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番外編
俺は出会った 7
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今日は、兄上のおかげで、明日のお茶会の準備に専念できた。
俺専用の台所で作業を終えて、廊下を歩いていると、…あ、ウルスだ。
思わず、
「ウルス!」
と、呼び止めた。
「ああ、ルイス。今日は、お茶会の準備か。…いい匂いがする。あー腹減った。何も食べてないんだよなー」
と、ウルス。
ウルスは、兄上の側近で兄上の幼馴染でもある。俺にとっても、もう一人の兄みたいな感じで、遠慮はない。
俺は、手にもっていた、焼き菓子が入った袋を、ウルスに手渡す。
「え、いいのか?!」
と言いながら、ウルスは、すでにがしっと菓子の袋を抱え込んでいる。
「ああ。新作を試しに焼いてみたんだ。アリス用は、明日、ぎりぎりに焼きあげる。甘さは相当おさえてるから、ウルスでも大丈夫だろ」
俺がそう言うと、ウルスは、なんとも言えない目で俺を見た。
「なんだろうな…。人並外れて優秀なのに、なんか不憫な感じだよな…。
それに、その変な方向に、つきぬけていくところ、やっぱり、ルイスとフィリップは兄弟なんだなと、しみじみ思ったわ。似なくていいところが、似てるというか…」
と、憐れんだ顔をした。
「…ウルス。その菓子、返せ」
そう言って、俺が手を伸ばすと、
「ごめん、ごめん、ごめん。でも、これだけは、手放せない!」
そういうと、紙袋から、素早くお菓子をとりだし、ひとつ口に放り込んだ。
「…うまいっ! なんだ、これ?! うますぎるだろっ?!」
と、えらく驚いている。
心外だ。
「美味しくて、あたりまえだ。アリスに食べさせるのに、美味しくないものなんて、俺がだす訳がない」
「…ほんとに、ぶれない奴だな」
と、つぶやいて、ウルスは、また、菓子を口に放り込んだ。
「そうだ。兄上は大丈夫なのか? 面倒なことを押し付けてしまったから」
「ああ、大丈夫、大丈夫。…とういうか、久々に現れた相手だからか、張りきってたな。
ほら、この国では、もう、ルイスにからんでくる奴なんて、滅多にいないだろ? あらわれるたび、フィリップが、二度と近寄る気をなくすよう追い払ってきたから」
俺はうなずいたあと、疑問をぶつけた。
「でも、張りきるといっても、城の案内だろ?」
「んー、あれを城の案内とは言わんと思うが…」
「一体、何をしてるんだ、兄上は?」
俺が聞くと、ウルスは、顔をしかめて言った。
「…なんか、幽霊の話ばっかりしながら案内してたな。
例えば、廊下の大鏡があるだろ。そこの前では、この鏡から、女性の幽霊がとびだしてきて、髪をひっぱるだとか、あとは、地下牢では、叫ぶ首なしの幽霊の話を、実際に絶叫しながら話してたり。あとは、なんだっけ…。
そうだ、廊下を歩いてると、背中にとびのってくる幽霊がいるとか、あとは、台所で生卵の白身だけを食べる幽霊がいるとかだ…。
とにかく、幽霊の話ばかりを、声色を使い分け、鬼気迫る演技力で、身振り手振りで話したり、叫んだりしながら、案内してる。
強いて言えば、城の怪談めぐりみたいな感じか?」
「…おい! うちの城は、そんなに幽霊がいるのか?!」
そっちのほうが驚きだ。
万が一、お茶会の時に、アリスが目撃して、泣いたりしたらどうしてくれる?!
「いや、いないだろ。俺も初耳だし。だいたい、生卵の白身だけを食べる幽霊ってなんだよ? フィリップが白身が嫌いだから、願望だろ? 本当、王太子のやることか?!」
ウルスはそう言うと、はあーっと、ため息をついた。
「え、じゃあ、嘘なのか?!」
「まあ、そうだな。全部、フィリップが即興で作りながら、しゃべってるんだろ。なんというか、役者になったほうがいいんじゃないかってくらい、臨場感があって、しゃべりはうまい。その能力の使い方が、王太子としては、完全におかしいだけで…。
ルイスの菓子作りと同じだよ…。さすが、兄弟…。
まあ、王女は相当おびえてたようだから、二度とこの国に来ないと思うぞ」
そう言いながら、疲れた顔をして、ウルスは帰っていった。
なぜ、俺の菓子作りがそこに並び立つのか、まるでわからないが、まあ、兄上が嫌がってないのなら安心だ。
とりあえず、あとは、夕方の晩餐会だけ、無難にのりこえたら、あとは、明日のアリスとのお茶会だけを考えていられる。
全部、兄上のおかげだ。
明日は、アップルパイのほかに、兄上の大好きなアイスクリームも作って差し入れしておこう。
※ ルイス視点、どんどん長くなっております。
俺専用の台所で作業を終えて、廊下を歩いていると、…あ、ウルスだ。
思わず、
「ウルス!」
と、呼び止めた。
「ああ、ルイス。今日は、お茶会の準備か。…いい匂いがする。あー腹減った。何も食べてないんだよなー」
と、ウルス。
ウルスは、兄上の側近で兄上の幼馴染でもある。俺にとっても、もう一人の兄みたいな感じで、遠慮はない。
俺は、手にもっていた、焼き菓子が入った袋を、ウルスに手渡す。
「え、いいのか?!」
と言いながら、ウルスは、すでにがしっと菓子の袋を抱え込んでいる。
「ああ。新作を試しに焼いてみたんだ。アリス用は、明日、ぎりぎりに焼きあげる。甘さは相当おさえてるから、ウルスでも大丈夫だろ」
俺がそう言うと、ウルスは、なんとも言えない目で俺を見た。
「なんだろうな…。人並外れて優秀なのに、なんか不憫な感じだよな…。
それに、その変な方向に、つきぬけていくところ、やっぱり、ルイスとフィリップは兄弟なんだなと、しみじみ思ったわ。似なくていいところが、似てるというか…」
と、憐れんだ顔をした。
「…ウルス。その菓子、返せ」
そう言って、俺が手を伸ばすと、
「ごめん、ごめん、ごめん。でも、これだけは、手放せない!」
そういうと、紙袋から、素早くお菓子をとりだし、ひとつ口に放り込んだ。
「…うまいっ! なんだ、これ?! うますぎるだろっ?!」
と、えらく驚いている。
心外だ。
「美味しくて、あたりまえだ。アリスに食べさせるのに、美味しくないものなんて、俺がだす訳がない」
「…ほんとに、ぶれない奴だな」
と、つぶやいて、ウルスは、また、菓子を口に放り込んだ。
「そうだ。兄上は大丈夫なのか? 面倒なことを押し付けてしまったから」
「ああ、大丈夫、大丈夫。…とういうか、久々に現れた相手だからか、張りきってたな。
ほら、この国では、もう、ルイスにからんでくる奴なんて、滅多にいないだろ? あらわれるたび、フィリップが、二度と近寄る気をなくすよう追い払ってきたから」
俺はうなずいたあと、疑問をぶつけた。
「でも、張りきるといっても、城の案内だろ?」
「んー、あれを城の案内とは言わんと思うが…」
「一体、何をしてるんだ、兄上は?」
俺が聞くと、ウルスは、顔をしかめて言った。
「…なんか、幽霊の話ばっかりしながら案内してたな。
例えば、廊下の大鏡があるだろ。そこの前では、この鏡から、女性の幽霊がとびだしてきて、髪をひっぱるだとか、あとは、地下牢では、叫ぶ首なしの幽霊の話を、実際に絶叫しながら話してたり。あとは、なんだっけ…。
そうだ、廊下を歩いてると、背中にとびのってくる幽霊がいるとか、あとは、台所で生卵の白身だけを食べる幽霊がいるとかだ…。
とにかく、幽霊の話ばかりを、声色を使い分け、鬼気迫る演技力で、身振り手振りで話したり、叫んだりしながら、案内してる。
強いて言えば、城の怪談めぐりみたいな感じか?」
「…おい! うちの城は、そんなに幽霊がいるのか?!」
そっちのほうが驚きだ。
万が一、お茶会の時に、アリスが目撃して、泣いたりしたらどうしてくれる?!
「いや、いないだろ。俺も初耳だし。だいたい、生卵の白身だけを食べる幽霊ってなんだよ? フィリップが白身が嫌いだから、願望だろ? 本当、王太子のやることか?!」
ウルスはそう言うと、はあーっと、ため息をついた。
「え、じゃあ、嘘なのか?!」
「まあ、そうだな。全部、フィリップが即興で作りながら、しゃべってるんだろ。なんというか、役者になったほうがいいんじゃないかってくらい、臨場感があって、しゃべりはうまい。その能力の使い方が、王太子としては、完全におかしいだけで…。
ルイスの菓子作りと同じだよ…。さすが、兄弟…。
まあ、王女は相当おびえてたようだから、二度とこの国に来ないと思うぞ」
そう言いながら、疲れた顔をして、ウルスは帰っていった。
なぜ、俺の菓子作りがそこに並び立つのか、まるでわからないが、まあ、兄上が嫌がってないのなら安心だ。
とりあえず、あとは、夕方の晩餐会だけ、無難にのりこえたら、あとは、明日のアリスとのお茶会だけを考えていられる。
全部、兄上のおかげだ。
明日は、アップルパイのほかに、兄上の大好きなアイスクリームも作って差し入れしておこう。
※ ルイス視点、どんどん長くなっております。
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