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麻薬にご注意
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「オペ室でーす。麻薬の返却お願いしまーす」
病院や一部の薬局には、麻薬が置かれている。
よく警察とかに調べられているのとは、一応違う。医療用麻薬というものに当たる。
成分とかはほぼ同じだったりするから、同じ目的で使おうとすること自体は不可能ではない。だからこそ、法律で保管しておく金庫にすら規定が設けられている。
生薬の試験では、生薬の名前と含有されている主成分を答えることが多いが、ケシ科つまり、アヘンに含まれる成分は”パパベリン”
おかげで薬学生に、
『アヘンってなんだっけ?』
『パパがやってるやつ』
とか言われていたりもする。
実際、痛みを取り除くことに対して、麻薬は強力で、手術中なんかも使われている。麻酔と言われているけど、一部の麻酔の作用機序、痛みを取り除くために薬が作用する場所が同じため、麻薬と同じ扱いになる。
「それで、すみません……その、ミズチバしたみたいで……」
「ミズチバ?」
正直に言おう。オペ室は特に多いが、処置などに使う薬もオペ室だけでしか使わないことも多く、薬剤部が扱ってはいるが、正直なところどう扱って、詳細に何に使っているのかはわからないところが多い。点滴のルートとか、マジでわからない。
「あ、えっと、記録とか伝票には、アルチバ使用の記載があるんですけど、オペ後に看護師同士のダブルチェックしてたら、残ってて……」
アルチバのバイアルの裏を見れば、白い粉がしっかりとくっついている。
「えーっと……これはぁ……」
シリンジに満たされた、本来余ったアルチバが溶かされた透明の液体。
「たぶん、生食」
「つまり、プラセボ……」
「ま、まぁ、プラセボ」
なるほど。だから”水”チバ。
「それで、金曜の緊急オペだったから、先生終わったらすぐ帰っちゃって……」
うちの病院は基本、手術は土日、祝日はやらない。そのため、麻酔科医は土日、祝日はいない。
「とりあえず、執刀医に報告してあります。これに関しては、月曜に先生に確認はするんですが、麻薬なので薬局で保管をお願いします……」
「……………………月曜、監査」
「……………………ヤベェ」
『待って』とジェスチャーすれば、すごい勢いで頷かれ、顔を向ける先は、ちょうど電話が終わったらしい先輩である灰本。
慣れてしまったのか、白野と看護師が見つめる様子に、表情を強張らせた後、すぐに近づいてきてくれる。
「部長呼ぶね!」
ちょうどよく握っていた電話で、部長へ電話を掛けた。
「ミズチバなんて久々に聞いたよ……知ってる? ミズチバ」
部長と赤門だけが、懐かしいと笑う。バイアルに貼られているシールが別に用意されていた時代に、起きていたことが多かったという。
「薬剤部としては、とにかく連絡待ちだね。今、看護師と先生が連絡取ってくれてるから。
結果が出てから、廃棄届を作って連絡すれば、監査は大丈夫だから。
それより、医療安全で揉めそう……」
医療安全管理委員会。医療事故やインシデントなどの再発防止策を考える委員会。
正直、患者までいく事故さえ起きなければ、再発防止に努めましょう程度でいいのだが、死亡していなくても、実施されたらアクシデント。つまり、事故。
「あとは管理者がやってくれるから、私たちは指導やろうか。今週、周り切れてないよね? 白野さん、残りは?」
「あ、Aはあと1人です」
「本当!?」
「はい。麻薬管理の方」
お前またか。って目をされた。
「疼痛コントロール良好のフェントス2㎎の人ですよ」
麻薬の多くはがんの疼痛コントロールで用いられる。
ただオピオイド系(麻薬のこと)は、副作用が多く、服薬指導も少し面倒、大変だ。
注射ではなく貼付の人なので、それほど副作用が強く出ることはないが、まず便秘はほぼ絶対に出る。そのほか、痛みや吐き気など確認することはあるが、最も危険な中毒として、呼吸抑制がある。
先程、麻酔と同じ作用だと言ったが、つまり、眠くなり、眠った後に過量投与すれば呼吸が抑制され、最終的に無呼吸により死亡する。
ある意味、痛みも感じず、ねんねんコロリでいいかもしれない。
が、しかし。
拮抗薬ある云々の前に、金庫で厳重に保管され、数も使用のたびに確認されている麻薬を使おうと盗んだ時点で内部犯だし、足のつかないよろしくない場所からの購入は純度が良くないという。
かつて、無駄に純度の良いものが出回った際、これはその手の人間が関わっていると薬学生など化学系の学生がバイトに雇われているのではないかと疑われ、大正解だったということがあったらしい。なぜ、真面目に再結晶なんてしてしまったのか。ダメゼッタイ。
「白野さんってさ、ケシが生えてるの見かけてそうだよね」
「ちゃんと許可貰って育てられてるのなら見たことありますよ。正直、見分け付かないです」
気になる人は、東京都薬用植物園で調べてみよう。5月ごろが開花時期だよ。
「見分けがつかないことにしてるんじゃなくて?」
「作るには1000本単位でいるらしいですよ。まぁ、繁殖力もあるらしいですが」
「意外に詳しいね」
「まぁ、生薬好きですし」
ちなみに、ケシのようなものを見かけたら、警察や保健所、麻薬取締部など連絡すれば、専門家が確認しに来てくれる。
場所だけ伝え、触ってはいけないことになっている。
花としては、大輪で立派なため、写真を撮ったりする人も多く、それが週刊誌に載って職質された芸能人もいるくらいだ。
「通報しとく?」
「違うんです。見た目がきれいだったから……ケシだなんて知らなかったんです」
「撤去です」
「せめて、花の部分、あ、膨らんでるところのちょっと下の辺りから切って、切り花にしたい、なぁ……?」
「確信犯! 逮捕!」
病院や一部の薬局には、麻薬が置かれている。
よく警察とかに調べられているのとは、一応違う。医療用麻薬というものに当たる。
成分とかはほぼ同じだったりするから、同じ目的で使おうとすること自体は不可能ではない。だからこそ、法律で保管しておく金庫にすら規定が設けられている。
生薬の試験では、生薬の名前と含有されている主成分を答えることが多いが、ケシ科つまり、アヘンに含まれる成分は”パパベリン”
おかげで薬学生に、
『アヘンってなんだっけ?』
『パパがやってるやつ』
とか言われていたりもする。
実際、痛みを取り除くことに対して、麻薬は強力で、手術中なんかも使われている。麻酔と言われているけど、一部の麻酔の作用機序、痛みを取り除くために薬が作用する場所が同じため、麻薬と同じ扱いになる。
「それで、すみません……その、ミズチバしたみたいで……」
「ミズチバ?」
正直に言おう。オペ室は特に多いが、処置などに使う薬もオペ室だけでしか使わないことも多く、薬剤部が扱ってはいるが、正直なところどう扱って、詳細に何に使っているのかはわからないところが多い。点滴のルートとか、マジでわからない。
「あ、えっと、記録とか伝票には、アルチバ使用の記載があるんですけど、オペ後に看護師同士のダブルチェックしてたら、残ってて……」
アルチバのバイアルの裏を見れば、白い粉がしっかりとくっついている。
「えーっと……これはぁ……」
シリンジに満たされた、本来余ったアルチバが溶かされた透明の液体。
「たぶん、生食」
「つまり、プラセボ……」
「ま、まぁ、プラセボ」
なるほど。だから”水”チバ。
「それで、金曜の緊急オペだったから、先生終わったらすぐ帰っちゃって……」
うちの病院は基本、手術は土日、祝日はやらない。そのため、麻酔科医は土日、祝日はいない。
「とりあえず、執刀医に報告してあります。これに関しては、月曜に先生に確認はするんですが、麻薬なので薬局で保管をお願いします……」
「……………………月曜、監査」
「……………………ヤベェ」
『待って』とジェスチャーすれば、すごい勢いで頷かれ、顔を向ける先は、ちょうど電話が終わったらしい先輩である灰本。
慣れてしまったのか、白野と看護師が見つめる様子に、表情を強張らせた後、すぐに近づいてきてくれる。
「部長呼ぶね!」
ちょうどよく握っていた電話で、部長へ電話を掛けた。
「ミズチバなんて久々に聞いたよ……知ってる? ミズチバ」
部長と赤門だけが、懐かしいと笑う。バイアルに貼られているシールが別に用意されていた時代に、起きていたことが多かったという。
「薬剤部としては、とにかく連絡待ちだね。今、看護師と先生が連絡取ってくれてるから。
結果が出てから、廃棄届を作って連絡すれば、監査は大丈夫だから。
それより、医療安全で揉めそう……」
医療安全管理委員会。医療事故やインシデントなどの再発防止策を考える委員会。
正直、患者までいく事故さえ起きなければ、再発防止に努めましょう程度でいいのだが、死亡していなくても、実施されたらアクシデント。つまり、事故。
「あとは管理者がやってくれるから、私たちは指導やろうか。今週、周り切れてないよね? 白野さん、残りは?」
「あ、Aはあと1人です」
「本当!?」
「はい。麻薬管理の方」
お前またか。って目をされた。
「疼痛コントロール良好のフェントス2㎎の人ですよ」
麻薬の多くはがんの疼痛コントロールで用いられる。
ただオピオイド系(麻薬のこと)は、副作用が多く、服薬指導も少し面倒、大変だ。
注射ではなく貼付の人なので、それほど副作用が強く出ることはないが、まず便秘はほぼ絶対に出る。そのほか、痛みや吐き気など確認することはあるが、最も危険な中毒として、呼吸抑制がある。
先程、麻酔と同じ作用だと言ったが、つまり、眠くなり、眠った後に過量投与すれば呼吸が抑制され、最終的に無呼吸により死亡する。
ある意味、痛みも感じず、ねんねんコロリでいいかもしれない。
が、しかし。
拮抗薬ある云々の前に、金庫で厳重に保管され、数も使用のたびに確認されている麻薬を使おうと盗んだ時点で内部犯だし、足のつかないよろしくない場所からの購入は純度が良くないという。
かつて、無駄に純度の良いものが出回った際、これはその手の人間が関わっていると薬学生など化学系の学生がバイトに雇われているのではないかと疑われ、大正解だったということがあったらしい。なぜ、真面目に再結晶なんてしてしまったのか。ダメゼッタイ。
「白野さんってさ、ケシが生えてるの見かけてそうだよね」
「ちゃんと許可貰って育てられてるのなら見たことありますよ。正直、見分け付かないです」
気になる人は、東京都薬用植物園で調べてみよう。5月ごろが開花時期だよ。
「見分けがつかないことにしてるんじゃなくて?」
「作るには1000本単位でいるらしいですよ。まぁ、繁殖力もあるらしいですが」
「意外に詳しいね」
「まぁ、生薬好きですし」
ちなみに、ケシのようなものを見かけたら、警察や保健所、麻薬取締部など連絡すれば、専門家が確認しに来てくれる。
場所だけ伝え、触ってはいけないことになっている。
花としては、大輪で立派なため、写真を撮ったりする人も多く、それが週刊誌に載って職質された芸能人もいるくらいだ。
「通報しとく?」
「違うんです。見た目がきれいだったから……ケシだなんて知らなかったんです」
「撤去です」
「せめて、花の部分、あ、膨らんでるところのちょっと下の辺りから切って、切り花にしたい、なぁ……?」
「確信犯! 逮捕!」
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