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番外編
閑話 ウルスの休日 13
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フィリップの命令に、
「…いやいやいや。俺は頭脳派だ! 体力はまるっきりない。土なんて運べない!」
と、抗議をする。
が、俺の言葉を聞いて、フィリップがプハッとふきだした。
「頭脳派って、誰が? あんなわかりやすい女に、ころっと騙される頭脳派っていないよね? これが、他国のハニートラップだったら、どう? あんな女より、ずーっと美人で、ずーっと狡猾な女が仕掛けてくるよ? ウルスは情報だけぬかれて、今頃、殺されてるかもね?」
「…確かにな」
と、ルイスが相槌をうつ。
フィリップと違って、口数が多くないルイスなだけに、言葉が重くのしかかってくる。
確かに、王太子の側近としての俺を狙ったハニートラップだったら…。俺は簡単すぎるターゲットだろう。
情けないだろ、俺…。
「よし、わかった! 確かに俺はダメだった。俺は自分を鍛えなおす! まずは、ルイスの畑の土を運ぶことからだ! 明日まで休みだから、ちょうどいい。今日から手伝うから、ルイス、なんでも言ってくれ!」
緑色のジャケットを腕まくりしながら、俺は言った。
「…じゃあ、ひとつ言っていいか?」
と、ルイス。
「ああ、もちろんだ!」
「…そのグリーンの上下の服。ウルスに全く合ってない」
「…は?」
「俺は、今、アリスとのお茶会をよりよくするため、テーブルセッティングを学んでる。その一環として、色彩も学んでるんだが、ウルスの顔の色と、グリーンは全くあわない。せめて、もっと暗めのグリーンを選んだらましだった」
ウルスが無表情のまま言った。
俺は、とっさにフィリップを見る。
フィリップは、きらきらした目でルイスを見て、ルイスを絶賛した。
「さすがだね、ルイス! 色のセンスも抜群! ほんとに、才能の塊だ!」
「そんなことより、おい、フィリップ! どういうことだ?! フィリップのプレゼントだろ?!」
「まあ、そうなんだけどね。ウルスが他の色の服を着てるところが見たくてプレゼントしたけど、まさか、そこまでグリーンが似合わないだなんて、思わなかったんだもん。王宮のみんなに、ぼくのセンスが疑われちゃったよ」
と、何故だか、フィリップのほうが若干怒ったように言う。
怒りたいのはこっちのほうだ!
「しかも、中のシャツを自前のシャツにアレンジしてるけど、その組み合わせ、ひどすぎてびっくりだから。
まあ、ぼくでさえ、感想を言えなかったほどだし、それ以来、王宮へ着てこなかったからウルスも察してくれたんだなあ、と思ってたんだけど…。
まさか、プライベートで気合を入れて女性と会う時に着てくるほど、気に入ってたとはね…。ごめんね、ウルス。ぼくが、ウルスのファッションセンスの無さをあなどってたよ。今度は、絶対に似合う服をプレゼントするからね」
フィリップは、憐れんだように言った。
「いらん!」
思わず叫んだ俺。
くそっ! 未来永劫、王宮へは絶対にいつも着ている黒と紺の服しか着て行かない!
そう、心に固く誓った。
それから、俺は、ルイスの畑に土を運び、ルイスの畑の土を耕した。
体はくたくたになったが、心は凪いでいる。
俺は思った。
女は嘘をつくが、土は嘘をつかない。自然が一番信じられる。
自然で癒されるのもいいかもしれない。
耕された畑を前に、汗をぬぐいながら、俺はルイスに言った。
「次は、この畑に花を植えるんだろ? 俺にも手伝わせてくれ」
「断る」
ルイスがすぐさま答えた。
「…は?」
「アリスへ渡すための花だから、俺が植え、俺が育てる。ウルスはもういい。ありがとう、帰ってくれ」
ルイスは、まっすぐな目で俺を見て、そう言った。
ルイス、ぶれないな…。アリス嬢には伝わらないが…。まあ、がんばれ。
よれよれの体で花屋に寄ると、小さなブルーの花が咲く鉢植えが目にとまった。
俺はそれを買い、寮に帰った。
部屋のテーブルに鉢植えを置く。
休日なのに、心身ともに疲れ果てた俺を小さな花が癒してくれるようだ。
ブルーの花なので、ブルーと名前をつけた。
翌日、筋肉痛になった俺も癒してくれたブルー。
なのに、一週間後。
俺の邪気をすいとりすぎたのか、ブルーは枯れてしまった。
ごめんな、ブルー!
※ 閑話なのに、思ったより長くなってしまいましたが、今回でウルス編が終わりました。
ウルスの幸せは、まだまだ遠いです…。
読んでくださった皆様、ありがとうございました。
「…いやいやいや。俺は頭脳派だ! 体力はまるっきりない。土なんて運べない!」
と、抗議をする。
が、俺の言葉を聞いて、フィリップがプハッとふきだした。
「頭脳派って、誰が? あんなわかりやすい女に、ころっと騙される頭脳派っていないよね? これが、他国のハニートラップだったら、どう? あんな女より、ずーっと美人で、ずーっと狡猾な女が仕掛けてくるよ? ウルスは情報だけぬかれて、今頃、殺されてるかもね?」
「…確かにな」
と、ルイスが相槌をうつ。
フィリップと違って、口数が多くないルイスなだけに、言葉が重くのしかかってくる。
確かに、王太子の側近としての俺を狙ったハニートラップだったら…。俺は簡単すぎるターゲットだろう。
情けないだろ、俺…。
「よし、わかった! 確かに俺はダメだった。俺は自分を鍛えなおす! まずは、ルイスの畑の土を運ぶことからだ! 明日まで休みだから、ちょうどいい。今日から手伝うから、ルイス、なんでも言ってくれ!」
緑色のジャケットを腕まくりしながら、俺は言った。
「…じゃあ、ひとつ言っていいか?」
と、ルイス。
「ああ、もちろんだ!」
「…そのグリーンの上下の服。ウルスに全く合ってない」
「…は?」
「俺は、今、アリスとのお茶会をよりよくするため、テーブルセッティングを学んでる。その一環として、色彩も学んでるんだが、ウルスの顔の色と、グリーンは全くあわない。せめて、もっと暗めのグリーンを選んだらましだった」
ウルスが無表情のまま言った。
俺は、とっさにフィリップを見る。
フィリップは、きらきらした目でルイスを見て、ルイスを絶賛した。
「さすがだね、ルイス! 色のセンスも抜群! ほんとに、才能の塊だ!」
「そんなことより、おい、フィリップ! どういうことだ?! フィリップのプレゼントだろ?!」
「まあ、そうなんだけどね。ウルスが他の色の服を着てるところが見たくてプレゼントしたけど、まさか、そこまでグリーンが似合わないだなんて、思わなかったんだもん。王宮のみんなに、ぼくのセンスが疑われちゃったよ」
と、何故だか、フィリップのほうが若干怒ったように言う。
怒りたいのはこっちのほうだ!
「しかも、中のシャツを自前のシャツにアレンジしてるけど、その組み合わせ、ひどすぎてびっくりだから。
まあ、ぼくでさえ、感想を言えなかったほどだし、それ以来、王宮へ着てこなかったからウルスも察してくれたんだなあ、と思ってたんだけど…。
まさか、プライベートで気合を入れて女性と会う時に着てくるほど、気に入ってたとはね…。ごめんね、ウルス。ぼくが、ウルスのファッションセンスの無さをあなどってたよ。今度は、絶対に似合う服をプレゼントするからね」
フィリップは、憐れんだように言った。
「いらん!」
思わず叫んだ俺。
くそっ! 未来永劫、王宮へは絶対にいつも着ている黒と紺の服しか着て行かない!
そう、心に固く誓った。
それから、俺は、ルイスの畑に土を運び、ルイスの畑の土を耕した。
体はくたくたになったが、心は凪いでいる。
俺は思った。
女は嘘をつくが、土は嘘をつかない。自然が一番信じられる。
自然で癒されるのもいいかもしれない。
耕された畑を前に、汗をぬぐいながら、俺はルイスに言った。
「次は、この畑に花を植えるんだろ? 俺にも手伝わせてくれ」
「断る」
ルイスがすぐさま答えた。
「…は?」
「アリスへ渡すための花だから、俺が植え、俺が育てる。ウルスはもういい。ありがとう、帰ってくれ」
ルイスは、まっすぐな目で俺を見て、そう言った。
ルイス、ぶれないな…。アリス嬢には伝わらないが…。まあ、がんばれ。
よれよれの体で花屋に寄ると、小さなブルーの花が咲く鉢植えが目にとまった。
俺はそれを買い、寮に帰った。
部屋のテーブルに鉢植えを置く。
休日なのに、心身ともに疲れ果てた俺を小さな花が癒してくれるようだ。
ブルーの花なので、ブルーと名前をつけた。
翌日、筋肉痛になった俺も癒してくれたブルー。
なのに、一週間後。
俺の邪気をすいとりすぎたのか、ブルーは枯れてしまった。
ごめんな、ブルー!
※ 閑話なのに、思ったより長くなってしまいましたが、今回でウルス編が終わりました。
ウルスの幸せは、まだまだ遠いです…。
読んでくださった皆様、ありがとうございました。
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