がんばれ! 内臓さん!

ツヅラ

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がんばれ! 血栓´s

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 いつもと変わらず、ひたすら全身に血液を送っていた時のことだ。

「アレ?」

 なんとなく軽くなったような気がしたのだが、疲れがピークを超えたのかと、なお一層張り切り、血液を送り出す。


***


「締切りも無事間に合ったし、しばらくは休憩できそうですね」

 脳が体を伸ばしていると、小人たちも嬉しそうに体を伸ばしていた。その矢先、脳の脇腹にものすごい勢いでぶつかってきた何か。

「う゛っ……!」
「脳さん!?」

 脳の傍らには、赤黒い塊が落ちていた。

「なんか妙にみんな張り切ってるな……あんまりがんばりすぎるなよ?」
「わかってマスって」

 心臓が心配しながら小人たちを見ていると、派手な音を立てながら入ってきた男。

「おいコラ! 心臓テメェ!!」

 いつもの余裕な様子はどこに消えたのか、脳が入ってくるなり、赤黒い塊を全力で心臓に投げつけてきた。
 全く状況は理解できないものの、その迫ってくる塊を避けようとして、それが何かを理解すると、慌ててそれをキャッチした。

「あっぶねェな!? いくら同じ体でも殺人だぞ! 訴えてやるからな!」

 それは血栓だった。しかもよく成長した冠動脈を塞げそうなほどの。血栓に気がついた小人たちが、悲鳴を上げながら心臓の後ろに隠れ始めた。

「それはこっちのセリフだ! もうそれ吹っ飛んできた後だから! ちゃんと回収くらいしろよ!」
「こんな小さいの気づくわけねぇだろ!」
「気づけよ! 脳筋!」
「こちとら全身筋肉だァ! ボケ!」
「まだボケてねェ! 海馬君、超元気だし!」

 この人たち、いつも会うと喧嘩してるよな。なんて、遠目に見ていた小人たちものんきに見ていたが、いつまでも重要な器官である2人に喧嘩をされていると、悪影響がで始める。そろそろ止めなければと声をかければ、2人も自覚はしていたらしく、一度深呼吸をすると落ち着いてくれた。
 これ以上、心臓と脳の喧嘩が白熱して、脳にある血管が破裂しても困るだろうし、心臓も酸素不足で倒れる危険もある。妥協をするべきところだった。

「とにかく、血栓については、心臓君にとっても冠動脈に行ったら心筋梗塞になるわけですし、重要なことだと思いますよ」
「まぁ、それについては否定はしねぇけど」
「それに、ここには全部の血液が集まるんですから、確認する場所としては最も効率がいいでしょう?」
「いや、わかるよ? 言いたいことは。ただ血液止めるわけにもいかないし、正直、他から飛んでくることはほとんどないから、見落とすのも無理ないと思うんだ。ほら、どっちかっていうと飛ばす側だろ? 俺」

 心臓がポンプとして全身に血液を送って、その勢いで詰まりかけの血栓が飛び、細い血管で詰まって、その周りの組織が被害に遭う。しかし、心臓は全身の血液を一気に送り出すため、血管は基本的に太い。つまり、飛んできた血栓が塞ぐことができるような血管はあまり存在しない。

「いじめっ子がいじめられっ子の気持ちはわからない、的な?」
「最低だな。お前」

 最低すぎて少しばかり反応に困ったが、相手は全身筋肉。まさに脳まで筋肉だと考えれば、言語が通じるだけマシだと思えてくる。

「……お前、今すごく失礼なこと考えなかったか?」
「まさか。飛んでくる方から見れば、あなたが本当に諸悪の根源だと思っただけですよ」
「ちょっと待て! 諸悪の根源って、俺じゃなくて血管じゃねぇ?」
「……なるほど」

 それは一理あると、心臓と脳は、血管を管轄している彼のところにいけば、相変わらず、一心不乱に脳トレをやっている血管がいた。

「だから、血管さんさぁ……アンタがそれやっても意味ないって。柔らかくする部分間違ってるから」
「そうですよ。圧倒的に私の方がそれは得意です! つまり、私がやったほうが効率がいい」

 そういうことじゃねぇだろ。と、心臓が怒鳴りそうになるのを、どうにか飲み込んでいると、血管は首を横に振った。

「これは、私がやらなければ意味がない」
「なら、せめてお供を!」

 脳の悪ノリはとっくに始まっていたらしく、心臓が本題を忘れてるんじゃないかと聞けば、さすがにそこは頭脳をになっているだけあり、忘れてはいないと返された。

「ただまたウイリスのところで、不穏なこぶが出来てて。だから、あんまりテンション上げないでくださいね? 心臓君」
「……もう破裂したほうがラクなんじゃね?」

 ネガティブ思考に変わりつつある心臓を放っておいて、脳は脳トレを進めながら話を進めた。

「血栓? そりゃ、私が原因だったら把握してるが……それ、私よりも血液に言った方がいいんじゃない?」
「把握してるんですか?」
「まぁ、腫れて破れた後に出来たやつに関してだけは。でも、血液のとこのやつだろ? 血栓って」
「あぁ……なるほど」

 確かに、血栓は血小板などが固まったものだ。もしかしたら把握できているかもしれないと、血液の元に行ってみれば、

「ハァ?」

 凶悪ウイルスでも逃げ出したくなる凄みで返された。すでにネガティブモードに入っている心臓はもちろん、脳すらその凄みに返す言葉が見つからなかった。
 たった一人、平気な血管が今までの経緯を説明すると、やはり頬をひきつらせながら、一応答えてはくれた。

「確かに原因ではありますし、多少は把握しています。が、どいつがいなくなったとか、どれが寿命だったとか、そもそも単純に食われたりしてる奴もいるのに加えて、ゴミに関しては、マクロどもが食べかすをそのへんに捨てやがるし、そっちの確認の方が重要事項なんです」
「あ、うん。つまり、全部把握とか回収は無理ってことですね。わかりました。ありがとう」

 これ以上ここにいたら、それこそ本音が漏れ出してきそうだ。膵臓はまだしも、白血球を怒らせると危なすぎる。
 逃げるように心臓に戻ってくれば、結局、話は元に戻ってしまう。

「心臓君。やっぱり君がある程度、回収してくれるのが、一番だと思うんですよね」
「まぁ、気づく範囲でなら」
「個人的な恨みで血栓流さないでくれれば、別にいい気がしてきた……」
「そんなやつい――あ」

 そんな奴いないだろと思ったが、1人思い当たる臓器がいた。

「膵臓君に腎臓君たち、小腸君、眼球君、あと心臓君も。私が死んだほうがいいって言うじゃないか」
「そう聞くと、俺ら結構、殺伐としてるな……」
「まったく……」
「まぁ、俺は別にどっちでもいいけどな」
「え……」

 あまりにも自分に敵しかいないのを不憫に思って、味方してくれるのかと、今まで、よくおちょくっていたが今度から少しくらい優しくしてもいいかと、ほんの少しだけ思ったのだが、

「いや、だって、俺の仕事、主変わっても、ほとんど変わらねぇし」

 やっぱりこいつ脳筋だ。
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