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番外編

閑話 アリスノート 21

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鍵をにぎった兄上が、ことさらはっきりとした口調で言った。
「ルイスが大好きな、知性あふれる、はしばみ色!」

ガチャ。

鍵がまわった。どうやら、扉が開いたようだ。

「ほら、開いた! すごいでしょ?」
満面の笑みで俺を見る兄上。

いや、すごいとかではなく、…なんか、変な文章が聞こえたが?

「兄上…。今の言葉はなんだ…?」
俺が聞くと、兄上が自慢げな笑みを浮かべた。

「合言葉みたいなものだよ。古典的でいいでしょ?」

「合言葉…?」

「そう、あらかじめ言葉を決めといて、仲間かどうか確認するとかあるじゃない? あれ、やってみたかったんだけど、今まで、やる機会がなかったんだよねー。例えば、山と言えば? ほら、ルイス、答えて!」

「川か…?」

「さすがルイス、大正解! じゃあ、次、ウルス。もしもし、と言えば?」

「は…? なんだ、それ」
不審がるウルスを、兄上が急かす。

「ほら、ウルス、早く答えてよ! もしもし?」

「じゃあ、…もしもし…」
ウルスが面倒そうに答える。

「ブーッ! 正解は、はいはい、でした」

「おい、それ、合言葉じゃないだろ?!」
あきれた目で兄上を見るウルス。

確かにな…。そして、話しがそれまくりだ。

「兄上、話しをもとに戻してくれ。なぜ、あの言葉で鍵が開いたんだ?」

「この魔石はね、形と色にひかれて買ったから、魔石の能力としては、さほど複雑なことはできなくてね。でも、持ち主を記憶できる力があるから、ぼくの声と言葉を記憶させたの。だから、ぼくの声で、『ルイスが大好きな、知性あふれる、はしばみ色』と言わないと、鍵はまわらない。便利でしょ?」

「なるほど、鍵としては十分な機能だな。…だが、その文章はなんだ? 変すぎるだろ?」
俺が聞くと、兄上が身をのりだしてきた。

「あ、ルイス! ぼくが考えた、この素敵な言葉が気になる?! 意味が知りたい?!」

兄上が、期待をこめた目で俺を見る。
やたらと輝く、兄上の瞳は、はしばみ色だ。

そうさっきの変な文にでてきたのも、はしばみ色。

面倒そうな匂いがする…。

俺は即座に断った。
「…いや、やっぱりいい。その解説はいらない」

すると、兄上は、にこにこしながらうなずいた。
「もう、ルイスは遠慮深いんだから。うん、わかった。そんなに聞きたいんだね!」

は? 何故、そうなる…。

「都合よく変換される耳だな…」
と、ウルス。

が、兄上は、あきれる俺たちを気に留めることもなく、嬉々として説明をはじめた。

「ルイスの瞳を彷彿とさせるこの青い魔石を使うには、やっぱり、ぼくの瞳を表す言葉がいいなあって思ったの。だって、ルイスの瞳とぼくの瞳の協同作業になるし、素敵でしょ? まさに、目には目を!」

「いやいや、それ、意味が全く違うだろ…。そして、気持ち悪すぎるぞ、フィリップ…」
顔をしかめて、ウルスがつぶやいた。

が、兄上は、そんなルイスを無視したまま、嬉しそうに説明を続ける。

「ということで、ルイスが大好きな、はしばみ色のぼくの瞳。知性あふれる、はしばみ色のぼくの瞳。を、コンパクトにまとめたのが、あの言葉」
にこにこしながら、俺の反応を見ている兄上。

…なんというか、返答のしようもない。
そして、変な文の中の「ルイスが大好きな」というところが、ひっかかる。

「…兄上。ちなみに、俺が大好きな、とは、一体どういう意味だ?」

俺が聞いたとたん、兄上の顔がぱあーっと輝いた。
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