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第三話
しおりを挟む僕と無条さんは明日開催される「試」の作戦を考えるために、学校から少し離れた公園で二人で話していた。
「だいたい、みんなはどんな手法を使ってくるの……?」
「まぁ、私たちみたいな中くらいの生徒たちが集まるCクラスでは、主に『殺傷できる』ものを使ってくるから、なんかワンパターンで見ていてもあまり面白くないと思うの」
僕がふと投げかけたこの素朴な質問に対する彼女の自然な答え方から、彼女が嘘をついているようには思えなかった。僕は彼女のこの言葉で確信した。僕は間違いなく昇格できると。そのうえで彼女にも一応確認をとっておく。
「じゃあ、僕はほとんど武装しないで闘うよ……」
僕の言葉に彼女は意味がわからない、といった表情で応答した。
「えっ?どういうこと?相手は必ずと言っていいほど、武器を使ってくるんだよ?」
「それを逆手に取るんだよ……」
「どうやって?」
「それは当日まで秘密だけど、きっと明日の僕らの試合は大いに盛り上げてみせるよ……」
「そんなことできるかなぁ……」
と、無条さんは不安そうな顔で何か思案していた。僕はそんな無条さんを置いて公園を離れる。
「じゃあ、また明日ね……」
「う、うん。じゃあね」
そういってそこから離れていくとき、僕は少し高揚していた。
~初陣当日~
僕たちは初陣当日の朝、いつもより少し早めに登校して、今日使う手法とサポーター役の無条さんの役割確認をすることになっていた。
「で、私はどんな風にサポートすればいいの」
無条さんの問いに対する答えは、もうすでに昨日の時点で準備済みだった。
「僕がピンチになったら、用意しておいたハンドガンを僕によこしてほしいんだけど……」
「それだけ?」
彼女はこのあと、僕が至難の業を強いてくるなどと思いもせずに、たったそれだけ?といった表情で僕を見返してきた。そんな彼女に向って僕は用意しておいた無理難題───恐らくSクラスのものにとっても───を吐いた。
「あとは、HP100%の状態をキープし続けてくれる?」
「え?それって───」
「ずっとだよ。試合が終わるまでずっとだよ」
「まじ……?私にそんなことができるかなぁ……」
僕はそんな無条さんの想定通りの反応を受けて、試合前ということで士気を落とすのは少しマズいので、彼女に励ましの言葉をかける。
「僕は無条さんを信じているよ……」
「うん……。頑張るね……」
自信なさげに言う彼女に僕は問いかけた。
「そういえば、無条さんって、勝利経験あるの?」
「ずっと負けっぱなしだよ。入学から今まで一勝もしたことがないの。そんな私が勝てるなんて夢にも思わな───」
「じゃあ、その夢を見ようよ。僕たち二人の初勝利はきっと今日になるよ」
「そうだね。闘う前から弱音を吐いてたらダメだよね!」
「貧弱な光地之」にも裏があるものだ。
「うん!僕たちの快進撃の始まりだ───」
という会話から30分後、今日行われる「試」の対闘組み合わせがC組のクラス担任から発表された。僕たちの相手TEAMは「井口・西野ペア」で、第三試合だった。
「───、それでは、本日の『試』の開催を、ここに宣言する───」
という若き校長の校内放送が流れ、C組の生徒たちの歓声が「組C専用対闘教室」中に広がった後、担任のホイッスルとともに第一試合がスタートした。
僕は「対闘教室」に関心を寄せていた。
「ねぇ無条さん。ここの壁や床って、どんな構造になっているの?」
「ここの壁や床には、どんなに強い衝撃を与えても教室のそとにその衝撃が漏れないように、特殊な加工が施されているの」
「へぇ~。この学校って、やっぱりすごい財力があるんだね」
「うん。まぁ、歴史はほとんどないに等しいけどね」
そう。僕がこの学校に転入してまで通いたかった理由がまさにこれ。自分の名前を、開校から数年しかたっていないこの学校の歴史に刻むこと。それが、僕がこの学校にこだわる理由のひとつ。
という風に理想の世界に入り浸っていると、気が付いたころには現実の世界ではもうすでに第一試合が終了して、第二試合が始まろうとしていた。
「光地之君、武台裏にいくよ」
「うん」
無条さんの説明によると、対闘は「武台」という、観闘席とは特殊なガラスによって区切られた、いわゆるステージのようなところで行われるらしい。そして、各々の試合の一つ前の試合が始まると、各組は「武台裏」に移動して待機するという。僕たちもそれに従って武台裏に移動した。
にしても、ここに来ると観闘席にいたときよりも、銃声や振動が激しく伝わってくる。出番が近づくにつれて、僕の胸の鼓動も激しくなっていく。
僕たちが移動を終えてから約30分後、第二試合の終了を告げるホイッスルが鳴った。そして僕は、武台に出る直前に無条さんに聞いておきたかったことを伝えた。
「『SDJ』がHPを100%と認識するタイミングはいつ?」
「『SDJ』を装着して、それのスイッチをONにすると、バックスクリーンに各自のHPが表示されるでしょ?」
「うん」
「そのタイミングだよ。スイッチをONにした瞬間の心理状態をHP100%と認識するの」
僕は彼女の目を見据えてはっきりと返事する。
「オッケー、わかったよ」
僕はひとつ、大きな深呼吸をして、精神統一を行う。
「準備はいい?」
無条さんの確認に大きくうなずいて、自己暗示をかける。
「任せろ」
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