87 / 125
番外編
閑話 アリスノート 21
しおりを挟む
鍵をにぎった兄上が、ことさらはっきりとした口調で言った。
「ルイスが大好きな、知性あふれる、はしばみ色!」
ガチャ。
鍵がまわった。どうやら、扉が開いたようだ。
「ほら、開いた! すごいでしょ?」
満面の笑みで俺を見る兄上。
いや、すごいとかではなく、…なんか、変な文章が聞こえたが?
「兄上…。今の言葉はなんだ…?」
俺が聞くと、兄上が自慢げな笑みを浮かべた。
「合言葉みたいなものだよ。古典的でいいでしょ?」
「合言葉…?」
「そう、あらかじめ言葉を決めといて、仲間かどうか確認するとかあるじゃない? あれ、やってみたかったんだけど、今まで、やる機会がなかったんだよねー。例えば、山と言えば? ほら、ルイス、答えて!」
「川か…?」
「さすがルイス、大正解! じゃあ、次、ウルス。もしもし、と言えば?」
「は…? なんだ、それ」
不審がるウルスを、兄上が急かす。
「ほら、ウルス、早く答えてよ! もしもし?」
「じゃあ、…もしもし…」
ウルスが面倒そうに答える。
「ブーッ! 正解は、はいはい、でした」
「おい、それ、合言葉じゃないだろ?!」
あきれた目で兄上を見るウルス。
確かにな…。そして、話しがそれまくりだ。
「兄上、話しをもとに戻してくれ。なぜ、あの言葉で鍵が開いたんだ?」
「この魔石はね、形と色にひかれて買ったから、魔石の能力としては、さほど複雑なことはできなくてね。でも、持ち主を記憶できる力があるから、ぼくの声と言葉を記憶させたの。だから、ぼくの声で、『ルイスが大好きな、知性あふれる、はしばみ色』と言わないと、鍵はまわらない。便利でしょ?」
「なるほど、鍵としては十分な機能だな。…だが、その文章はなんだ? 変すぎるだろ?」
俺が聞くと、兄上が身をのりだしてきた。
「あ、ルイス! ぼくが考えた、この素敵な言葉が気になる?! 意味が知りたい?!」
兄上が、期待をこめた目で俺を見る。
やたらと輝く、兄上の瞳は、はしばみ色だ。
そうさっきの変な文にでてきたのも、はしばみ色。
面倒そうな匂いがする…。
俺は即座に断った。
「…いや、やっぱりいい。その解説はいらない」
すると、兄上は、にこにこしながらうなずいた。
「もう、ルイスは遠慮深いんだから。うん、わかった。そんなに聞きたいんだね!」
は? 何故、そうなる…。
「都合よく変換される耳だな…」
と、ウルス。
が、兄上は、あきれる俺たちを気に留めることもなく、嬉々として説明をはじめた。
「ルイスの瞳を彷彿とさせるこの青い魔石を使うには、やっぱり、ぼくの瞳を表す言葉がいいなあって思ったの。だって、ルイスの瞳とぼくの瞳の協同作業になるし、素敵でしょ? まさに、目には目を!」
「いやいや、それ、意味が全く違うだろ…。そして、気持ち悪すぎるぞ、フィリップ…」
顔をしかめて、ウルスがつぶやいた。
が、兄上は、そんなルイスを無視したまま、嬉しそうに説明を続ける。
「ということで、ルイスが大好きな、はしばみ色のぼくの瞳。知性あふれる、はしばみ色のぼくの瞳。を、コンパクトにまとめたのが、あの言葉」
にこにこしながら、俺の反応を見ている兄上。
…なんというか、返答のしようもない。
そして、変な文の中の「ルイスが大好きな」というところが、ひっかかる。
「…兄上。ちなみに、俺が大好きな、とは、一体どういう意味だ?」
俺が聞いたとたん、兄上の顔がぱあーっと輝いた。
「ルイスが大好きな、知性あふれる、はしばみ色!」
ガチャ。
鍵がまわった。どうやら、扉が開いたようだ。
「ほら、開いた! すごいでしょ?」
満面の笑みで俺を見る兄上。
いや、すごいとかではなく、…なんか、変な文章が聞こえたが?
「兄上…。今の言葉はなんだ…?」
俺が聞くと、兄上が自慢げな笑みを浮かべた。
「合言葉みたいなものだよ。古典的でいいでしょ?」
「合言葉…?」
「そう、あらかじめ言葉を決めといて、仲間かどうか確認するとかあるじゃない? あれ、やってみたかったんだけど、今まで、やる機会がなかったんだよねー。例えば、山と言えば? ほら、ルイス、答えて!」
「川か…?」
「さすがルイス、大正解! じゃあ、次、ウルス。もしもし、と言えば?」
「は…? なんだ、それ」
不審がるウルスを、兄上が急かす。
「ほら、ウルス、早く答えてよ! もしもし?」
「じゃあ、…もしもし…」
ウルスが面倒そうに答える。
「ブーッ! 正解は、はいはい、でした」
「おい、それ、合言葉じゃないだろ?!」
あきれた目で兄上を見るウルス。
確かにな…。そして、話しがそれまくりだ。
「兄上、話しをもとに戻してくれ。なぜ、あの言葉で鍵が開いたんだ?」
「この魔石はね、形と色にひかれて買ったから、魔石の能力としては、さほど複雑なことはできなくてね。でも、持ち主を記憶できる力があるから、ぼくの声と言葉を記憶させたの。だから、ぼくの声で、『ルイスが大好きな、知性あふれる、はしばみ色』と言わないと、鍵はまわらない。便利でしょ?」
「なるほど、鍵としては十分な機能だな。…だが、その文章はなんだ? 変すぎるだろ?」
俺が聞くと、兄上が身をのりだしてきた。
「あ、ルイス! ぼくが考えた、この素敵な言葉が気になる?! 意味が知りたい?!」
兄上が、期待をこめた目で俺を見る。
やたらと輝く、兄上の瞳は、はしばみ色だ。
そうさっきの変な文にでてきたのも、はしばみ色。
面倒そうな匂いがする…。
俺は即座に断った。
「…いや、やっぱりいい。その解説はいらない」
すると、兄上は、にこにこしながらうなずいた。
「もう、ルイスは遠慮深いんだから。うん、わかった。そんなに聞きたいんだね!」
は? 何故、そうなる…。
「都合よく変換される耳だな…」
と、ウルス。
が、兄上は、あきれる俺たちを気に留めることもなく、嬉々として説明をはじめた。
「ルイスの瞳を彷彿とさせるこの青い魔石を使うには、やっぱり、ぼくの瞳を表す言葉がいいなあって思ったの。だって、ルイスの瞳とぼくの瞳の協同作業になるし、素敵でしょ? まさに、目には目を!」
「いやいや、それ、意味が全く違うだろ…。そして、気持ち悪すぎるぞ、フィリップ…」
顔をしかめて、ウルスがつぶやいた。
が、兄上は、そんなルイスを無視したまま、嬉しそうに説明を続ける。
「ということで、ルイスが大好きな、はしばみ色のぼくの瞳。知性あふれる、はしばみ色のぼくの瞳。を、コンパクトにまとめたのが、あの言葉」
にこにこしながら、俺の反応を見ている兄上。
…なんというか、返答のしようもない。
そして、変な文の中の「ルイスが大好きな」というところが、ひっかかる。
「…兄上。ちなみに、俺が大好きな、とは、一体どういう意味だ?」
俺が聞いたとたん、兄上の顔がぱあーっと輝いた。
31
お気に入りに追加
1,780
あなたにおすすめの小説

婚約者の側室に嫌がらせされたので逃げてみました。
アトラス
恋愛
公爵令嬢のリリア・カーテノイドは婚約者である王太子殿下が側室を持ったことを知らされる。側室となったガーネット子爵令嬢は殿下の寵愛を盾にリリアに度重なる嫌がらせをしていた。
いやになったリリアは王城からの逃亡を決意する。
だがその途端に、王太子殿下の態度が豹変して・・・
「いつわたしが婚約破棄すると言った?」
私に飽きたんじゃなかったんですか!?
……………………………
たくさんの方々に読んで頂き、大変嬉しく思っています。お気に入り、しおりありがとうございます。とても励みになっています。今後ともどうぞよろしくお願いします!

公爵令息は妹を選ぶらしいので私は旅に出ます
ネコ
恋愛
公爵令息ラウルの婚約者だったエリンは、なぜかいつも“愛らしい妹”に優先順位を奪われていた。正当な抗議も「ただの嫉妬だろう」と取り合われず、遂に婚約破棄へ。放り出されても涙は出ない。ならば持ち前の治癒魔法を活かして自由に生きよう――そう決めたエリンの旅立ち先で、運命は大きく動き出す。

本日より他人として生きさせていただきます
ネコ
恋愛
伯爵令嬢のアルマは、愛のない婚約者レオナードに尽くし続けてきた。しかし、彼の隣にはいつも「運命の相手」を自称する美女の姿が。家族も周囲もレオナードの一方的なわがままを容認するばかり。ある夜会で二人の逢瀬を目撃したアルマは、今さら怒る気力も失せてしまう。「それなら私は他人として過ごしましょう」そう告げて婚約破棄に踏み切る。だが、彼女が去った瞬間からレオナードの人生には不穏なほつれが生じ始めるのだった。

わたしにはもうこの子がいるので、いまさら愛してもらわなくても結構です。
ふまさ
恋愛
伯爵令嬢のリネットは、婚約者のハワードを、盲目的に愛していた。友人に、他の令嬢と親しげに歩いていたと言われても信じず、暴言を吐かれても、彼は子どものように純粋無垢だから仕方ないと自分を納得させていた。
けれど。
「──なんか、こうして改めて見ると猿みたいだし、不細工だなあ。本当に、ぼくときみの子?」
他でもない。二人の子ども──ルシアンへの暴言をきっかけに、ハワードへの絶対的な愛が、リネットの中で確かに崩れていく音がした。

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします
希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。
国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。
隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。
「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい
棗
恋愛
婚約者には初恋の人がいる。
王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。
待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。
婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。
従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。
※なろうさんにも公開しています。
※短編→長編に変更しました(2023.7.19)

ご自慢の聖女がいるのだから、私は失礼しますわ
ネコ
恋愛
伯爵令嬢ユリアは、幼い頃から第二王子アレクサンドルの婚約者。だが、留学から戻ってきたアレクサンドルは「聖女が僕の真実の花嫁だ」と堂々宣言。周囲は“奇跡の力を持つ聖女”と王子の恋を応援し、ユリアを貶める噂まで広まった。婚約者の座を奪われるより先に、ユリアは自分から破棄を申し出る。「お好きにどうぞ。もう私には関係ありません」そう言った途端、王宮では聖女の力が何かとおかしな騒ぎを起こし始めるのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる