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番外編
辺境で 12 (アリス視点)
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※ 引き続き、アリス視点となります。
不思議に思った私は離れたままのふたりに向かって、聞いてみた。
「あの……、おふたりは、私と距離があるんですが、なにかあるんですか?」
すると、アールさんが困ったように微笑んだ。
「やはり不自然でしたよね……。これは、騎士団長様からの指示なんです」
つまり、王妃様の指示ってことよね。
どういうことなんだろう?
「それは、たとえば、三人で護衛するときは、二人は離れた位置に立つとか、辺境騎士団ならではのルールがあるとかですか……?」
「あ、いえ、そういうことではないんです。今後、護衛するために必要であると判断した場合は、いくらだって、アリス様に近づきます。アリス様をお守りすることがなにより大事ですので。……ただ、騎士団長様から初対面の時は、アリス様を怖がらせないよう、マチルダ以外はむやみに近づくなと言われておりまして」
と、アールさん。
え……? 私を怖がらせないように?
ますます意味がわからない。
すると、私の近くに立っているマチルダさんが微笑みながら私に言った。
「兄やロイスは体が大きいでしょう?」
「ええ……」
「騎士団長様はそんなふたりがいきなり近づいたら、アリス様が怖がるんじゃないかって心配されたようです」
「なんでかしら……? 優しそうなおふたりだから、怖い要素なんて、まるでないのに……」
私の言葉を聞いて、アールさんが「それはよかった。なあ、ロイス」と、隣に立っているロイスさんに笑顔で声をかけている。
「怖がられたら悲しいですからね」
と、ロイスさん。
ふたりの様子を見ながら、はっと思いついたことがあった。
もしかして、王妃様は、私がものすごく怖がりだと思われてるんじゃないかしら……。
だって、ルイス様とのお茶会の直後に王妃様にお会いしたから、王妃様は、あの修行のようなお茶会の様子を見ていたのかもしれない。
ルイス様が食べるよう指示したお菓子を、無言で食べる私を……。
でも、あれはルイス様が怖いから黙ってるんじゃないのよね。
「アリス様。心の声が口に出てます」
隣にいたメアリーが小声で注意してきた。
え? もれてた?
反射的に両手で口をおさえる私。
大きな目をくりくりさせて私を見ていたマチルダさん。
ほーっと息をついた。
「なるほど……。騎士団長様のお気持がわかります。アリス様がかわいらしい……」
「マチルダさん……?」
「あ、すみません。私も、つい心の声がもれました! 実は、騎士団長様に教えていただいていたんです。アリス様が、とてもかわいらしい方で、まるで小動物のようだと」
「小動物のようって……、私が……?」
「騎士団長様のお言葉をそのままお伝えしますね。『アリスは小さく愛らしい。小動物そのものだ。そんなアリスにとったら、体の大きいアールとロイスはクマだ。いきなり、クマが近づいたら、当然、小動物はおびえる。警戒するからな。クマの多い辺境に行きたくないなんて言われないよう、初対面の時は、アールとロイスはむやみにアリスに近づくな。慎重に距離をつめろ。馬車に乗せてからも、アリスが途中で帰るなんて言わないよう、最善の注意を払え』と、命じられました」
「……」
思わず無言になった私。
隣では、笑い上戸のメアリーが我慢できずに、ふきだしている。
ええと、なんて答えていいかわからないけれど、とりあえず、私は小動物ではない。
それに、アールさんとロイスさんもクマではない。もちろん、怖くもない……。
ふと、以前お会いした時の王妃様との会話を思い出した。
確か、動物が好きかと聞かれて、私が小さな動物が好きだと答えたのよね。
すると、王妃様が、「そうだろうとも。仲間だもんな」とか、「私の領地にはね、沢山の小動物がいるから寂しくないぞ」と言われていたような……。
その時は、意味が分からなかったけれど、私=小動物だと仮定すれば意味が通る。
つまり、王妃様には私が小動物に見えてるってこと!?
そんなことを考えながら、私は促されるままに、頑丈そうな辺境伯様の紋章の入った馬車に乗り込んだ。
不思議に思った私は離れたままのふたりに向かって、聞いてみた。
「あの……、おふたりは、私と距離があるんですが、なにかあるんですか?」
すると、アールさんが困ったように微笑んだ。
「やはり不自然でしたよね……。これは、騎士団長様からの指示なんです」
つまり、王妃様の指示ってことよね。
どういうことなんだろう?
「それは、たとえば、三人で護衛するときは、二人は離れた位置に立つとか、辺境騎士団ならではのルールがあるとかですか……?」
「あ、いえ、そういうことではないんです。今後、護衛するために必要であると判断した場合は、いくらだって、アリス様に近づきます。アリス様をお守りすることがなにより大事ですので。……ただ、騎士団長様から初対面の時は、アリス様を怖がらせないよう、マチルダ以外はむやみに近づくなと言われておりまして」
と、アールさん。
え……? 私を怖がらせないように?
ますます意味がわからない。
すると、私の近くに立っているマチルダさんが微笑みながら私に言った。
「兄やロイスは体が大きいでしょう?」
「ええ……」
「騎士団長様はそんなふたりがいきなり近づいたら、アリス様が怖がるんじゃないかって心配されたようです」
「なんでかしら……? 優しそうなおふたりだから、怖い要素なんて、まるでないのに……」
私の言葉を聞いて、アールさんが「それはよかった。なあ、ロイス」と、隣に立っているロイスさんに笑顔で声をかけている。
「怖がられたら悲しいですからね」
と、ロイスさん。
ふたりの様子を見ながら、はっと思いついたことがあった。
もしかして、王妃様は、私がものすごく怖がりだと思われてるんじゃないかしら……。
だって、ルイス様とのお茶会の直後に王妃様にお会いしたから、王妃様は、あの修行のようなお茶会の様子を見ていたのかもしれない。
ルイス様が食べるよう指示したお菓子を、無言で食べる私を……。
でも、あれはルイス様が怖いから黙ってるんじゃないのよね。
「アリス様。心の声が口に出てます」
隣にいたメアリーが小声で注意してきた。
え? もれてた?
反射的に両手で口をおさえる私。
大きな目をくりくりさせて私を見ていたマチルダさん。
ほーっと息をついた。
「なるほど……。騎士団長様のお気持がわかります。アリス様がかわいらしい……」
「マチルダさん……?」
「あ、すみません。私も、つい心の声がもれました! 実は、騎士団長様に教えていただいていたんです。アリス様が、とてもかわいらしい方で、まるで小動物のようだと」
「小動物のようって……、私が……?」
「騎士団長様のお言葉をそのままお伝えしますね。『アリスは小さく愛らしい。小動物そのものだ。そんなアリスにとったら、体の大きいアールとロイスはクマだ。いきなり、クマが近づいたら、当然、小動物はおびえる。警戒するからな。クマの多い辺境に行きたくないなんて言われないよう、初対面の時は、アールとロイスはむやみにアリスに近づくな。慎重に距離をつめろ。馬車に乗せてからも、アリスが途中で帰るなんて言わないよう、最善の注意を払え』と、命じられました」
「……」
思わず無言になった私。
隣では、笑い上戸のメアリーが我慢できずに、ふきだしている。
ええと、なんて答えていいかわからないけれど、とりあえず、私は小動物ではない。
それに、アールさんとロイスさんもクマではない。もちろん、怖くもない……。
ふと、以前お会いした時の王妃様との会話を思い出した。
確か、動物が好きかと聞かれて、私が小さな動物が好きだと答えたのよね。
すると、王妃様が、「そうだろうとも。仲間だもんな」とか、「私の領地にはね、沢山の小動物がいるから寂しくないぞ」と言われていたような……。
その時は、意味が分からなかったけれど、私=小動物だと仮定すれば意味が通る。
つまり、王妃様には私が小動物に見えてるってこと!?
そんなことを考えながら、私は促されるままに、頑丈そうな辺境伯様の紋章の入った馬車に乗り込んだ。
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笑いまくりました。面白いです。このまま、ナナメ上の熱情満載で爆走して下さいませ。最後まで混沌として、思い込みがすれ違ったままハッピーエンドに向かって登場人物達が小事をおお事にしながら、大団円に向かって行くのを楽しみにまっています。
祐様、あたたかいコメントをありがとうございます!
>笑いまくりました。面白いです。
もう、最高の誉め言葉です! ものすごく嬉しくて舞い上がりました!!
笑ってくださったら本望です。
>登場人物達が小事をおお事にしながら
あまりに的を得ていて、思わず、笑ってしまいました! 本当にそうなんです。
そして、今後も続くという……(;^ω^)
が、そんな登場人物たちを楽しんでくださって、本当に嬉しいです。
今後もこんな感じ💦ですが、よろしくお願いいたします!
このお話を見つけだして読んでくださり、あたたかいコメントまでいただき、本当にありがとうございます!
とてもとても励まされました!
作者様のコメントを読んで、心配になったのですが、アリス&ルイスが結婚💒💕するまでにルイスの気持ちやお茶会=修行会じゃなくお茶会=婚約者触れ合いの場になったらいいですけど、やはりルイスの代弁者が必要では?
王太子様やマークにその役目をしてもらいたいけど無理かな💦
でもほのぼのカップルだからこのままでもいいのかな?
気になるけどこのままが良い気もしますし迷いますね(^○^)
次回も楽しみです😊💕
キノコ♪様、ご心配いただいて、ありがとうございます!
いや、本当に、ルイスの代弁者がいたらいいんですが、見当たらない……💦
おっしゃるとおり、王太子やマークでは無理かと……(-_-;)
今は本編より過去なので、本編でやっとルイスの気持ちがアリスに伝わるまで、まだまだ、このままということになります……😿 が、ほのぼのカップルといってくださって、ほっ……!
次回も楽しみと言ってくださって、本当に嬉しいです。
いつも作品に思いをよせてくださり、あたたかいコメント、本当にありがとうございます!
励みにさせていただいています!
アリスとルイスのお茶会の様子を具体的に知りたい🩷アリスが言っているけど「ルイスの指示でお菓子を食べている、、、。」とあるけど指示ってなに???
指示でお茶菓子を食べる物なのか?
アリスが好きすぎて口下手なルイスの為に誰か側近達がアリスにルイスが思っている事を伝えられたら拗れることもないだろうけど、私が思うに、ルイス大好き❤王太子様の言動や行動とか王妃様の言動や行動とか周りの配慮が足りてない気もしますねー💦
いつ頃、アリスはルイスの気持ちに気づくのか?もどかしいけど初々しいカップルだから見守ろうと思います。ルイスがんばれ〜‼️
それにしても騎士達は、いざと言う時に対象者であるアリスを護衛しないといけないのにそんなに離れていて大丈夫なのか?
あまり離れていたら守れないのでは?
まぁ、離れていた理由は、分かりましたのでスッキリしました☆彡
やはり王妃様は、アリスの事を🐿️と思っていたのですよね。まぁ、名前からして🐿️だしね🩷
体が大きい騎士達はクマ🐻ですか?
と言う事は、アリスは騎士達🐻は怖くないのにルイスのお茶会では「修行会」として捉えていると言う事ですね。なんか、、、涙ぐましい努力をしているのにアリスに一粒も気持ちが通じていない、、、ルイスかわいそう😭ルイスがんばれ〜応援しているよ(^○^)
キノコ♪様、いつもあたたかいコメントをありがとうございます!
「ルイスの指示で~」って、お茶会の様子として、変ですよね……(-_-;)
ルイスは初対面でアリスを泣かせてしまったため、絶対に失言をしないよう、選びに選んだ(変ですが……)最小限の言葉でアリスに接しています。
何年もたってますが、いまだ、アリスノートに書いた十か条(これも変ですが……)を守っていて、お茶会の会話といえば、アリスに食べてほしいお菓子をすすめるのみです。
が、その言葉も「これ、食べろ」みたいな感じなので、アリスにとったら、食べるよう指示というか、命令されているみたいにずっと思っています。
>周りの配慮が足りてない気もしますねー💦
いや、本当に、その通りだと思います!!
本当にもどかしいところですが、ルイスへのあたたかい応援、ありがとうございます!
先はまだまだ長いです……💦
おっしゃるとおり、騎士たちは、いざという時は離れてたらダメですよね。
一応、最初の挨拶だけは怖がらせないよう、むやみに近づくなと指示がでてますが、慎重に距離をつめろとも言われてるので、王妃は怖がらせないよう騎士たちに慣れさせる目論見のようです。
>名前からして🐿️だしね🩷
おおー、そうですね!! リスが入っているの気づかなかったです!
ルイスとのお茶会をアリスが修行だと思っているとルイスが知ったら……😿
そんなかわいそうなルイスに励ましの言葉をありがとうございます! 嬉しいです!
いつもよんでくださり、楽しいコメントを本当にありがとうございます!
とても励まされております!