時間のない恋

東雲 周

文字の大きさ
上 下
10 / 14

第十話

しおりを挟む


転入生。僕はそう呼ばれていた。時間の経過とともに少しずつ定着してきたが、今でもやはり、少し違和感が残る。
転入生。この学校には、ついこの前入ってきた。その前までは、部外者。
その扱いに、僕はなじめなかった。

いつこの学校にやってきたのか。そう聞かれると、返答に困る。五日前にやってきた設定なのか、それとも───
「光地之くんって、いつからこの学校に来たの?」
 やはり、感づかれていたか。誰かと、気軽に話せる仲になるべきではなかった。
 その場を取り繕うように言葉を発する。
 「うーん。この学校に来た、というのが、5日前のことを指すのか、それとも───」
 「光地之くんって、ほんとに転入生なの?」
 「まぁ、一応ね」
 「ふぅん……。なんかねぇ。闘い方が、初心者っぽくなかったから聞いてみたんだけど」
 「まぁ、正確には、『転入生』ではなく、『転校生』なんだけどね」
 「どういうこと?」
 「『転入生』というとなんか、記憶を消されてEクラスからCクラスに戻されてきた、みたいじゃない?学校が変わっている、ということを強調するためには『転校生』と言うべきだったかな。自己紹介のときに」
 「あぁ、そういえば、自己紹介の時のこと、覚えてる?」
 なぜかしらけてしまった、僕の自己紹介の時の雰囲気を思い出す。
 「うーん、あんなにしけた自己紹介は初めてだったよ」
 「確かに、面白くはなったんだけど、私が言いたいのはそこじゃなくて───」
 「うん?」
 「光地之くんが最後の方に言った、『皆さんがそれを見つけ、利用してくれることを願っています』というところ。なんかひっかかるんだよねぇ……」
 予想外の部分を突っ込まれて、返答に迷う。どう切り返そうか。
 「……、それがみんなの役に立つ才能だと思ったから、そう言っただけだよ」
 「なんだぁ。それだけのことかぁ。よかった」
 うまく返せたみたいだ。ほっと一息つく。安心してもらえてよかった。自分のペアには、できるだけ心配をかけたくない。
 「でも、一人で勝手に心配していた自分が恥ずかしいなぁ……」
 自分せいで、友達にまで心配をかけている。
 そう思うと、少し胸が痛んだ。



 これは、あくまでも「手紙」。
 なぜ、ここまで事細かに一つ一つの出来事を書く必要があるのか。
 そして、なぜ、ここまで鮮明に覚えているのか。



 僕は、物事を「丸暗記」しているのではない。



~続く
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

如月さんは なびかない。~片想い中のクラスで一番の美少女から、急に何故か告白された件~

八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」  ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。  蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。  これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。  一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【Vtuberさん向け】1人用フリー台本置き場《ネタ系/5分以内》

小熊井つん
大衆娯楽
Vtuberさん向けフリー台本置き場です ◆使用報告等不要ですのでどなたでもご自由にどうぞ ◆コメントで利用報告していただけた場合は聞きに行きます! ◆クレジット表記は任意です ※クレジット表記しない場合はフリー台本であることを明記してください 【ご利用にあたっての注意事項】  ⭕️OK ・収益化済みのチャンネルまたは配信での使用 ※ファンボックスや有料会員限定配信等『金銭の支払いをしないと視聴できないコンテンツ』での使用は不可 ✖️禁止事項 ・二次配布 ・自作発言 ・大幅なセリフ改変 ・こちらの台本を使用したボイスデータの販売

無責任な!!

なべ
ライト文芸
女子高生が二人いれば物語が始まりそうな気がする。 そんな二人が織りなす日常をお楽しみあれ。

一夏の性体験

風のように
恋愛
性に興味を持ち始めた頃に訪れた憧れの年上の女性との一夜の経験

処理中です...