(本編完結)無表情の美形王子に婚約解消され、自由の身になりました! なのに、なんで、近づいてくるんですか?

水無月あん

文字の大きさ
上 下
28 / 125
番外編

俺は出会った 4

しおりを挟む
※ 今回もルイス視点になります。


半年ぶりに会ったアリスは、
「きょうは、おまねきいただき、ありがとうございます」
と、警戒した顔で、俺に挨拶をしてきた。

前回のような、無邪気な笑顔は見られない。

もちろん、笑顔が見られないのはさみしいが、すべては不用意な言葉を言った俺のせい。
また会えただけでも、俺は幸せだ。

それに、どんな表情であれ、アリスのはちみつ色の瞳は、やはり、澄みきって、とてもきれいだ。
思わず、すいこまれそうで見入ってしまう。

そして、半年ぶりに会っても、アリスは小さいままだった。
すごく小さくて、とんでもなく、かわいい…。
やっぱり、アリスは、俺の妖精だ。

アリスの大きな目が、じっと俺を見ている。
心臓の音が聞こえてきそうなほど、警戒しているのが、手にとるように伝わってくる。

大丈夫だ、アリス。
今度は、「ちび」だとは口が裂けても言わないからな。
前回は、俺の無知で傷つけて、すまなかった。

今日は、選びに選んだ最低限の言葉しか発しないように、気をつける。
だから、頼む。泣かないでくれ。

俺は、祈るような気持ちで、精一杯の心をこめて言った。
「小さいな」

そして、かわいいな、と、心の中で、しっかりと付け加える。
今回も、恥ずかしくて、やっぱり口にはだせなかった。

アリスのはちみつ色の瞳が大きく揺れた。

え?! まさか、泣かないよな?!

驚いた顔をしているが、アリスは泣かなかった。

この言葉は大丈夫だった。「小さくて、かわいい」という、俺の気持ちが伝わったんだな。
まずは、良かった…。

俺が椅子に座ると、テーブルをはさんで、アリスも向かい側に座った。

メイドが、手早く、お茶を淹れた。 

俺が用意した茶葉だ。念のため、まずは、ひとくち飲んでみる。
よし、大丈夫だ。

さあ、アリス、飲んでくれ!
俺がアリスのために、選びに選んだ茶葉だ!

が、これをアリスに伝えるのは、押しつけがましいだろうと思い、だまっておく。
俺の無言の圧が通じたのか、アリスがカップをとって、一口のんだ。

ほんの少し、口角があがった。
ほほえんでる!! 

よし、この茶葉は気に入ったんだな! 
ひとまず、良かった。

が、アリスは、だまってお茶を飲んではいるが、菓子には手を伸ばさない。

どうしたんだ? 
アリス好みの路線をねらった菓子ばかりだぞ!

それに、アリスは小さい。とてつもなく、かわいいけれど、風がふいたらとんでいってしまいそうだ。
大きな音で、壊れてしまいそうだ。
心配だ…。

アリス、食べてくれ!

あ、もしかして、テーブルいっぱいに菓子をおいたから、どれがいいか選べないのか?!

全て、俺がえらんできた菓子だから、材料、作り方、由来、栄養など、事細かく説明できるよう頭に入れてある。
が、聞かれてもいないのに説明するのは、嫌がられるかもしれない。

なにより、口数が増えると、また失言をして、泣かせてしまうかもしれない。

さあ、どうするか…。

あ、ひらめいた! 
俺のおすすめを、教えればいい。
うっかり油断して、変な言葉を言うな、俺!

そして、俺は、まずはじめに、アリスが好きだというイチゴを使ったお菓子を指差し、
「これを食べろ」
そう言った。

最小限の言葉で、おすすめを教えたが、どうだ? 

アリスが、とまどった目をして俺を見たが、手をのばし、そのイチゴの菓子の皿をとった。
そして、食べた! 

全部食べてくれた! 良かった!

よし、この作戦でいこう。

次は、さっきの菓子とは、まるでちがうケーキを指差した。
そして、言った。

「次はこれを食べろ」

アリスは、目を見開いて、俺を見たが、だまって、そのケーキ皿をとった。
そして、食べた! 

それにしても、一生懸命、菓子を食べているアリス。なんてかわいいんだ!
見てるだけで癒される。

もっと食べさせたい!
食べてるところを見ていたい!

そうだ、次は、俺が菓子を作ろう。
俺が作った菓子を食べるアリス。想像しただけで、幸せな気分だ。

次のお茶会まで一か月。俺は菓子作りをがんばることにしよう。
しおりを挟む
感想 249

あなたにおすすめの小説

婚約者の側室に嫌がらせされたので逃げてみました。

アトラス
恋愛
公爵令嬢のリリア・カーテノイドは婚約者である王太子殿下が側室を持ったことを知らされる。側室となったガーネット子爵令嬢は殿下の寵愛を盾にリリアに度重なる嫌がらせをしていた。 いやになったリリアは王城からの逃亡を決意する。 だがその途端に、王太子殿下の態度が豹変して・・・ 「いつわたしが婚約破棄すると言った?」 私に飽きたんじゃなかったんですか!? …………………………… たくさんの方々に読んで頂き、大変嬉しく思っています。お気に入り、しおりありがとうございます。とても励みになっています。今後ともどうぞよろしくお願いします!

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

公爵令息は妹を選ぶらしいので私は旅に出ます

ネコ
恋愛
公爵令息ラウルの婚約者だったエリンは、なぜかいつも“愛らしい妹”に優先順位を奪われていた。正当な抗議も「ただの嫉妬だろう」と取り合われず、遂に婚約破棄へ。放り出されても涙は出ない。ならば持ち前の治癒魔法を活かして自由に生きよう――そう決めたエリンの旅立ち先で、運命は大きく動き出す。

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします

希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。 国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。 隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。 「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

本日より他人として生きさせていただきます

ネコ
恋愛
伯爵令嬢のアルマは、愛のない婚約者レオナードに尽くし続けてきた。しかし、彼の隣にはいつも「運命の相手」を自称する美女の姿が。家族も周囲もレオナードの一方的なわがままを容認するばかり。ある夜会で二人の逢瀬を目撃したアルマは、今さら怒る気力も失せてしまう。「それなら私は他人として過ごしましょう」そう告げて婚約破棄に踏み切る。だが、彼女が去った瞬間からレオナードの人生には不穏なほつれが生じ始めるのだった。

わたしにはもうこの子がいるので、いまさら愛してもらわなくても結構です。

ふまさ
恋愛
 伯爵令嬢のリネットは、婚約者のハワードを、盲目的に愛していた。友人に、他の令嬢と親しげに歩いていたと言われても信じず、暴言を吐かれても、彼は子どものように純粋無垢だから仕方ないと自分を納得させていた。  けれど。 「──なんか、こうして改めて見ると猿みたいだし、不細工だなあ。本当に、ぼくときみの子?」  他でもない。二人の子ども──ルシアンへの暴言をきっかけに、ハワードへの絶対的な愛が、リネットの中で確かに崩れていく音がした。

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

【完結】聖女の手を取り婚約者が消えて二年。私は別の人の妻になっていた。

文月ゆうり
恋愛
レティシアナは姫だ。 父王に一番愛される姫。 ゆえに妬まれることが多く、それを憂いた父王により早くに婚約を結ぶことになった。 優しく、頼れる婚約者はレティシアナの英雄だ。 しかし、彼は居なくなった。 聖女と呼ばれる少女と一緒に、行方を眩ませたのだ。 そして、二年後。 レティシアナは、大国の王の妻となっていた。 ※主人公は、戦えるような存在ではありません。戦えて、強い主人公が好きな方には合わない可能性があります。 小説家になろうにも投稿しています。 エールありがとうございます!

処理中です...