死にたがり薬剤師の調剤日誌

ツヅラ

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ステロイド撲滅委員会

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「これ、もしかして運動してると使っちゃいけないってやつ?」

 風邪で薬をもらいに来ていた患者の質問により「薬は以上です。お大事に」の言葉がせき止められた。

「なにか、スポーツされています?」

 申し訳ないのですが、スポーツされている方にしては、随分と緩み切った体をお持ちのようですね。

「いや、してないよ! しても、ウォーキングくらいだよ。ステロイドってドーピングとかで聞くからさ」
「あ、そうだったんですね! そうですね。ステロイドは筋肉を増やしたりするので、スポーツの大会に出るような方ですと、禁止されていることが多いです」

 全くビビった。
 もし、スポーツしてたら、即お電話(疑義照会)案件だ。
 
 ステロイドは、ネームバリューすごいから、一度は聞いたことある薬だろう。

「ステロイド!? こんな物飲ませるなんてここの病院はおかしいんじゃないの!?」

 わりと悪い意味で。

 そういう意味では、ステロイド撲滅委員会の方々が有名だろう。
 ナチュラリストだったりする、謎の方々。
 ステロイドは、元々自分たちの体にあるものを、人工的に作る天然ものだから、ある意味オーガニックと言えなくもないのだけど、そういうことを聞きたいわけではないことはわかる。

「絶対飲まないから!!」

 俳優からは美白だと喜ばれ、適用外使用しては、皮膚科の先生が怒る案件だが、喘息発作で救急搬送されたあげく入院した人が、ステロイド拒否など呼吸器の先生が怒る案件だ。
 そもそも、お前の持ってるその紫色の吸入器はなんだ。

「ステロイドは嫌いですか?」
「嫌いとかじゃないの。あなた、本当に薬剤師? ステロイドは危ないの! 飲んじゃいけないの!」
「申し訳ないのですが、具体的に教えていただいてもよろしいですか? 私も勉強不足のようで」
「効かないのに副作用が多いでしょ! それに、使ったらずっと使い続けないといけなくなるの!」
「一応、今回は発作が収まるまでの、一時的なものと聞いています。少しずつ量を減らして、最終的には無くす方向で進めると先生も言ってましたよ。もちろん、喘息の状態次第ではありますが」

 吸入は知らん。
 発作で救急搬送される時点で、コンプライアンスはあまりよくないだろうし、難しいかもしれない。

「だから、飲んだらずっと飲むことになるって言ってるでしょ」
「絶対ではないですよ。確かに、パッとやめるわけにはいきませんが、少しずつ量を減らして、最終的に”飲まない”までいくことはあります。それこそ、ひどい風邪で、喉が腫れたって方に少しだけステロイド使うこともあります。そういう時は、1週間も使わない程度でステロイドは飲まなくなりますよ」

 副作用だって、主に長期的に服用した時に出るものが多い。
 一時的なものなら問題ないことが多い。
 吸入のうがいしない時は知らん。

「でぇ?」
「実は、点滴にプレドニン(ステロイド)入ってたこと知って発狂」
「うわぁ……」

 薬剤師は、病気の判断もできなければ、薬の判断もできない。
 あくまで、治療を決めるのは医師であり、薬剤師は提案までしかできない。それこそ、医師と真っ向勝負なんて基本ありえない。

 中間管理職のようなもので、最終的に上の人間、つまり医者がGOといったら、GOなのだ。
 ただ、本格的に危険なものに関しては、マジでいいんですね!? 本当のほんんとぉーーーーっにいいんですね!? 私は聞きましたよ!? それでも先生行くって言いましたからね!? って、確認に確認を重ねて、カルテに記載して、全力の薬剤師バックステップ緊急回避が行われる。

 とにかく妙なことに巻き込まれそうなら、逃げるが吉。特に裁判になりかねないことは。
 入院なら尚更、患者は逃げも隠れもできないのだから(たまに脱走するが)、別のベテラン薬剤師でも、看護師でも、医者でも、呼んでくればいい。
 今回は、ヒートアップし始めた患者の声に気が付いて、看護師が即先生を呼んでくれていた。

 対面後、1秒経たずに、アドエアにステロイド入ってること言ってたし、点滴にも入っているから、それから経口で量を減らしていくのだと言ってしまった。
 うーん……カーリースタイル医者だった。ブッダスタイル医師を希望します。

「今回はとりあえず、納得してないけど承諾。なんでも、アトピーも脱ステで治ったらしくて、母親からステロイドは危険って言われ続けてたらしい」

 ちなみに、ステロイドは、元々体にあるホルモンを元にしていることもあって、注射で直接大量に入れたところで、早々死なない。残念なことに。
 むしろ、本来のホルモンは、死にかけている時に、大量に放出して生き残ろうとするものであり、望むものとは正反対なのである。

 逆に、死にかけている時に、別の命より軽い認識された機関を置き去りに、一時的しのぎを行うのが本来の姿であり、長期的に大量に出ていれば置き去りにされた器官が悲鳴を上げることになる。
 それが副作用であり、骨が折れやすくなったり、血圧やら血糖、脂質が上がって生活習慣病になったり、じわじわと嬲り殺される気分を味わうことになる。
 実によくない。死ぬときはすっぱりと! 介護とかなく! 排泄ケアとかイヤ!

 それ以外にも、体に元々存在するせいで、自分の体が本来持っている分も考慮しないといけない割と、めんどくさい薬でもある。

 そんなこともあり、美容大好きっ子が、

「ステロイド使うと、すっごく肌白くなるんだよ!」

 なんて、スキンケアし始めると、皮膚科の先生がファイティングポーズを決め始める。
 実際、血管収縮する都合で、白く見える。皮膚も薄くなるから、まさしく透けるような肌である。
 全く、皮膚委縮でも易感染でも、ファントム化すればいい。
 そして、仮面を外しながら、叫べ。

『地獄の業火に焼かれながら、それでも天国に憧れる!』
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