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番外編
閑話 アリスノート
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※ ルイス視点となります。
「ルイス殿下、ご注文いただいていたお品にございます。ご確認くださいませ」
テーブルに木箱をおき、男が恭しく頭を下げる。
はやる心をおさえて、木箱を目の前に引き寄せる。そして、蓋をあけた。
中には、大きく厚みのある一冊のノート。俺がオーダーしていたものだ。
そっと手にとる。
手触りのいい革は亜麻色で、もちろんアリスの髪をイメージして注文した。
そして、なにより、こだわったのは鍵だ。
アリスについて事細かく記していくのだから、他の誰にも読ませられない。
なので、ノートには鍵をつけた。
「この宝石はなんという石だ?」
鍵を飾る宝石を指差して聞く。
「非常に上質の琥珀にございます。ご希望の色に近いかと思われますが、いかがでしょう?」
俺はじっと宝石を見た。確かに、蜂蜜色だな。
こちらも、アリスの瞳の色に合わせている。
「…これならいい」
もちろん、アリスのきらめく瞳とは雲泥の差だが、アリスの瞳を思い起こさせる蜂蜜色なので、良しとした。
男は、ほっとした顔をした。
次に中を開いて見る。
紙は薄い蜂蜜色で指定した。アリスの瞳を溶かしたような色にしたかったから。
もちろん、長い年月を耐え抜ける品質だ。
「では、このノートをそうだな…。30冊ほど用意してくれ」
「え、30冊も…?!」
驚いたように声をあげる男。
「何か問題があるのか?」
俺が聞くと、男は汗をたらしながら答えた。
「革も琥珀も一点ものですから、同じような品質のものがご用意できるかどうか…」
「30冊どころか、これからもどんどん増えていく予定だ。もし無理だと思うなら、今、はっきりそう言ってくれ。他店から購入する」
そう言ったとたん、男は飛び上がった。
「いえ! できるだけ品質をそろえるよう、がんばります! 精一杯やらせていただきます!」
男の声が震えている。
が、俺は正直な気持ちを述べただけで、怒ってはいない。無表情のせいで、よく、怒っていると間違えられ、怯えられる。
まあ、どう思われようがアリス以外はどうでもいいけどな…。
男が帰ったので、側近も部屋の外へ出した。
そして、鍵付きの棚から、すでに30冊ほどになった紙のノートをとりだす。
これが、俺の「アリスノート」。アリスについて記している貴重な記録だ。
だが、特に、最初のころのノートは読み直しすぎて、すでにぼろぼろだ。
なので、改めてまとめなおし、永久保存するためのノートをオーダーしたのが、宝石の鍵付きノートだ。
俺は一番最初のアリスノートを手にとった。
はじめてのお茶会に向けて用意をするため、「アリスノート」と名付けてメモをとりはじめた記念すべき一冊目だ。
まず、最初のページをめくると…、
「アリスとのお茶会に向けて、俺がするべきこと、注意すべきこと10か条」
そう大きな字で書いてあった。そして、次のように続く。
1、常に、アリスに喜んでもらうことを考える。そのために、全力を尽くす。
2、絶対に泣かさない。
3、「ちび」は禁句。絶対に言ってはいけない言葉。
4、選びに選んだ最低限の言葉だけを口にする。不用意な発言をして泣かせたら終わりだ。
5、選びぬいた言葉に精一杯の気持ちをのせる。
たとえば、「ちび」ではなく、「小さい」に変え、「ちいさくて、かわいい」という気持ちをこめて、口にだす。
6、アリスの好きな食べ物と飲み物を調べる。
7、アリスの嫌いな食べ物も把握しておく。間違ってもださないようにするため。
8、調べていることをアリス本人に知られないようにする。気持ち悪いと思われて、泣かれてはいけない。
9、心地の良い空間にするため、アリスの好きなもの全般について調べる。
10、泣かせてしまうという失態をしないため、これ以上、アリスに警戒されないようにする。
アリスの声を聞きたい、アリスと話したい、アリスのそばによりたいなど、俺の欲は心の奥にしまう。我慢だ。
この10か条はアリスと出会った年に書いたものだが、今も守れている!
と、再確認した時、ドアをノックする音がした。
「ルイス殿下、ご注文いただいていたお品にございます。ご確認くださいませ」
テーブルに木箱をおき、男が恭しく頭を下げる。
はやる心をおさえて、木箱を目の前に引き寄せる。そして、蓋をあけた。
中には、大きく厚みのある一冊のノート。俺がオーダーしていたものだ。
そっと手にとる。
手触りのいい革は亜麻色で、もちろんアリスの髪をイメージして注文した。
そして、なにより、こだわったのは鍵だ。
アリスについて事細かく記していくのだから、他の誰にも読ませられない。
なので、ノートには鍵をつけた。
「この宝石はなんという石だ?」
鍵を飾る宝石を指差して聞く。
「非常に上質の琥珀にございます。ご希望の色に近いかと思われますが、いかがでしょう?」
俺はじっと宝石を見た。確かに、蜂蜜色だな。
こちらも、アリスの瞳の色に合わせている。
「…これならいい」
もちろん、アリスのきらめく瞳とは雲泥の差だが、アリスの瞳を思い起こさせる蜂蜜色なので、良しとした。
男は、ほっとした顔をした。
次に中を開いて見る。
紙は薄い蜂蜜色で指定した。アリスの瞳を溶かしたような色にしたかったから。
もちろん、長い年月を耐え抜ける品質だ。
「では、このノートをそうだな…。30冊ほど用意してくれ」
「え、30冊も…?!」
驚いたように声をあげる男。
「何か問題があるのか?」
俺が聞くと、男は汗をたらしながら答えた。
「革も琥珀も一点ものですから、同じような品質のものがご用意できるかどうか…」
「30冊どころか、これからもどんどん増えていく予定だ。もし無理だと思うなら、今、はっきりそう言ってくれ。他店から購入する」
そう言ったとたん、男は飛び上がった。
「いえ! できるだけ品質をそろえるよう、がんばります! 精一杯やらせていただきます!」
男の声が震えている。
が、俺は正直な気持ちを述べただけで、怒ってはいない。無表情のせいで、よく、怒っていると間違えられ、怯えられる。
まあ、どう思われようがアリス以外はどうでもいいけどな…。
男が帰ったので、側近も部屋の外へ出した。
そして、鍵付きの棚から、すでに30冊ほどになった紙のノートをとりだす。
これが、俺の「アリスノート」。アリスについて記している貴重な記録だ。
だが、特に、最初のころのノートは読み直しすぎて、すでにぼろぼろだ。
なので、改めてまとめなおし、永久保存するためのノートをオーダーしたのが、宝石の鍵付きノートだ。
俺は一番最初のアリスノートを手にとった。
はじめてのお茶会に向けて用意をするため、「アリスノート」と名付けてメモをとりはじめた記念すべき一冊目だ。
まず、最初のページをめくると…、
「アリスとのお茶会に向けて、俺がするべきこと、注意すべきこと10か条」
そう大きな字で書いてあった。そして、次のように続く。
1、常に、アリスに喜んでもらうことを考える。そのために、全力を尽くす。
2、絶対に泣かさない。
3、「ちび」は禁句。絶対に言ってはいけない言葉。
4、選びに選んだ最低限の言葉だけを口にする。不用意な発言をして泣かせたら終わりだ。
5、選びぬいた言葉に精一杯の気持ちをのせる。
たとえば、「ちび」ではなく、「小さい」に変え、「ちいさくて、かわいい」という気持ちをこめて、口にだす。
6、アリスの好きな食べ物と飲み物を調べる。
7、アリスの嫌いな食べ物も把握しておく。間違ってもださないようにするため。
8、調べていることをアリス本人に知られないようにする。気持ち悪いと思われて、泣かれてはいけない。
9、心地の良い空間にするため、アリスの好きなもの全般について調べる。
10、泣かせてしまうという失態をしないため、これ以上、アリスに警戒されないようにする。
アリスの声を聞きたい、アリスと話したい、アリスのそばによりたいなど、俺の欲は心の奥にしまう。我慢だ。
この10か条はアリスと出会った年に書いたものだが、今も守れている!
と、再確認した時、ドアをノックする音がした。
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