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日は西に傾きかけ、徐々に空が赤く染まり始めている。そんな夕暮れ時に、駕籠とその担ぎ手、馬に乗った二人の男が山の中を進んでいた。
「公方様、本当に駕籠に乗らなくて良いのですか?」
「何度もくどい。駕籠の中だとお前と話せないだろうが」
青年は、やんごとなき身分でありながら、用意された駕籠に乗らず、側近と共に馬を並べて進んでいた。
「公方様のお心は、無論承知しております。ただ、かの者が公方様の運命を示しているというのは、にわかに信じられません」
かの者、と佐助が振り向いたのは、青年が乗るべきであるはずの立派な駕籠だった。この中では、何も知らない孤児がすやすやと眠っている。
実は、今回二人がこのような奥地を訪れたのは、昨晩の流れ星が理由であった。青年の運命を示す流れ星は、この山の麓に向かって落ちていった。その運命というのが何であるかを知るため、青年は側近と共に内密に調査に出向いて来たのである。
青年は駕籠を一瞥すると、面倒くさそうに溜め息をついた。
「流れ星の方角、お前の観測、目撃情報。全て流星が落ちた場所は、あの馬小屋ということで一致している。そして、あいつが目覚めたのも昨晩のあの馬小屋だ。まさかこれを偶然の一言で片付けられるはずないだろう」
とりあえず、青年は何としても白菊を宮廷に連れ込むつもりであった。それは星占いへの興味もあったが、白菊に対する好奇心も大きかった。
「フッ、あいつは面白い奴だな。あんなに大々的な即位式を行い、町中私の写し絵で溢れているというのに、初対面だから知らない、とは」
青年は口の端を釣りあげて笑った。彼は、自分のことを知らない者はいないと自負していた。それは彼がこの国の絶対的存在、統治者であるからだった。だがその自負は、白菊という少年によって破られたのである。青年は少なからずその事を面白く思っていた。
「しかし妙なものです。親に捨てられた身とはいえ、この国にいたのなら、公方様のお顔くらいどこかで見るものでしょうに…」
楽観的な青年に対し、側近の佐助は白菊のことを少し訝しく思っていた。それは、あの少年があまりにもこの世界に関して無知であるからだった。
「小屋かどこかに閉じ込められて育ったんだろう。哀れなものだ」
青年は、視線を落として深くため息をつく。彼は白菊の境遇に関して、国の主である自分に責任を感じていた。この国は一見すると平定されているようであったが、暗黒たる影が潜んでいた。その内の一つが、子どもに関する問題であったのだ。
「…もう、二度とあのような思いはしたくないからな」
青年が静かに呟いた言葉は、夕方の静寂に消えていった。
「公方様、本当に駕籠に乗らなくて良いのですか?」
「何度もくどい。駕籠の中だとお前と話せないだろうが」
青年は、やんごとなき身分でありながら、用意された駕籠に乗らず、側近と共に馬を並べて進んでいた。
「公方様のお心は、無論承知しております。ただ、かの者が公方様の運命を示しているというのは、にわかに信じられません」
かの者、と佐助が振り向いたのは、青年が乗るべきであるはずの立派な駕籠だった。この中では、何も知らない孤児がすやすやと眠っている。
実は、今回二人がこのような奥地を訪れたのは、昨晩の流れ星が理由であった。青年の運命を示す流れ星は、この山の麓に向かって落ちていった。その運命というのが何であるかを知るため、青年は側近と共に内密に調査に出向いて来たのである。
青年は駕籠を一瞥すると、面倒くさそうに溜め息をついた。
「流れ星の方角、お前の観測、目撃情報。全て流星が落ちた場所は、あの馬小屋ということで一致している。そして、あいつが目覚めたのも昨晩のあの馬小屋だ。まさかこれを偶然の一言で片付けられるはずないだろう」
とりあえず、青年は何としても白菊を宮廷に連れ込むつもりであった。それは星占いへの興味もあったが、白菊に対する好奇心も大きかった。
「フッ、あいつは面白い奴だな。あんなに大々的な即位式を行い、町中私の写し絵で溢れているというのに、初対面だから知らない、とは」
青年は口の端を釣りあげて笑った。彼は、自分のことを知らない者はいないと自負していた。それは彼がこの国の絶対的存在、統治者であるからだった。だがその自負は、白菊という少年によって破られたのである。青年は少なからずその事を面白く思っていた。
「しかし妙なものです。親に捨てられた身とはいえ、この国にいたのなら、公方様のお顔くらいどこかで見るものでしょうに…」
楽観的な青年に対し、側近の佐助は白菊のことを少し訝しく思っていた。それは、あの少年があまりにもこの世界に関して無知であるからだった。
「小屋かどこかに閉じ込められて育ったんだろう。哀れなものだ」
青年は、視線を落として深くため息をつく。彼は白菊の境遇に関して、国の主である自分に責任を感じていた。この国は一見すると平定されているようであったが、暗黒たる影が潜んでいた。その内の一つが、子どもに関する問題であったのだ。
「…もう、二度とあのような思いはしたくないからな」
青年が静かに呟いた言葉は、夕方の静寂に消えていった。
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