(本編完結)無表情の美形王子に婚約解消され、自由の身になりました! なのに、なんで、近づいてくるんですか?

水無月あん

文字の大きさ
111 / 127
番外編

辺境で 1

しおりを挟む
※ お久しぶりです! 王妃視点からスタートします。



今、私はいらいらしている。

というのも、机には山積みの書類。
辺境伯である私が目を通さないといけないものばかりだ。

これが終わらないと外に出られない。

「体がなまる! 少しでいいから騎士団の訓練に行かせてくれ!」

「ダメです。それに、ミラベル様は、昨日まで、騎士団で訓練ばかりされていたはずですが? そのため、辺境伯様としての書類が、こんなにたまっているのですよ?」
と、私の側近であるアーノルドが淡々と言った。

生まれ育ったこの辺境の城には、私が子どもの頃から働いてくれている者たちも多く、皆、私のことを名前で呼ぶ。

前辺境伯であった私の父から仕事を叩き込まれているアーノルドもその筆頭で、私が子どもの頃は私の教育係として、今は私の側近として補佐してくれている。
まあ、年の離れた兄のような存在だ。

アーノルドの正論に、反論できない私。

そう、私は王妃であり、辺境伯であり、更に辺境騎士団の騎士団長でもある。

が、騎士団で体を動かすことが自分には合っているため、ついつい騎士団に足を運んでしまう。必然的に辺境伯としての書類仕事がたまる。そして、アーノルドに叱られるという繰り返しだ。

と、そこへ、ノックの音がして、侍女長のニーナが入ってきた。
お茶の時間のようだ。

「ミラベル様、お疲れでしょう? 少し休憩なされてはいかがですか?」

「ああ、そうだな。すごく疲れた」

「訓練だと何時間でもぶっ続けでされるのに、書類仕事はすぐに休憩されますね……」
と、アーノルドが、あきれたように言った。

「当たり前です。ミラベル様は、騎士の中の騎士ですから! 書類仕事はアーノルドがすればいいのです」
と、言い放ったニーナ。

「お言葉ですが、ニーナさん。ミラベル様が不在でも、騎士団には副騎士団長をはじめ、精鋭たちがおりますから心配いりません。だが、辺境伯はミラベル様おひとりです! しっかり、仕事をしていただかないと。甘やかさないでもらえますか、ニーナさん?」
と、言い返すアーノルド。

にらみあう二人。
私への接しかたが水と油ほど違う二人は、私のことでよく言い合っている。

が、ものすごく息があう時もあり、それだけ遠慮のない関係ということなのだろう。

ニーナもまた、私付きの侍女として、幼少の頃から面倒を見てくれた。
母親を早くに亡くしている私には、まるで母親のような存在だ。

アーノルドと違って、ニーナは、私が何をしても褒める。褒めまくる。

いくらなんでも欲目が過ぎるだろうと思い、褒めなくてもよいと言ってみたことがある。
すると、ニーナは猛然と反論してきた。

「それは無理です! ミラベル様には褒めるところしかないですから! 褒めずにはいられません!」

いや、褒めるところしかない……わけがない。
自分の欠点は自分がよくわかっている。

が、そこは頑として譲らないニーナ。
試しに自分の欠点をあげてみたら、そんな欠点ですら、意味のわからない理由で褒めまくってきた。
聞かされる私としては、本当にいたたまれない。

それ以降、ニーナが褒める時は逆らわず、ただ聞き流すことにしている。

が、最近、そんなニーナを見ると、ルイスを語るフィリップを思い出してしまう。
そういうところが、すごく似ている二人なんだよな……。
二人とも仕事はできるのに、なんとも残念だ。

私は、お茶の用意されたテーブルに移動した。
すると、ニーナが菓子をだしてきた。

「お疲れでしょうから、普段より、甘さの強い菓子にいたしました」
と、ニーナ。

皿を見ると、色鮮やかな丸い菓子がのっていた。
この城ででてくるのは素朴な菓子が多いから、珍しいな。

じっと菓子を見ていると、ニーナが言った。

「マカロンです。最近、雇った料理人が菓子作りが得意なんです。私もいただきましたが、大層、美味しいですよ」

「マカロン……? あ!」
思わず、声がでた。

「どうされましたか、ミラベル様!?」
あわてたように、ニーナが聞いてくる。

「アリス!」

「え?」

「アリスをこの城へ招こう! アリスに遊びに来てくれるよう約束を取り付けていたのに、すっかり、忙しくて忘れていた。あれから、もう、半年以上たってしまってるじゃないか!」

「そのアリス様とは、ルイス様のご婚約者様でしょうか?」
と、ニーナが聞いてきた。

「そうだ。以前、王宮で会った時、マカロンを食べる姿がなんとも愛らしくてな。大きさも、これくらいしかないんだ」
私が菓子を食べるアリスを思い出しながら、手で大きさを示す。

「は? それは、おとぎ話の小人ですか? いくらなんでも、テーブルから20センチの高さってあり得ないでしょう?」
と、あきれたようにつぶやくアーノルド。

「それくらい小さくて、かわいいってことだ。まさに、小動物だぞ! 見ているだけで、癒される。もう、秋も深まってきたから、早く招待しないといけない。寒くなったら、冬眠してしまうかもしれないだろう?」

「人間は冬眠しませんが……? ミラベル様の小動物好きが悪化して、ついに変なことを言い出したな……」
アーノルドがため息まじりにつぶやいたが、それどころではない。

「あんな小動物感満載のアリスだぞ。絶対に冬眠しないとは言い切れないだろう? せっかく約束したのに、次の春まで待つのは長すぎる!」

私が叫ぶと、ニーナが大きくうなずいた。

「それでは、すぐさま招待状をお出ししましょう。小動物のようなアリス様がお寒くないように、快適なお部屋をご用意いたします!」
と、ニーナが張り切って答えた。

さすが、ニーナだ。頼りになるな。




※リアルのほうがバタバタしていて、すっかり、更新が遅くなりました! すみません!
不定期な更新なのに、読んでくださった方、本当にありがとうございます! 

流れとしては、「閑話 お茶会のあとで」から半年以上たったお話となります。

今回は、辺境を舞台にして視点を変えて書いていくことにしております。
まずは、王妃視点から始まりますが、どうぞよろしくお願いいたします!
しおりを挟む
感想 251

あなたにおすすめの小説

当て馬令息の婚約者になったので美味しいお菓子を食べながら聖女との恋を応援しようと思います!

朱音ゆうひ@11/5受賞作が発売されます
恋愛
「わたくし、当て馬令息の婚約者では?」 伯爵令嬢コーデリアは家同士が決めた婚約者ジャスティンと出会った瞬間、前世の記憶を思い出した。 ここは小説に出てくる世界で、当て馬令息ジャスティンは聖女に片思いするキャラ。婚約者に遠慮してアプローチできないまま失恋する優しいお兄様系キャラで、前世での推しだったのだ。 「わたくし、ジャスティン様の恋を応援しますわ」 推しの幸せが自分の幸せ! あとお菓子が美味しい! 特に小説では出番がなく悪役令嬢でもなんでもない脇役以前のモブキャラ(?)コーデリアは、全力でジャスティンを応援することにした! ※ゆるゆるほんわかハートフルラブコメ。 サブキャラに軽く百合カップルが出てきたりします 他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5753hy/ )

折角転生したのに、婚約者が好きすぎて困ります!

たぬきち25番
恋愛
ある日私は乙女ゲームのヒロインのライバル令嬢キャメロンとして転生していた。 なんと私は最推しのディラン王子の婚約者として転生したのだ!! 幸せすぎる~~~♡ たとえ振られる運命だとしてもディラン様の笑顔のためにライバル令嬢頑張ります!! ※主人公は婚約者が好きすぎる残念女子です。 ※気分転換に笑って頂けたら嬉しく思います。 短めのお話なので毎日更新 ※糖度高めなので胸やけにご注意下さい。 ※少しだけ塩分も含まれる箇所がございます。 《大変イチャイチャラブラブしてます!! 激甘、溺愛です!! お気を付け下さい!!》 ※他サイト様にも公開始めました!

王弟殿下の番様は溺れるほどの愛をそそがれ幸せに…

ましろ
恋愛
見つけた!愛しい私の番。ようやく手に入れることができた私の宝玉。これからは私のすべてで愛し、護り、共に生きよう。 王弟であるコンラート公爵が番を見つけた。 それは片田舎の貴族とは名ばかりの貧乏男爵の娘だった。物語のような幸運を得た少女に人々は賞賛に沸き立っていた。 貧しかった少女は番に愛されそして……え?

狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します

ちより
恋愛
 侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。  愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。  頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。  公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。

ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく

犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。 「絶対駄目ーー」 と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。 何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。 募集 婿入り希望者 対象外は、嫡男、後継者、王族 目指せハッピーエンド(?)!! 全23話で完結です。 この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。

君を自由にしたくて婚約破棄したのに

佐崎咲
恋愛
「婚約を解消しよう」  幼い頃に決められた婚約者であるルーシー=ファロウにそう告げると、何故か彼女はショックを受けたように身体をこわばらせ、顔面が蒼白になった。  でもそれは一瞬のことだった。 「わかりました。では両親には私の方から伝えておきます」  なんでもないようにすぐにそう言って彼女はくるりと背を向けた。  その顔はいつもの淡々としたものだった。  だけどその一瞬見せたその顔が頭から離れなかった。  彼女は自由になりたがっている。そう思ったから苦汁の決断をしたのに。 ============ 注意)ほぼコメディです。 軽い気持ちで読んでいただければと思います。 ※無断転載・複写はお断りいたします。

7年ぶりに私を嫌う婚約者と目が合ったら自分好みで驚いた

小本手だるふ
恋愛
真実の愛に気づいたと、7年間目も合わせない婚約者の国の第二王子ライトに言われた公爵令嬢アリシア。 7年ぶりに目を合わせたライトはアリシアのどストライクなイケメンだったが、真実の愛に憧れを抱くアリシアはライトのためにと自ら婚約解消を提案するがのだが・・・・・・。 ライトとアリシアとその友人たちのほのぼの恋愛話。 ※よくある話で設定はゆるいです。 誤字脱字色々突っ込みどころがあるかもしれませんが温かい目でご覧ください。

婚約破棄された悪役令嬢の心の声が面白かったので求婚してみた

夕景あき
恋愛
人の心の声が聞こえるカイルは、孤独の闇に閉じこもっていた。唯一の救いは、心の声まで真摯で温かい異母兄、第一王子の存在だけだった。 そんなカイルが、外交(婚約者探し)という名目で三国交流会へ向かうと、目の前で隣国の第二王子による公開婚約破棄が発生する。 婚約破棄された令嬢グレースは、表情一つ変えない高潔な令嬢。しかし、カイルがその心の声を聞き取ると、思いも寄らない内容が聞こえてきたのだった。

処理中です...