117 / 125
番外編
辺境で 7 (ウルス視点)
しおりを挟む
※ 今回はウルス視点です。
フィリップの執務室の中へ早く入るように促したにもかかわらず、入口で足がぴたりと止まったままのマーク。
ルイスの親友で、切れ者宰相に似た頭脳を持ち、次世代の貴族の子息の中ではぬきんでて有望で、一見、無敵のように思えるが、今は、唯一にして最大の弱点フィリップを前に警戒心まるだしになっている。
「敵の住処には入るな」という本能からの指令なのか、足が動かないようだ。
「へえ、いいね、その警戒心。マークは野生でも生きられそうだよね」
脅かしている張本人のフィリップが、動けないマークに楽しそうに声をかけている。
どの口が言うんだ……。
「恐縮です」
と、答えるマーク。
なんなんだ、この変な会話は……。
このままだと埒が明かないので、俺はマークの手をつかみ、執務室の中に引きずりこむと、テーブルのところに案内して、無理やり椅子に座らせた。
その隣にルイスが坐った。
そして、ルイスの目の前にはフィリップが坐った。
「ウルス、マークにもお茶とケーキを」
にこやかに言ったフィリップ。
即座に、マークが猛烈に首を横にふった。
「いえいえいえ、お気遣いなく! 話したら、すぐに失礼しますので」
「ああ、そのほうがいい」
思わず、俺の心の声が飛び出した。
「遠慮せずにゆっくりしていってよ、マーク」
にっこり微笑むフィリップに、マークの顔が更にひきつった。
次の瞬間、ルイスがマークの肩をがしっとつかみ、自分の方へ向けた。
「アリスに関する話とはなんだ? 何があった? 早く話せ、マーク」
待ちきれない様子で、マークを急かすルイス。
無表情と言われるルイスだが、俺から見れば、アリス嬢に関することになったら、全身から感情がもれだしまくっているように思える。
そんなルイスを、にこにこと嬉しそうに見つめながら、「ほんと一途で、愛らしくて、輝いていて、誠実で、まさに光の天使だよね、うちのルイスは!」とか、気持ち悪いことをつぶやくフィリップ。
上機嫌のフィリップが余計に怖いのか、マークが顔を固くさせたまま、言葉を選ぶようにして、慎重に話し始めた。
「実は、アリスに王妃様から、お茶会の招待状が届いたんです……」
「お茶会? 母上、こっちへ来るの? ウルス、その予定、聞いてないんだけど?」
不満げに俺を見たフィリップ。ルイスを見る目との落差がすごいな……。
王妃様とフィリップは一見真逆のようでいて、本質は似ている。
そのためか、よくぶつかる二人。しかも、お互い一歩もひかず、ど派手な言い争いになる。
ちなみに、そんな二人の言い争いに口を挟めるのは、家族である王様とルイスだが、ルイスはアリス嬢のことでなかったら、どうでもよさそうで、大抵は聞き流している。
王様は毎度毎度、止めようとするが、その声は、王妃様の声量にかき消されてしまって、二人の耳には届かない。
そう、王様では全く止められないんだよな……。
なんて考えていたら、あわてた様子で、マークが言った。
「あ、いえ……、王太子様、違います! アリスが招待されたのは、王宮ではなく、辺境伯様の城にです」
次の瞬間、ルイスが椅子を蹴って立ち上がった。
「アリスは辺境へ行くのか!?」
ルイスの言葉に、マークがうなずいた。
「ああ。しかも、ひとりでだ。護衛はよこしてくださるらしいが、あんな遠くまで、アリスだけで行くなんて、心配だ。俺も付き添いたいが、領地に行かないといけなくて無理なんだ」
「母上は一体何を考えてる? アリスに何かあったらどうするんだ! わかった。俺がアリスの代わりに辺境へ行く」
そう言い放ったルイス。
アリス嬢の代わりに、ルイスが辺境へ行く?
いやいや、ルイス……。それは、いくらなんでも、おかしくないか……?
それに、そこまで騒ぐことか?
確かに、辺境までは遠いが、王妃様の差配なら、何の心配もいらないだろう?
とにかく、フィリップが首をつっこむような、面倒ごとでなくてよかった……。
マークとルイスには、さっさと帰ってもらい、フィリップには仕事に戻ってもらうか……。
と思ったら、フィリップまで、立ち上がった。
「それなら、僕もルイスと一緒に行く! あんな遠いところへ、ルイス一人で行かせられないよ!」
は……?
いやいやいや、フィリップ……。なんで、そうなるんだ……?
※ 不定期な更新で、読みづらいと思いますが、読んでくださった方、本当にありがとうございます!
お気に入り登録、いいね、ご感想、エールもありがとうございます!
大変、励みになっております!!
フィリップの執務室の中へ早く入るように促したにもかかわらず、入口で足がぴたりと止まったままのマーク。
ルイスの親友で、切れ者宰相に似た頭脳を持ち、次世代の貴族の子息の中ではぬきんでて有望で、一見、無敵のように思えるが、今は、唯一にして最大の弱点フィリップを前に警戒心まるだしになっている。
「敵の住処には入るな」という本能からの指令なのか、足が動かないようだ。
「へえ、いいね、その警戒心。マークは野生でも生きられそうだよね」
脅かしている張本人のフィリップが、動けないマークに楽しそうに声をかけている。
どの口が言うんだ……。
「恐縮です」
と、答えるマーク。
なんなんだ、この変な会話は……。
このままだと埒が明かないので、俺はマークの手をつかみ、執務室の中に引きずりこむと、テーブルのところに案内して、無理やり椅子に座らせた。
その隣にルイスが坐った。
そして、ルイスの目の前にはフィリップが坐った。
「ウルス、マークにもお茶とケーキを」
にこやかに言ったフィリップ。
即座に、マークが猛烈に首を横にふった。
「いえいえいえ、お気遣いなく! 話したら、すぐに失礼しますので」
「ああ、そのほうがいい」
思わず、俺の心の声が飛び出した。
「遠慮せずにゆっくりしていってよ、マーク」
にっこり微笑むフィリップに、マークの顔が更にひきつった。
次の瞬間、ルイスがマークの肩をがしっとつかみ、自分の方へ向けた。
「アリスに関する話とはなんだ? 何があった? 早く話せ、マーク」
待ちきれない様子で、マークを急かすルイス。
無表情と言われるルイスだが、俺から見れば、アリス嬢に関することになったら、全身から感情がもれだしまくっているように思える。
そんなルイスを、にこにこと嬉しそうに見つめながら、「ほんと一途で、愛らしくて、輝いていて、誠実で、まさに光の天使だよね、うちのルイスは!」とか、気持ち悪いことをつぶやくフィリップ。
上機嫌のフィリップが余計に怖いのか、マークが顔を固くさせたまま、言葉を選ぶようにして、慎重に話し始めた。
「実は、アリスに王妃様から、お茶会の招待状が届いたんです……」
「お茶会? 母上、こっちへ来るの? ウルス、その予定、聞いてないんだけど?」
不満げに俺を見たフィリップ。ルイスを見る目との落差がすごいな……。
王妃様とフィリップは一見真逆のようでいて、本質は似ている。
そのためか、よくぶつかる二人。しかも、お互い一歩もひかず、ど派手な言い争いになる。
ちなみに、そんな二人の言い争いに口を挟めるのは、家族である王様とルイスだが、ルイスはアリス嬢のことでなかったら、どうでもよさそうで、大抵は聞き流している。
王様は毎度毎度、止めようとするが、その声は、王妃様の声量にかき消されてしまって、二人の耳には届かない。
そう、王様では全く止められないんだよな……。
なんて考えていたら、あわてた様子で、マークが言った。
「あ、いえ……、王太子様、違います! アリスが招待されたのは、王宮ではなく、辺境伯様の城にです」
次の瞬間、ルイスが椅子を蹴って立ち上がった。
「アリスは辺境へ行くのか!?」
ルイスの言葉に、マークがうなずいた。
「ああ。しかも、ひとりでだ。護衛はよこしてくださるらしいが、あんな遠くまで、アリスだけで行くなんて、心配だ。俺も付き添いたいが、領地に行かないといけなくて無理なんだ」
「母上は一体何を考えてる? アリスに何かあったらどうするんだ! わかった。俺がアリスの代わりに辺境へ行く」
そう言い放ったルイス。
アリス嬢の代わりに、ルイスが辺境へ行く?
いやいや、ルイス……。それは、いくらなんでも、おかしくないか……?
それに、そこまで騒ぐことか?
確かに、辺境までは遠いが、王妃様の差配なら、何の心配もいらないだろう?
とにかく、フィリップが首をつっこむような、面倒ごとでなくてよかった……。
マークとルイスには、さっさと帰ってもらい、フィリップには仕事に戻ってもらうか……。
と思ったら、フィリップまで、立ち上がった。
「それなら、僕もルイスと一緒に行く! あんな遠いところへ、ルイス一人で行かせられないよ!」
は……?
いやいやいや、フィリップ……。なんで、そうなるんだ……?
※ 不定期な更新で、読みづらいと思いますが、読んでくださった方、本当にありがとうございます!
お気に入り登録、いいね、ご感想、エールもありがとうございます!
大変、励みになっております!!
150
お気に入りに追加
1,780
あなたにおすすめの小説

本日より他人として生きさせていただきます
ネコ
恋愛
伯爵令嬢のアルマは、愛のない婚約者レオナードに尽くし続けてきた。しかし、彼の隣にはいつも「運命の相手」を自称する美女の姿が。家族も周囲もレオナードの一方的なわがままを容認するばかり。ある夜会で二人の逢瀬を目撃したアルマは、今さら怒る気力も失せてしまう。「それなら私は他人として過ごしましょう」そう告げて婚約破棄に踏み切る。だが、彼女が去った瞬間からレオナードの人生には不穏なほつれが生じ始めるのだった。

婚約者の側室に嫌がらせされたので逃げてみました。
アトラス
恋愛
公爵令嬢のリリア・カーテノイドは婚約者である王太子殿下が側室を持ったことを知らされる。側室となったガーネット子爵令嬢は殿下の寵愛を盾にリリアに度重なる嫌がらせをしていた。
いやになったリリアは王城からの逃亡を決意する。
だがその途端に、王太子殿下の態度が豹変して・・・
「いつわたしが婚約破棄すると言った?」
私に飽きたんじゃなかったんですか!?
……………………………
たくさんの方々に読んで頂き、大変嬉しく思っています。お気に入り、しおりありがとうございます。とても励みになっています。今後ともどうぞよろしくお願いします!

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします
希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。
国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。
隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。
「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

わたしにはもうこの子がいるので、いまさら愛してもらわなくても結構です。
ふまさ
恋愛
伯爵令嬢のリネットは、婚約者のハワードを、盲目的に愛していた。友人に、他の令嬢と親しげに歩いていたと言われても信じず、暴言を吐かれても、彼は子どものように純粋無垢だから仕方ないと自分を納得させていた。
けれど。
「──なんか、こうして改めて見ると猿みたいだし、不細工だなあ。本当に、ぼくときみの子?」
他でもない。二人の子ども──ルシアンへの暴言をきっかけに、ハワードへの絶対的な愛が、リネットの中で確かに崩れていく音がした。

公爵令息は妹を選ぶらしいので私は旅に出ます
ネコ
恋愛
公爵令息ラウルの婚約者だったエリンは、なぜかいつも“愛らしい妹”に優先順位を奪われていた。正当な抗議も「ただの嫉妬だろう」と取り合われず、遂に婚約破棄へ。放り出されても涙は出ない。ならば持ち前の治癒魔法を活かして自由に生きよう――そう決めたエリンの旅立ち先で、運命は大きく動き出す。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

ご自慢の聖女がいるのだから、私は失礼しますわ
ネコ
恋愛
伯爵令嬢ユリアは、幼い頃から第二王子アレクサンドルの婚約者。だが、留学から戻ってきたアレクサンドルは「聖女が僕の真実の花嫁だ」と堂々宣言。周囲は“奇跡の力を持つ聖女”と王子の恋を応援し、ユリアを貶める噂まで広まった。婚約者の座を奪われるより先に、ユリアは自分から破棄を申し出る。「お好きにどうぞ。もう私には関係ありません」そう言った途端、王宮では聖女の力が何かとおかしな騒ぎを起こし始めるのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる