111 / 125
番外編
辺境で 1
しおりを挟む
※ お久しぶりです! 王妃視点からスタートします。
今、私はいらいらしている。
というのも、机には山積みの書類。
辺境伯である私が目を通さないといけないものばかりだ。
これが終わらないと外に出られない。
「体がなまる! 少しでいいから騎士団の訓練に行かせてくれ!」
「ダメです。それに、ミラベル様は、昨日まで、騎士団で訓練ばかりされていたはずですが? そのため、辺境伯様としての書類が、こんなにたまっているのですよ?」
と、私の側近であるアーノルドが淡々と言った。
生まれ育ったこの辺境の城には、私が子どもの頃から働いてくれている者たちも多く、皆、私のことを名前で呼ぶ。
前辺境伯であった私の父から仕事を叩き込まれているアーノルドもその筆頭で、私が子どもの頃は私の教育係として、今は私の側近として補佐してくれている。
まあ、年の離れた兄のような存在だ。
アーノルドの正論に、反論できない私。
そう、私は王妃であり、辺境伯であり、更に辺境騎士団の騎士団長でもある。
が、騎士団で体を動かすことが自分には合っているため、ついつい騎士団に足を運んでしまう。必然的に辺境伯としての書類仕事がたまる。そして、アーノルドに叱られるという繰り返しだ。
と、そこへ、ノックの音がして、侍女長のニーナが入ってきた。
お茶の時間のようだ。
「ミラベル様、お疲れでしょう? 少し休憩なされてはいかがですか?」
「ああ、そうだな。すごく疲れた」
「訓練だと何時間でもぶっ続けでされるのに、書類仕事はすぐに休憩されますね……」
と、アーノルドが、あきれたように言った。
「当たり前です。ミラベル様は、騎士の中の騎士ですから! 書類仕事はアーノルドがすればいいのです」
と、言い放ったニーナ。
「お言葉ですが、ニーナさん。ミラベル様が不在でも、騎士団には副騎士団長をはじめ、精鋭たちがおりますから心配いりません。だが、辺境伯はミラベル様おひとりです! しっかり、仕事をしていただかないと。甘やかさないでもらえますか、ニーナさん?」
と、言い返すアーノルド。
にらみあう二人。
私への接しかたが水と油ほど違う二人は、私のことでよく言い合っている。
が、ものすごく息があう時もあり、それだけ遠慮のない関係ということなのだろう。
ニーナもまた、私付きの侍女として、幼少の頃から面倒を見てくれた。
母親を早くに亡くしている私には、まるで母親のような存在だ。
アーノルドと違って、ニーナは、私が何をしても褒める。褒めまくる。
いくらなんでも欲目が過ぎるだろうと思い、褒めなくてもよいと言ってみたことがある。
すると、ニーナは猛然と反論してきた。
「それは無理です! ミラベル様には褒めるところしかないですから! 褒めずにはいられません!」
いや、褒めるところしかない……わけがない。
自分の欠点は自分がよくわかっている。
が、そこは頑として譲らないニーナ。
試しに自分の欠点をあげてみたら、そんな欠点ですら、意味のわからない理由で褒めまくってきた。
聞かされる私としては、本当にいたたまれない。
それ以降、ニーナが褒める時は逆らわず、ただ聞き流すことにしている。
が、最近、そんなニーナを見ると、ルイスを語るフィリップを思い出してしまう。
そういうところが、すごく似ている二人なんだよな……。
二人とも仕事はできるのに、なんとも残念だ。
私は、お茶の用意されたテーブルに移動した。
すると、ニーナが菓子をだしてきた。
「お疲れでしょうから、普段より、甘さの強い菓子にいたしました」
と、ニーナ。
皿を見ると、色鮮やかな丸い菓子がのっていた。
この城ででてくるのは素朴な菓子が多いから、珍しいな。
じっと菓子を見ていると、ニーナが言った。
「マカロンです。最近、雇った料理人が菓子作りが得意なんです。私もいただきましたが、大層、美味しいですよ」
「マカロン……? あ!」
思わず、声がでた。
「どうされましたか、ミラベル様!?」
あわてたように、ニーナが聞いてくる。
「アリス!」
「え?」
「アリスをこの城へ招こう! アリスに遊びに来てくれるよう約束を取り付けていたのに、すっかり、忙しくて忘れていた。あれから、もう、半年以上たってしまってるじゃないか!」
「そのアリス様とは、ルイス様のご婚約者様でしょうか?」
と、ニーナが聞いてきた。
「そうだ。以前、王宮で会った時、マカロンを食べる姿がなんとも愛らしくてな。大きさも、これくらいしかないんだ」
私が菓子を食べるアリスを思い出しながら、手で大きさを示す。
「は? それは、おとぎ話の小人ですか? いくらなんでも、テーブルから20センチの高さってあり得ないでしょう?」
と、あきれたようにつぶやくアーノルド。
「それくらい小さくて、かわいいってことだ。まさに、小動物だぞ! 見ているだけで、癒される。もう、秋も深まってきたから、早く招待しないといけない。寒くなったら、冬眠してしまうかもしれないだろう?」
「人間は冬眠しませんが……? ミラベル様の小動物好きが悪化して、ついに変なことを言い出したな……」
アーノルドがため息まじりにつぶやいたが、それどころではない。
「あんな小動物感満載のアリスだぞ。絶対に冬眠しないとは言い切れないだろう? せっかく約束したのに、次の春まで待つのは長すぎる!」
私が叫ぶと、ニーナが大きくうなずいた。
「それでは、すぐさま招待状をお出ししましょう。小動物のようなアリス様がお寒くないように、快適なお部屋をご用意いたします!」
と、ニーナが張り切って答えた。
さすが、ニーナだ。頼りになるな。
※リアルのほうがバタバタしていて、すっかり、更新が遅くなりました! すみません!
不定期な更新なのに、読んでくださった方、本当にありがとうございます!
流れとしては、「閑話 お茶会のあとで」から半年以上たったお話となります。
今回は、辺境を舞台にして視点を変えて書いていくことにしております。
まずは、王妃視点から始まりますが、どうぞよろしくお願いいたします!
今、私はいらいらしている。
というのも、机には山積みの書類。
辺境伯である私が目を通さないといけないものばかりだ。
これが終わらないと外に出られない。
「体がなまる! 少しでいいから騎士団の訓練に行かせてくれ!」
「ダメです。それに、ミラベル様は、昨日まで、騎士団で訓練ばかりされていたはずですが? そのため、辺境伯様としての書類が、こんなにたまっているのですよ?」
と、私の側近であるアーノルドが淡々と言った。
生まれ育ったこの辺境の城には、私が子どもの頃から働いてくれている者たちも多く、皆、私のことを名前で呼ぶ。
前辺境伯であった私の父から仕事を叩き込まれているアーノルドもその筆頭で、私が子どもの頃は私の教育係として、今は私の側近として補佐してくれている。
まあ、年の離れた兄のような存在だ。
アーノルドの正論に、反論できない私。
そう、私は王妃であり、辺境伯であり、更に辺境騎士団の騎士団長でもある。
が、騎士団で体を動かすことが自分には合っているため、ついつい騎士団に足を運んでしまう。必然的に辺境伯としての書類仕事がたまる。そして、アーノルドに叱られるという繰り返しだ。
と、そこへ、ノックの音がして、侍女長のニーナが入ってきた。
お茶の時間のようだ。
「ミラベル様、お疲れでしょう? 少し休憩なされてはいかがですか?」
「ああ、そうだな。すごく疲れた」
「訓練だと何時間でもぶっ続けでされるのに、書類仕事はすぐに休憩されますね……」
と、アーノルドが、あきれたように言った。
「当たり前です。ミラベル様は、騎士の中の騎士ですから! 書類仕事はアーノルドがすればいいのです」
と、言い放ったニーナ。
「お言葉ですが、ニーナさん。ミラベル様が不在でも、騎士団には副騎士団長をはじめ、精鋭たちがおりますから心配いりません。だが、辺境伯はミラベル様おひとりです! しっかり、仕事をしていただかないと。甘やかさないでもらえますか、ニーナさん?」
と、言い返すアーノルド。
にらみあう二人。
私への接しかたが水と油ほど違う二人は、私のことでよく言い合っている。
が、ものすごく息があう時もあり、それだけ遠慮のない関係ということなのだろう。
ニーナもまた、私付きの侍女として、幼少の頃から面倒を見てくれた。
母親を早くに亡くしている私には、まるで母親のような存在だ。
アーノルドと違って、ニーナは、私が何をしても褒める。褒めまくる。
いくらなんでも欲目が過ぎるだろうと思い、褒めなくてもよいと言ってみたことがある。
すると、ニーナは猛然と反論してきた。
「それは無理です! ミラベル様には褒めるところしかないですから! 褒めずにはいられません!」
いや、褒めるところしかない……わけがない。
自分の欠点は自分がよくわかっている。
が、そこは頑として譲らないニーナ。
試しに自分の欠点をあげてみたら、そんな欠点ですら、意味のわからない理由で褒めまくってきた。
聞かされる私としては、本当にいたたまれない。
それ以降、ニーナが褒める時は逆らわず、ただ聞き流すことにしている。
が、最近、そんなニーナを見ると、ルイスを語るフィリップを思い出してしまう。
そういうところが、すごく似ている二人なんだよな……。
二人とも仕事はできるのに、なんとも残念だ。
私は、お茶の用意されたテーブルに移動した。
すると、ニーナが菓子をだしてきた。
「お疲れでしょうから、普段より、甘さの強い菓子にいたしました」
と、ニーナ。
皿を見ると、色鮮やかな丸い菓子がのっていた。
この城ででてくるのは素朴な菓子が多いから、珍しいな。
じっと菓子を見ていると、ニーナが言った。
「マカロンです。最近、雇った料理人が菓子作りが得意なんです。私もいただきましたが、大層、美味しいですよ」
「マカロン……? あ!」
思わず、声がでた。
「どうされましたか、ミラベル様!?」
あわてたように、ニーナが聞いてくる。
「アリス!」
「え?」
「アリスをこの城へ招こう! アリスに遊びに来てくれるよう約束を取り付けていたのに、すっかり、忙しくて忘れていた。あれから、もう、半年以上たってしまってるじゃないか!」
「そのアリス様とは、ルイス様のご婚約者様でしょうか?」
と、ニーナが聞いてきた。
「そうだ。以前、王宮で会った時、マカロンを食べる姿がなんとも愛らしくてな。大きさも、これくらいしかないんだ」
私が菓子を食べるアリスを思い出しながら、手で大きさを示す。
「は? それは、おとぎ話の小人ですか? いくらなんでも、テーブルから20センチの高さってあり得ないでしょう?」
と、あきれたようにつぶやくアーノルド。
「それくらい小さくて、かわいいってことだ。まさに、小動物だぞ! 見ているだけで、癒される。もう、秋も深まってきたから、早く招待しないといけない。寒くなったら、冬眠してしまうかもしれないだろう?」
「人間は冬眠しませんが……? ミラベル様の小動物好きが悪化して、ついに変なことを言い出したな……」
アーノルドがため息まじりにつぶやいたが、それどころではない。
「あんな小動物感満載のアリスだぞ。絶対に冬眠しないとは言い切れないだろう? せっかく約束したのに、次の春まで待つのは長すぎる!」
私が叫ぶと、ニーナが大きくうなずいた。
「それでは、すぐさま招待状をお出ししましょう。小動物のようなアリス様がお寒くないように、快適なお部屋をご用意いたします!」
と、ニーナが張り切って答えた。
さすが、ニーナだ。頼りになるな。
※リアルのほうがバタバタしていて、すっかり、更新が遅くなりました! すみません!
不定期な更新なのに、読んでくださった方、本当にありがとうございます!
流れとしては、「閑話 お茶会のあとで」から半年以上たったお話となります。
今回は、辺境を舞台にして視点を変えて書いていくことにしております。
まずは、王妃視点から始まりますが、どうぞよろしくお願いいたします!
18
お気に入りに追加
1,778
あなたにおすすめの小説

【完結】え、別れましょう?
須木 水夏
恋愛
「実は他に好きな人が出来て」
「は?え?別れましょう?」
何言ってんだこいつ、とアリエットは目を瞬かせながらも。まあこちらも好きな訳では無いし都合がいいわ、と長年の婚約者(腐れ縁)だったディオルにお別れを申し出た。
ところがその出来事の裏側にはある双子が絡んでいて…?
だる絡みをしてくる美しい双子の兄妹(?)と、のんびりかつ冷静なアリエットのお話。
※毎度ですが空想であり、架空のお話です。史実に全く関係ありません。
ヨーロッパの雰囲気出してますが、別物です。

婚約者の側室に嫌がらせされたので逃げてみました。
アトラス
恋愛
公爵令嬢のリリア・カーテノイドは婚約者である王太子殿下が側室を持ったことを知らされる。側室となったガーネット子爵令嬢は殿下の寵愛を盾にリリアに度重なる嫌がらせをしていた。
いやになったリリアは王城からの逃亡を決意する。
だがその途端に、王太子殿下の態度が豹変して・・・
「いつわたしが婚約破棄すると言った?」
私に飽きたんじゃなかったんですか!?
……………………………
たくさんの方々に読んで頂き、大変嬉しく思っています。お気に入り、しおりありがとうございます。とても励みになっています。今後ともどうぞよろしくお願いします!

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。
たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。
しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。
そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。
ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。
というか、甘やかされてません?
これって、どういうことでしょう?
※後日談は激甘です。
激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。
※小説家になろう様にも公開させて頂いております。
ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。
タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

公爵令息は妹を選ぶらしいので私は旅に出ます
ネコ
恋愛
公爵令息ラウルの婚約者だったエリンは、なぜかいつも“愛らしい妹”に優先順位を奪われていた。正当な抗議も「ただの嫉妬だろう」と取り合われず、遂に婚約破棄へ。放り出されても涙は出ない。ならば持ち前の治癒魔法を活かして自由に生きよう――そう決めたエリンの旅立ち先で、運命は大きく動き出す。

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします
希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。
国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。
隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。
「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

本日より他人として生きさせていただきます
ネコ
恋愛
伯爵令嬢のアルマは、愛のない婚約者レオナードに尽くし続けてきた。しかし、彼の隣にはいつも「運命の相手」を自称する美女の姿が。家族も周囲もレオナードの一方的なわがままを容認するばかり。ある夜会で二人の逢瀬を目撃したアルマは、今さら怒る気力も失せてしまう。「それなら私は他人として過ごしましょう」そう告げて婚約破棄に踏み切る。だが、彼女が去った瞬間からレオナードの人生には不穏なほつれが生じ始めるのだった。

わたしにはもうこの子がいるので、いまさら愛してもらわなくても結構です。
ふまさ
恋愛
伯爵令嬢のリネットは、婚約者のハワードを、盲目的に愛していた。友人に、他の令嬢と親しげに歩いていたと言われても信じず、暴言を吐かれても、彼は子どものように純粋無垢だから仕方ないと自分を納得させていた。
けれど。
「──なんか、こうして改めて見ると猿みたいだし、不細工だなあ。本当に、ぼくときみの子?」
他でもない。二人の子ども──ルシアンへの暴言をきっかけに、ハワードへの絶対的な愛が、リネットの中で確かに崩れていく音がした。

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?
碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。
まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。
様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。
第二王子?いりませんわ。
第一王子?もっといりませんわ。
第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は?
彼女の存在意義とは?
別サイト様にも掲載しております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる