上 下
9 / 9

麻薬にご注意

しおりを挟む
「オペ室でーす。麻薬の返却お願いしまーす」

 病院や一部の薬局には、麻薬が置かれている。
 よく警察とかに調べられているのとは、一応違う。医療用麻薬というものに当たる。
 成分とかはほぼ同じだったりするから、同じ目的で使おうとすること自体は不可能ではない。だからこそ、法律で保管しておく金庫にすら規定が設けられている。

 生薬の試験では、生薬の名前と含有されている主成分を答えることが多いが、ケシ科つまり、アヘンに含まれる成分は”パパベリン” 
 おかげで薬学生に、

『アヘンってなんだっけ?』
『パパがやってるやつ』

 とか言われていたりもする。

 実際、痛みを取り除くことに対して、麻薬は強力で、手術中なんかも使われている。麻酔と言われているけど、一部の麻酔の作用機序、痛みを取り除くために薬が作用する場所が同じため、麻薬と同じ扱いになる。

「それで、すみません……その、ミズチバしたみたいで……」
「ミズチバ?」

 正直に言おう。オペ室は特に多いが、処置などに使う薬もオペ室だけでしか使わないことも多く、薬剤部が扱ってはいるが、正直なところどう扱って、詳細に何に使っているのかはわからないところが多い。点滴のルートとか、マジでわからない。

「あ、えっと、記録とか伝票には、アルチバ使用の記載があるんですけど、オペ後に看護師同士のダブルチェックしてたら、残ってて……」

 アルチバのバイアルの裏を見れば、白い粉がしっかりとくっついている。

「えーっと……これはぁ……」

 シリンジに満たされた、本来余ったアルチバが溶かされた透明の液体。

「たぶん、生食」
「つまり、プラセボ……」
「ま、まぁ、プラセボ」

 なるほど。だから”水”チバ。

「それで、金曜の緊急オペだったから、先生終わったらすぐ帰っちゃって……」

 うちの病院は基本、手術は土日、祝日はやらない。そのため、麻酔科医は土日、祝日はいない。

「とりあえず、執刀医に報告してあります。これに関しては、月曜に先生に確認はするんですが、麻薬なので薬局で保管をお願いします……」
「……………………月曜、監査」
「……………………ヤベェ」

 『待って』とジェスチャーすれば、すごい勢いで頷かれ、顔を向ける先は、ちょうど電話が終わったらしい先輩である灰本。
 慣れてしまったのか、白野と看護師が見つめる様子に、表情を強張らせた後、すぐに近づいてきてくれる。

「部長呼ぶね!」

 ちょうどよく握っていた電話で、部長へ電話を掛けた。

「ミズチバなんて久々に聞いたよ……知ってる? ミズチバ」

 部長と赤門だけが、懐かしいと笑う。バイアルに貼られているシールが別に用意されていた時代に、起きていたことが多かったという。

「薬剤部としては、とにかく連絡待ちだね。今、看護師と先生が連絡取ってくれてるから。
 結果が出てから、廃棄届を作って連絡すれば、監査は大丈夫だから。
 それより、医療安全で揉めそう……」

 医療安全管理委員会。医療事故やインシデントなどの再発防止策を考える委員会。
 正直、患者までいく事故さえ起きなければ、再発防止に努めましょう程度でいいのだが、死亡していなくても、実施されたらアクシデント。つまり、事故。

「あとは管理者がやってくれるから、私たちは指導やろうか。今週、周り切れてないよね? 白野さん、残りは?」
「あ、Aはあと1人です」
「本当!?」
「はい。麻薬管理の方」

 お前またか。って目をされた。

「疼痛コントロール良好のフェントス2㎎の人ですよ」

 麻薬の多くはがんの疼痛コントロールで用いられる。
 ただオピオイド系(麻薬のこと)は、副作用が多く、服薬指導も少し面倒、大変だ。

 注射ではなく貼付の人なので、それほど副作用が強く出ることはないが、まず便秘はほぼ絶対に出る。そのほか、痛みや吐き気など確認することはあるが、最も危険な中毒として、呼吸抑制がある。

 先程、麻酔と同じ作用だと言ったが、つまり、眠くなり、眠った後に過量投与すれば呼吸が抑制され、最終的に無呼吸により死亡する。

 ある意味、痛みも感じず、ねんねんコロリでいいかもしれない。

 が、しかし。
 拮抗薬ある云々の前に、金庫で厳重に保管され、数も使用のたびに確認されている麻薬を使おうと盗んだ時点で内部犯だし、足のつかないよろしくない場所からの購入は純度が良くないという。
 かつて、無駄に純度の良いものが出回った際、これはその手の人間が関わっていると薬学生など化学系の学生がバイトに雇われているのではないかと疑われ、大正解だったということがあったらしい。なぜ、真面目に再結晶なんてしてしまったのか。ダメゼッタイ。

「白野さんってさ、ケシが生えてるの見かけてそうだよね」
「ちゃんと許可貰って育てられてるのなら見たことありますよ。正直、見分け付かないです」

 気になる人は、東京都薬用植物園で調べてみよう。5月ごろが開花時期だよ。

「見分けがつかないことにしてるんじゃなくて?」
「作るには1000本単位でいるらしいですよ。まぁ、繁殖力もあるらしいですが」
「意外に詳しいね」
「まぁ、生薬好きですし」

 ちなみに、ケシのようなものを見かけたら、警察や保健所、麻薬取締部など連絡すれば、専門家が確認しに来てくれる。
 場所だけ伝え、触ってはいけないことになっている。
 花としては、大輪で立派なため、写真を撮ったりする人も多く、それが週刊誌に載って職質された芸能人もいるくらいだ。

「通報しとく?」
「違うんです。見た目がきれいだったから……ケシだなんて知らなかったんです」
「撤去です」
「せめて、花の部分、あ、膨らんでるところのちょっと下の辺りから切って、切り花にしたい、なぁ……?」
「確信犯! 逮捕!」


しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

【完結】雨上がり、後悔を抱く

私雨
ライト文芸
 夏休みの最終週、海外から日本へ帰国した田仲雄己(たなか ゆうき)。彼は雨之島(あまのじま)という離島に住んでいる。  雄己を真っ先に出迎えてくれたのは彼の幼馴染、山口夏海(やまぐち なつみ)だった。彼女が確実におかしくなっていることに、誰も気づいていない。  雨之島では、とある迷信が昔から吹聴されている。それは、雨に濡れたら狂ってしまうということ。  『信じる』彼と『信じない』彼女――  果たして、誰が正しいのだろうか……?  これは、『しなかったこと』を後悔する人たちの切ない物語。

MASK 〜黒衣の薬売り〜

天瀬純
キャラ文芸
【薬売り“黒衣 漆黒”による現代ファンタジー】  黒い布マスクに黒いスーツ姿の彼“薬売り”が紹介する奇妙な薬たち…。  いくつもの短編を通して、薬売りとの交流を“あらゆる人物視点”で綴られる現代ファンタジー。  ぜひ、お立ち寄りください。

【6】冬の日の恋人たち【完結】

ホズミロザスケ
ライト文芸
『いずれ、キミに繋がる物語』シリーズの短編集。君彦・真綾・咲・総一郎の四人がそれぞれ主人公になります。全四章・全十七話。 ・第一章『First step』(全4話) 真綾の家に遊びに行くことになった君彦は、手土産に悩む。駿河に相談し、二人で買いに行き……。 ・第二章 『Be with me』(全4話) 母親の監視から離れ、初めて迎える冬。冬休みの予定に心躍らせ、アルバイトに勤しむ総一郎であったが……。 ・第三章 『First christmas』(全5話) ケーキ屋でアルバイトをしている真綾は、目の回る日々を過ごしていた。クリスマス当日、アルバイトを終え、君彦に電話をかけると……? ・第四章 『Be with you』(全4話) 1/3は総一郎の誕生日。咲は君彦・真綾とともに総一郎に内緒で誕生日会を企てるが……。 ※当作品は「カクヨム」「小説家になろう」にも同時掲載しております。(過去に「エブリスタ」にも掲載)

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【9】やりなおしの歌【完結】

ホズミロザスケ
ライト文芸
雑貨店で店長として働く木村は、ある日道案内した男性から、お礼として「黄色いフリージア」というバンドのライブチケットをもらう。 そのステージで、かつて思いを寄せていた同級生・金田(通称・ダダ)の姿を見つける。 終演後の楽屋で再会を果たすも、その後連絡を取り合うこともなく、それで終わりだと思っていた。しかし、突然、金田が勤務先に現れ……。 「いずれ、キミに繋がる物語」シリーズ9作目。(登場する人物が共通しています)。単品でも問題なく読んでいただけます。 ※当作品は「カクヨム」「小説家になろう」にも同時掲載しております。

Girlfriend

相沢 朋美
恋愛
カナダ在住の23歳社会人・ジョンは、友人が主催したホームパーティーで22歳の女子大生・アシュリーと知り合う。2人はデートを重ねていくうちに恋人同士になるのだが、後々重大なことが発覚してしまった。

140字小説〜ロスタイム〜

初瀬四季[ハツセシキ]
大衆娯楽
 好評のうちに幕を閉じた750話の140字小説。  書籍化が待たれるもののいまだそれはなされず。  というわけで、書籍化目指して頑張ります。  『140字小説〜ロスタイム〜』  開幕‼︎

Bo★ccia!!―アィラビュー×コザィラビュー*

gaction9969
ライト文芸
 ゴッドオブスポーツ=ボッチャ!!  ボッチャとはッ!! 白き的球を狙いて自らの手球を投擲し、相手よりも近づけた方が勝利を得るというッ!! 年齢人種性別、そして障害者/健常者の区別なく、この地球の重力を背負いし人間すべてに平等たる、完全なる球技なのであるッ!!  そしてこの物語はッ!! 人智を超えた究極競技「デフィニティボッチャ」に青春を捧げた、五人の青年のッ!! 愛と希望のヒューマンドラマであるッ!!

処理中です...