとうございます」
「部屋はこっちだ」
リンさんの後ろを僕はついていく。
「ここだ。隣の部屋は俺とオリヴィアの部屋だ。何かあったら俺やオリヴィアの部屋を訪ねろ。必需品をとりあえず買ってくるから部屋にいろ。いや、部屋から出るなよ」
念を押して言うリンさんに僕は思わず笑ってしまった。
「分かった。部屋から出ないよ」
その言葉を聞くとリンは行ってしまった。
部屋を開ける。部屋が思ったより広くて驚いた。
とりあえず冷蔵庫に何か入っていないかな?もうすぐお昼だし、お腹が減った。あっ、弁当らしきものが入っている。僕はこれを食べることにした。
食べ終わるとなんだか眠くなってしまった。とりあえず僕は眠ることにした。
起きたら夜だった。
なんだか隣の部屋から話し声が聞こえる。
これはオリヴィアさんと誰?いや、盗み聞きはよくない。そう思い、布団に入るが寝られなかった。
気を取り直し、窓を開けて外の空気を吸うことにした。立ち上がり窓に向かおうした瞬間意識を失ってしまった。
またあのときの……。
「あ~らら、こっちの世界に来ちゃったか。リアン、君にとってはつらい現実を突きつけられることになるだろう。せいぜい頑張ってよ。フォローはするからさ」
意識を失う直前、茶化すように話す男の人の声が聞こえた気がした。
「ははははははっ!! ほんっっっっとうにうれしいよ。
8年だ、8年長かったさ、でもこれで役者はそろった!!
さじは投げられ混沌へと続くカウントダウンはもう始まったよ、ティア!!!!
たとえ、この世界が混沌となろうとも私だけは君を慈しみ愛してあげよう!!
さあ、ユースティア、そのダイヤモンドよりも固く美しい心が絶望で塗り替えられる姿を見せておくれ」
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