86 / 125
番外編
閑話 アリスノート 20
しおりを挟む
動かなくなった鍵を持ったまま困惑していると、兄上が、俺の肩をトンとたたいた。
「もうー、ルイス、そのまま開くわけないでしょ? 大事なルイスの服を保存してるんだから。ほらほら、兄様に任せて!」
やたらと嬉しそうに微笑む兄上。その顔に若干いらつく。
そう思ったら、
「なんか、いらっとする顔だな?」
と、まさに同じことをウルスがつぶやいた。
差し込んだままの鍵から手を放し、兄上に場所を変わった。
「じゃあ、ルイス。今から、兄様がこの鍵をあけますからねー!」
兄上がそう言った時、テーブルを整えていたモーラが声をあげた。
「王太子様、少々お待ちを!」
見ると、モーラが制服のポケットから小さなケースを出した。
そして、その中から、虹色にキラキラ光るものを取り出し、両耳に入れた。
あれは、もしかして耳栓…?
「王太子様からいただいた記念のお品である耳栓で、私は、何も聞こえなくなりました。これで、鍵の秘密を私は知ることはできませんので、どうぞ、心置きなく鍵をお開けください!」
モーラはそう言うと、くるりと壁のほうをむいて、俺たちに背をむけた。
つまり、聞こえない、見えないということなんだろうが、モーラ、そこまでする必要があるのか…?
「モーラなら鍵の秘密を知られてもいいのに」
と、兄上。
「いや、それより、なんで兄上はモーラに耳栓をあげたんだ?」
と俺が聞く。
「モーラはね、先月、この王宮へ勤めてちょうど40年たったんだよ! だから、なにか記念になるものをプレゼントしたいなあって思って、モーラに希望を聞いたの。そしたら、耳栓が欲しいって言ってね。てっきり、眠る時に使うのかと思ったら、まさか、こんな使い方をするため持ち歩いてたとは、さすが、モーラ。メイドの鏡だよね?」
満足そうにモーラの後ろ姿を見る兄上。
「いや、まあ、そうなんだろうけど…。なんだ、この違和感…? モーラの価値観が兄上に感化されすぎて驚くというか…。俺の服が入っているケースの鍵の開け方がそんな重要なことか? そもそも、俺の私物を保存していること自体がおかしいだろう…」
考えれば考えるほど、迷い込んでいく。
「なに言ってるの、ルイス! 貴重なお宝が入ってるケースだよ! 鍵の開け方は重要機密だから。モーラの認識はちっともおかしくないんだからね。あ、それと、あの耳栓も、魔石なんだ。といっても、マーブル国じゃなく、シュルツ国の魔石。シュルツ国は魔石を使った商品も色々売ってるでしょ? あれは、耳にいれた途端に、やわらかくなって、その人の耳の穴にあわせた形になるんだって。しかも音を完璧に遮断するから、耳栓として人気らしいよ」
「なら、俺にもくれ。フィリップがうるさい時に使うから」
と、ウルスが即座に言った。
「じゃあ、ウルスも40年つとめたらね」
「フィリップのそばで40年も働くって…。いや、もうすぐ10年くらいたつから、あと30年くらいか。それでも長いな…。長すぎる…。未来が想像できない…」
疲労感を漂わせたウルスが遠い目をした。
そんなウルスを放置して、兄上は俺にむかって微笑む。
「お待たせ、ルイス! ではでは、あらためて、今度こそ鍵をあけるよー!」
そう言うと、鍵をにぎった。
「もうー、ルイス、そのまま開くわけないでしょ? 大事なルイスの服を保存してるんだから。ほらほら、兄様に任せて!」
やたらと嬉しそうに微笑む兄上。その顔に若干いらつく。
そう思ったら、
「なんか、いらっとする顔だな?」
と、まさに同じことをウルスがつぶやいた。
差し込んだままの鍵から手を放し、兄上に場所を変わった。
「じゃあ、ルイス。今から、兄様がこの鍵をあけますからねー!」
兄上がそう言った時、テーブルを整えていたモーラが声をあげた。
「王太子様、少々お待ちを!」
見ると、モーラが制服のポケットから小さなケースを出した。
そして、その中から、虹色にキラキラ光るものを取り出し、両耳に入れた。
あれは、もしかして耳栓…?
「王太子様からいただいた記念のお品である耳栓で、私は、何も聞こえなくなりました。これで、鍵の秘密を私は知ることはできませんので、どうぞ、心置きなく鍵をお開けください!」
モーラはそう言うと、くるりと壁のほうをむいて、俺たちに背をむけた。
つまり、聞こえない、見えないということなんだろうが、モーラ、そこまでする必要があるのか…?
「モーラなら鍵の秘密を知られてもいいのに」
と、兄上。
「いや、それより、なんで兄上はモーラに耳栓をあげたんだ?」
と俺が聞く。
「モーラはね、先月、この王宮へ勤めてちょうど40年たったんだよ! だから、なにか記念になるものをプレゼントしたいなあって思って、モーラに希望を聞いたの。そしたら、耳栓が欲しいって言ってね。てっきり、眠る時に使うのかと思ったら、まさか、こんな使い方をするため持ち歩いてたとは、さすが、モーラ。メイドの鏡だよね?」
満足そうにモーラの後ろ姿を見る兄上。
「いや、まあ、そうなんだろうけど…。なんだ、この違和感…? モーラの価値観が兄上に感化されすぎて驚くというか…。俺の服が入っているケースの鍵の開け方がそんな重要なことか? そもそも、俺の私物を保存していること自体がおかしいだろう…」
考えれば考えるほど、迷い込んでいく。
「なに言ってるの、ルイス! 貴重なお宝が入ってるケースだよ! 鍵の開け方は重要機密だから。モーラの認識はちっともおかしくないんだからね。あ、それと、あの耳栓も、魔石なんだ。といっても、マーブル国じゃなく、シュルツ国の魔石。シュルツ国は魔石を使った商品も色々売ってるでしょ? あれは、耳にいれた途端に、やわらかくなって、その人の耳の穴にあわせた形になるんだって。しかも音を完璧に遮断するから、耳栓として人気らしいよ」
「なら、俺にもくれ。フィリップがうるさい時に使うから」
と、ウルスが即座に言った。
「じゃあ、ウルスも40年つとめたらね」
「フィリップのそばで40年も働くって…。いや、もうすぐ10年くらいたつから、あと30年くらいか。それでも長いな…。長すぎる…。未来が想像できない…」
疲労感を漂わせたウルスが遠い目をした。
そんなウルスを放置して、兄上は俺にむかって微笑む。
「お待たせ、ルイス! ではでは、あらためて、今度こそ鍵をあけるよー!」
そう言うと、鍵をにぎった。
31
お気に入りに追加
1,780
あなたにおすすめの小説

本日より他人として生きさせていただきます
ネコ
恋愛
伯爵令嬢のアルマは、愛のない婚約者レオナードに尽くし続けてきた。しかし、彼の隣にはいつも「運命の相手」を自称する美女の姿が。家族も周囲もレオナードの一方的なわがままを容認するばかり。ある夜会で二人の逢瀬を目撃したアルマは、今さら怒る気力も失せてしまう。「それなら私は他人として過ごしましょう」そう告げて婚約破棄に踏み切る。だが、彼女が去った瞬間からレオナードの人生には不穏なほつれが生じ始めるのだった。

婚約者の側室に嫌がらせされたので逃げてみました。
アトラス
恋愛
公爵令嬢のリリア・カーテノイドは婚約者である王太子殿下が側室を持ったことを知らされる。側室となったガーネット子爵令嬢は殿下の寵愛を盾にリリアに度重なる嫌がらせをしていた。
いやになったリリアは王城からの逃亡を決意する。
だがその途端に、王太子殿下の態度が豹変して・・・
「いつわたしが婚約破棄すると言った?」
私に飽きたんじゃなかったんですか!?
……………………………
たくさんの方々に読んで頂き、大変嬉しく思っています。お気に入り、しおりありがとうございます。とても励みになっています。今後ともどうぞよろしくお願いします!

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします
希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。
国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。
隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。
「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

わたしにはもうこの子がいるので、いまさら愛してもらわなくても結構です。
ふまさ
恋愛
伯爵令嬢のリネットは、婚約者のハワードを、盲目的に愛していた。友人に、他の令嬢と親しげに歩いていたと言われても信じず、暴言を吐かれても、彼は子どものように純粋無垢だから仕方ないと自分を納得させていた。
けれど。
「──なんか、こうして改めて見ると猿みたいだし、不細工だなあ。本当に、ぼくときみの子?」
他でもない。二人の子ども──ルシアンへの暴言をきっかけに、ハワードへの絶対的な愛が、リネットの中で確かに崩れていく音がした。

公爵令息は妹を選ぶらしいので私は旅に出ます
ネコ
恋愛
公爵令息ラウルの婚約者だったエリンは、なぜかいつも“愛らしい妹”に優先順位を奪われていた。正当な抗議も「ただの嫉妬だろう」と取り合われず、遂に婚約破棄へ。放り出されても涙は出ない。ならば持ち前の治癒魔法を活かして自由に生きよう――そう決めたエリンの旅立ち先で、運命は大きく動き出す。

ご自慢の聖女がいるのだから、私は失礼しますわ
ネコ
恋愛
伯爵令嬢ユリアは、幼い頃から第二王子アレクサンドルの婚約者。だが、留学から戻ってきたアレクサンドルは「聖女が僕の真実の花嫁だ」と堂々宣言。周囲は“奇跡の力を持つ聖女”と王子の恋を応援し、ユリアを貶める噂まで広まった。婚約者の座を奪われるより先に、ユリアは自分から破棄を申し出る。「お好きにどうぞ。もう私には関係ありません」そう言った途端、王宮では聖女の力が何かとおかしな騒ぎを起こし始めるのだった。

婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい
棗
恋愛
婚約者には初恋の人がいる。
王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。
待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。
婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。
従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。
※なろうさんにも公開しています。
※短編→長編に変更しました(2023.7.19)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる