上 下
5 / 25

4

しおりを挟む
日は西に傾きかけ、徐々に空が赤く染まり始めている。そんな夕暮れ時に、駕籠かごとその担ぎ手、馬に乗った二人の男が山の中を進んでいた。

「公方様、本当に駕籠に乗らなくて良いのですか?」

「何度もくどい。駕籠の中だとお前と話せないだろうが」

青年は、やんごとなき身分でありながら、用意された駕籠に乗らず、側近と共に馬を並べて進んでいた。

「公方様のお心は、無論承知しております。ただ、が公方様の運命を示しているというのは、にわかに信じられません」

かの者、と佐助が振り向いたのは、青年が乗るべきであるはずの立派な駕籠だった。この中では、何も知らない孤児がすやすやと眠っている。

実は、今回二人がこのような奥地を訪れたのは、昨晩の流れ星が理由であった。青年の運命を示す流れ星は、この山の麓に向かって落ちていった。その運命というのが何であるかを知るため、青年は側近と共に内密に調査に出向いて来たのである。

青年は駕籠を一瞥すると、面倒くさそうに溜め息をついた。

「流れ星の方角、お前の観測、目撃情報。全て流星が落ちた場所は、あの馬小屋ということで一致している。そして、あいつが目覚めたのも昨晩のあの馬小屋だ。まさかこれを偶然の一言で片付けられるはずないだろう」

とりあえず、青年は何としても白菊を宮廷に連れ込むつもりであった。それは星占いへの興味もあったが、白菊に対する好奇心も大きかった。

「フッ、あいつは面白い奴だな。あんなに大々的な即位式を行い、町中私の写し絵で溢れているというのに、初対面だから知らない、とは」

青年は口の端を釣りあげて笑った。彼は、自分のことを知らない者はいないと自負していた。それは彼がこの国の絶対的存在、統治者であるからだった。だがその自負は、白菊という少年によって破られたのである。青年は少なからずその事を面白く思っていた。

「しかし妙なものです。親に捨てられた身とはいえ、この国にいたのなら、公方様のお顔くらいどこかで見るものでしょうに…」

楽観的な青年に対し、側近の佐助は白菊のことを少しいぶかしく思っていた。それは、あの少年があまりにもこの世界に関して無知であるからだった。

「小屋かどこかに閉じ込められて育ったんだろう。哀れなものだ」

青年は、視線を落として深くため息をつく。彼は白菊の境遇に関して、国の主である自分に責任を感じていた。この国は一見すると平定されているようであったが、暗黒たる影が潜んでいた。その内の一つが、子どもに関する問題であったのだ。

「…もう、二度とあのような思いはしたくないからな」

青年が静かに呟いた言葉は、夕方の静寂しじまに消えていった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

性的イジメ

ポコたん
BL
この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。 作品説明:いじめの性的部分を取り上げて現代風にアレンジして作成。 全二話 毎週日曜日正午にUPされます。

【完結】運命さんこんにちは、さようなら

ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。 とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。 ========== 完結しました。ありがとうございました。

転生したので異世界でショタコンライフを堪能します

のりたまご飯
BL
30歳ショタコンだった俺は、駅のホームで気を失い、そのまま電車に撥ねられあっけなく死んだ。 けど、目が覚めるとそこは知らない天井...、どこかで見たことのある転生系アニメのようなシチュエーション。 どうやら俺は転生してしまったようだ。 元の世界で極度のショタコンだった俺は、ショタとして異世界で新たな人生を歩む!!! ショタ最高!ショタは世界を救う!!! ショタコンによるショタコンのためのBLコメディ小説であーる!!!

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる

クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。

Candle

音和うみ
BL
虐待を受け人に頼って来れなかった子と、それに寄り添おうとする子のお話

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

匂いがいい俺の日常

とうふ
BL
高校1年になった俺の悩みは 匂いがいいこと。 今日も兄弟、同級生、先生etcに匂いを嗅がれて引っ付かれてしまう。やめろ。嗅ぐな。離れろ。

どのみちヤられるならイケメン騎士がいい!

あーす。
BL
異世界に美少年になってトリップした元腐女子。 次々ヤられる色々なゲームステージの中、イケメン騎士が必ず登場。 どのみちヤられるんら、やっぱイケメン騎士だよね。 って事で、頑張ってイケメン騎士をオトすべく、奮闘する物語。

処理中です...