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番外編
閑話 フィリップのクリスマス 前編
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※ ウルス視点で語るフィリップのクリスマス話を前後編で書いてみました。
朝、上司であり、幼馴染でもある王太子フィリップの執務室の扉をノックする。
「どうぞ~」
やけに明るい、フィリップの声が聞こえた。
条件反射的に警戒してしまう。
おそるおそる扉をあけると……、
「メリークリスマス、ウルス!」
そう言って、満面の笑みをうかべたフィリップ。
黒い笑顔じゃないから怒ってはいないようだが、上機嫌すぎるのも、これまた怖い……。
それに、今のはなんなんだ、あの耳慣れない言葉は……。
「フィリップ……。今、メリー……なんて言った? もしや呪いの言葉かなにかか……?」
「はあ、呪い? そんなこと、ぼくがするわけないよね。というか、なにか、ぼくに呪われることでもしたの、ウルスは?」
笑顔のままなのに、フィリップの目が一気に鋭くなった。
でた、猛禽類の目……。
「いや、まさか……。それより、呪いじゃないとしたら、一体なんなんだ、さっきの言葉は?」
「あ、メリークリスマスのこと? この前、異国から取り寄せた古い書物のなかに、異世界からきた渡り人のことが書いてあったんだ。その渡り人がいた世界では、神の子がいて、その神の子が生まれたことを祝う日があるんだって。で、その日に言う挨拶みたいな言葉がメリークリスマスってことらしいよ」
「そうか……。つまり、この国には全く関係ない、見ず知らずのだれかの誕生日を祝う言葉ってことか……。で、フィリップは、その誰かの誕生日が、なぜ、そんなに楽しそうなんだ?」
「ちょっと、ウルス! 誰かじゃなくて、神の子だよ。神の子といえば、この国で考えたら、誰を思い浮かべるでしょう? はい、ウルス、答えて」
この流れ、嫌な予感がする……。
「いや、別に。誰も思い浮かべない。神の子なんていない。いや、違うな。この国の民である俺たち全員が神の子だ。我ながら完璧な答えだ。ということで、異世界の話は終了。今日の仕事にとりかかるぞ、フィリップ」
「はい、ウルス、不正解! 答えはルイスに決まってるよ! 神の子といえば、天使。天使と言えば、ルイス! つまり、今日は、異世界でのルイスの誕生日みたいなもんだってこと。ぼくが楽しくなるのも当たり前だよねー」
「はあ? なんで、そうなるんだ……?」
朝っぱらから、わけのわからないことを聞かされ、頭が動かない。
ただ、ルイスが関わってくるとフィリップがめんどくさくなることだけは、はっきりわかる。
ということで、さっさと仕事にとりかかろうとしたら、「まだ、おわってないよー」と、フィリップ。
「異世界ではね、この日にプレゼントしたり、ごちそうを食べたり、ケーキを食べたりもするんだって」
「へえ……」
全く興味のわかない俺は手帳を手にとり、今日の予定を確認する。
「ということで、ウルスにもプレゼントを用意しました!」
「え……?」
思わず、眉間にしわをよせて、フィリップを見た。
「ちょっと、ウルス! なに、その嫌そうな顔は!? 普通、プレゼントっていったら、喜ぶもんでしょ?」
「普通はな。だが、俺はフィリップのプレゼントには嫌な思い出がある。はっきりいって、トラウマもんだ。だから、いらん!」
そう、忘れたくても忘れられない、あの、憎々しいグリーンの服。
いや、服に罪はない。憎々しいのはフィリップか……。
しかも、もう、二度と着ないと決めたのに、服の質がよすぎて、もったいなくて捨てることもできない。
さらに、どんなに腹黒であろうが、フィリップは王太子。
王太子の贈り物をむやみに他人にあげることもできない。
仕方なく、俺にそっくりの顔をした兄にもらってもらおうとしたら、「いや、俺ではそんな華やかなグリーンは着こなせない。ウルス、よく、それを着てみようと思ったな」と、更に傷をえぐられた。
ということで、結局、俺のクローゼットの奥にしまいこんでいる。
「あれは、ぼくのほうが、センスを疑われてショックだったんだよね。グリーンが似合わなさすぎたウルスのせいなのに」
「はああ!? ふざけんな!」
思わず、心の声がもれでてしまった。
王太子に向かって言う言葉じゃないけれど仕方がない。
が、フィリップは気を悪くするでもなく、それどころか、楽しそうに微笑んだ。
この顔はなにか企んでいる!
警戒心マックスの俺にフィリップが言った。
「まあ、今日のプレゼントは服じゃないから。ウルス、安心して。ということで、大きいプレゼントと、小さいプレゼント、どっちがいい?」
「小さいほう」
即答した俺。
服ではないにしても、フィリップの考えは読めない。
俺にとって不要な物である可能性もおおいにある。
それならば、保存場所に困らないよう、小さい物のほうがいい。
そう、俺はあのグリーンの服で学習したんだ。
フィリップが探るように俺の目をのぞきこんでくる。
「ウルス、本当に小さいほうでいい? 大きいプレゼントのほうが素敵な物かもしれないけど?」
「いや、小さいほうで頼む!」
断固、宣言する俺。
「わかった。じゃあ、遠慮深いウルスには特別にふたつともあげまーす!」
「ふたつ!? いや、だから、いらないって言ってるだろう!?」
俺が声を荒げたところで、ノックの音がした。
※ 不定期ななか、読んでくださっている方、ありがとうございます! お気に入り登録、エール、いいねもありがとうございます! とても励みになっております!
今回のお話にでてくるグリーンの服の詳しい話は「閑話 ウルスの休日」編のなかにあります。
明日、後編を更新する予定ですので、よろしくお願いいたします。
朝、上司であり、幼馴染でもある王太子フィリップの執務室の扉をノックする。
「どうぞ~」
やけに明るい、フィリップの声が聞こえた。
条件反射的に警戒してしまう。
おそるおそる扉をあけると……、
「メリークリスマス、ウルス!」
そう言って、満面の笑みをうかべたフィリップ。
黒い笑顔じゃないから怒ってはいないようだが、上機嫌すぎるのも、これまた怖い……。
それに、今のはなんなんだ、あの耳慣れない言葉は……。
「フィリップ……。今、メリー……なんて言った? もしや呪いの言葉かなにかか……?」
「はあ、呪い? そんなこと、ぼくがするわけないよね。というか、なにか、ぼくに呪われることでもしたの、ウルスは?」
笑顔のままなのに、フィリップの目が一気に鋭くなった。
でた、猛禽類の目……。
「いや、まさか……。それより、呪いじゃないとしたら、一体なんなんだ、さっきの言葉は?」
「あ、メリークリスマスのこと? この前、異国から取り寄せた古い書物のなかに、異世界からきた渡り人のことが書いてあったんだ。その渡り人がいた世界では、神の子がいて、その神の子が生まれたことを祝う日があるんだって。で、その日に言う挨拶みたいな言葉がメリークリスマスってことらしいよ」
「そうか……。つまり、この国には全く関係ない、見ず知らずのだれかの誕生日を祝う言葉ってことか……。で、フィリップは、その誰かの誕生日が、なぜ、そんなに楽しそうなんだ?」
「ちょっと、ウルス! 誰かじゃなくて、神の子だよ。神の子といえば、この国で考えたら、誰を思い浮かべるでしょう? はい、ウルス、答えて」
この流れ、嫌な予感がする……。
「いや、別に。誰も思い浮かべない。神の子なんていない。いや、違うな。この国の民である俺たち全員が神の子だ。我ながら完璧な答えだ。ということで、異世界の話は終了。今日の仕事にとりかかるぞ、フィリップ」
「はい、ウルス、不正解! 答えはルイスに決まってるよ! 神の子といえば、天使。天使と言えば、ルイス! つまり、今日は、異世界でのルイスの誕生日みたいなもんだってこと。ぼくが楽しくなるのも当たり前だよねー」
「はあ? なんで、そうなるんだ……?」
朝っぱらから、わけのわからないことを聞かされ、頭が動かない。
ただ、ルイスが関わってくるとフィリップがめんどくさくなることだけは、はっきりわかる。
ということで、さっさと仕事にとりかかろうとしたら、「まだ、おわってないよー」と、フィリップ。
「異世界ではね、この日にプレゼントしたり、ごちそうを食べたり、ケーキを食べたりもするんだって」
「へえ……」
全く興味のわかない俺は手帳を手にとり、今日の予定を確認する。
「ということで、ウルスにもプレゼントを用意しました!」
「え……?」
思わず、眉間にしわをよせて、フィリップを見た。
「ちょっと、ウルス! なに、その嫌そうな顔は!? 普通、プレゼントっていったら、喜ぶもんでしょ?」
「普通はな。だが、俺はフィリップのプレゼントには嫌な思い出がある。はっきりいって、トラウマもんだ。だから、いらん!」
そう、忘れたくても忘れられない、あの、憎々しいグリーンの服。
いや、服に罪はない。憎々しいのはフィリップか……。
しかも、もう、二度と着ないと決めたのに、服の質がよすぎて、もったいなくて捨てることもできない。
さらに、どんなに腹黒であろうが、フィリップは王太子。
王太子の贈り物をむやみに他人にあげることもできない。
仕方なく、俺にそっくりの顔をした兄にもらってもらおうとしたら、「いや、俺ではそんな華やかなグリーンは着こなせない。ウルス、よく、それを着てみようと思ったな」と、更に傷をえぐられた。
ということで、結局、俺のクローゼットの奥にしまいこんでいる。
「あれは、ぼくのほうが、センスを疑われてショックだったんだよね。グリーンが似合わなさすぎたウルスのせいなのに」
「はああ!? ふざけんな!」
思わず、心の声がもれでてしまった。
王太子に向かって言う言葉じゃないけれど仕方がない。
が、フィリップは気を悪くするでもなく、それどころか、楽しそうに微笑んだ。
この顔はなにか企んでいる!
警戒心マックスの俺にフィリップが言った。
「まあ、今日のプレゼントは服じゃないから。ウルス、安心して。ということで、大きいプレゼントと、小さいプレゼント、どっちがいい?」
「小さいほう」
即答した俺。
服ではないにしても、フィリップの考えは読めない。
俺にとって不要な物である可能性もおおいにある。
それならば、保存場所に困らないよう、小さい物のほうがいい。
そう、俺はあのグリーンの服で学習したんだ。
フィリップが探るように俺の目をのぞきこんでくる。
「ウルス、本当に小さいほうでいい? 大きいプレゼントのほうが素敵な物かもしれないけど?」
「いや、小さいほうで頼む!」
断固、宣言する俺。
「わかった。じゃあ、遠慮深いウルスには特別にふたつともあげまーす!」
「ふたつ!? いや、だから、いらないって言ってるだろう!?」
俺が声を荒げたところで、ノックの音がした。
※ 不定期ななか、読んでくださっている方、ありがとうございます! お気に入り登録、エール、いいねもありがとうございます! とても励みになっております!
今回のお話にでてくるグリーンの服の詳しい話は「閑話 ウルスの休日」編のなかにあります。
明日、後編を更新する予定ですので、よろしくお願いいたします。
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