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番外編
俺は出会った 3
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※ ルイス視点が続きます。
アリスとの婚約は、アリスの父、ヴァルド公爵の猛烈な反対にあった。
が、父上が王命という切り札をきってまで、婚約を決めてくれた。
その時、
「もし、またアリス嬢を泣かせたら、即刻、婚約解消という条件だ。くれぐれも、言葉には気をつけろ」
と、父上が、疲れた顔で言った。
わかった。もう、二度と泣かせるようなことはしない。
不用意な言葉を発するのはやめる。
まず、「ちび」と言う言葉は二度と言わないと心に誓った。
もともと、俺は口数が少ない。
唯一の友人、マークとは一番話しをするが、それでも、言葉の分量は、マークが9割、俺が1割というところだろうか。
アリスと話す時は、もともと少ない言葉を、慎重に吟味して、言っても大丈夫だと思える言葉だけを口にだすことにしよう。
不用意な言葉で泣かせて、婚約を解消されるくらいなら、会話がなくても、声が聞けなくても、婚約者として、ずっとそばにいられるほうがいい。
そして、アリスと初めて出会ってから、半年がたった。
春だった季節が、秋になった。
この半年、これほど、月日を長く感じたことはない。
それまでは、ただ日々を、過ごしていただけだった。今が何月でも、どうでも良かった。季節も特に興味がなかった。
なのに、今は、アリスに会いたくて、会いたくて、この半年がたまらなく長く感じた。
というのも、王命で婚約をとりつけたものの、会う機会がまるでない。
そこで、父上が気をきかせて、「月に1回、二人だけでお茶会をして、交流を深める」という提案をしてくれた。
そのお茶会の提案も、父上が粘り強く説得してくれて、やっと公爵側に受け入れられた。
明日が、やっと、その一回目だ。
この日のため、俺は、1か月も前から、アリス好みの菓子とお茶を探ってきた。
まずは、マークに、
「アリスは、どんなお茶や菓子が好きなんだ」
と、直球でたずねてみた。
マークは、
「さあ? なんだろうな? なんでもいいんじゃないか?」
と、信じられないくらい適当に答えた。
「なら、アリスに好みのお茶と菓子を聞いといてくれ。今度のお茶会で参考にしたいからな。俺の名前はだすなよ」
と、釘をさした。
もし、気持ち悪いと思われて、泣かれたら終わりだから。危険はおかせない。
「おお、わかった。聞いとくわ」
と、気軽に返事をしたマーク。
次の日、俺は、マークの話をメモするため、このお茶会準備のために作った、「アリスノート」をもって、準備万端で、マークの教室に朝一番で行った。
「あれ? 早いな。ルイス、どうした?」
と、マークが聞いてきた。
「アリスの好みのお茶と菓子を聞きに来た」
と言って、ノートをひろげる。
「え? ああ…。ええと、なんだっけな。ちゃんと、聞いたんだぞ。でも、よくわからないお茶と菓子の名前だったんだ。うーん…。悪い、忘れた」
そう、マークは、趣味の石を扱うときは、驚くほど繊細なのに、食に関しては、驚くほどおおざっぱだった。
公爵家嫡男だけれど、お茶は飲めればいい、お菓子は甘ければいい。
こだわりはゼロ。聞いても無駄。
ということで、マークに頼み、公爵家のデザート担当のシェフに、密かに会わせてもらった。
そこで、アリスの好みのお茶とお菓子を教えてもらった。
が、そこからがスタートだ。
好みのお茶とお菓子は、公爵家でだされているもの。
つまり、それは、普段食べられるものということだ。だから、俺が用意するのは、その系統を参考に、アリスが食べたことがなく、新鮮なおどろきがあるもの。
そして、なにより大事なのは、やはり、アリスが美味しいと喜んでくれるお菓子やお茶を用意しないといけないということだ。
俺は、甘いものは好まないが、それから、毎日、食べに食べた。評判がよい店があれば、買いに行き、自ら食べる。
その分、太らないよう、剣の稽古は相当ハードにした。
そして、むかえたお茶会当日。
テーブルには、決めあぐねた候補の菓子が、ところせましと並んだ。
ひとつでも、アリスが気に入ってくれたら、本望だ。
お茶は、菓子のように沢山並べることはできない。好みのお茶の系統から、好まれるお茶を、専門家に分析してもらって、俺も自ら、沢山のお茶を試飲して、やっと、究極のお茶をひとつ決めた。
よし、準備は整った。
待ちに待った、婚約者として初めてすごす、俺とアリスの記念すべき第一回目のお茶会だ。
二度と泣かさない。失敗は許されない。アリスに喜んでもらうため、全身全霊で臨むのみだ。
※ 次回もルイス視点です。王太子のルイスへの愛と同様、ルイスのアリスへの愛も重すぎるので、ルイス視点も長くなりそうです…。
アリスとの婚約は、アリスの父、ヴァルド公爵の猛烈な反対にあった。
が、父上が王命という切り札をきってまで、婚約を決めてくれた。
その時、
「もし、またアリス嬢を泣かせたら、即刻、婚約解消という条件だ。くれぐれも、言葉には気をつけろ」
と、父上が、疲れた顔で言った。
わかった。もう、二度と泣かせるようなことはしない。
不用意な言葉を発するのはやめる。
まず、「ちび」と言う言葉は二度と言わないと心に誓った。
もともと、俺は口数が少ない。
唯一の友人、マークとは一番話しをするが、それでも、言葉の分量は、マークが9割、俺が1割というところだろうか。
アリスと話す時は、もともと少ない言葉を、慎重に吟味して、言っても大丈夫だと思える言葉だけを口にだすことにしよう。
不用意な言葉で泣かせて、婚約を解消されるくらいなら、会話がなくても、声が聞けなくても、婚約者として、ずっとそばにいられるほうがいい。
そして、アリスと初めて出会ってから、半年がたった。
春だった季節が、秋になった。
この半年、これほど、月日を長く感じたことはない。
それまでは、ただ日々を、過ごしていただけだった。今が何月でも、どうでも良かった。季節も特に興味がなかった。
なのに、今は、アリスに会いたくて、会いたくて、この半年がたまらなく長く感じた。
というのも、王命で婚約をとりつけたものの、会う機会がまるでない。
そこで、父上が気をきかせて、「月に1回、二人だけでお茶会をして、交流を深める」という提案をしてくれた。
そのお茶会の提案も、父上が粘り強く説得してくれて、やっと公爵側に受け入れられた。
明日が、やっと、その一回目だ。
この日のため、俺は、1か月も前から、アリス好みの菓子とお茶を探ってきた。
まずは、マークに、
「アリスは、どんなお茶や菓子が好きなんだ」
と、直球でたずねてみた。
マークは、
「さあ? なんだろうな? なんでもいいんじゃないか?」
と、信じられないくらい適当に答えた。
「なら、アリスに好みのお茶と菓子を聞いといてくれ。今度のお茶会で参考にしたいからな。俺の名前はだすなよ」
と、釘をさした。
もし、気持ち悪いと思われて、泣かれたら終わりだから。危険はおかせない。
「おお、わかった。聞いとくわ」
と、気軽に返事をしたマーク。
次の日、俺は、マークの話をメモするため、このお茶会準備のために作った、「アリスノート」をもって、準備万端で、マークの教室に朝一番で行った。
「あれ? 早いな。ルイス、どうした?」
と、マークが聞いてきた。
「アリスの好みのお茶と菓子を聞きに来た」
と言って、ノートをひろげる。
「え? ああ…。ええと、なんだっけな。ちゃんと、聞いたんだぞ。でも、よくわからないお茶と菓子の名前だったんだ。うーん…。悪い、忘れた」
そう、マークは、趣味の石を扱うときは、驚くほど繊細なのに、食に関しては、驚くほどおおざっぱだった。
公爵家嫡男だけれど、お茶は飲めればいい、お菓子は甘ければいい。
こだわりはゼロ。聞いても無駄。
ということで、マークに頼み、公爵家のデザート担当のシェフに、密かに会わせてもらった。
そこで、アリスの好みのお茶とお菓子を教えてもらった。
が、そこからがスタートだ。
好みのお茶とお菓子は、公爵家でだされているもの。
つまり、それは、普段食べられるものということだ。だから、俺が用意するのは、その系統を参考に、アリスが食べたことがなく、新鮮なおどろきがあるもの。
そして、なにより大事なのは、やはり、アリスが美味しいと喜んでくれるお菓子やお茶を用意しないといけないということだ。
俺は、甘いものは好まないが、それから、毎日、食べに食べた。評判がよい店があれば、買いに行き、自ら食べる。
その分、太らないよう、剣の稽古は相当ハードにした。
そして、むかえたお茶会当日。
テーブルには、決めあぐねた候補の菓子が、ところせましと並んだ。
ひとつでも、アリスが気に入ってくれたら、本望だ。
お茶は、菓子のように沢山並べることはできない。好みのお茶の系統から、好まれるお茶を、専門家に分析してもらって、俺も自ら、沢山のお茶を試飲して、やっと、究極のお茶をひとつ決めた。
よし、準備は整った。
待ちに待った、婚約者として初めてすごす、俺とアリスの記念すべき第一回目のお茶会だ。
二度と泣かさない。失敗は許されない。アリスに喜んでもらうため、全身全霊で臨むのみだ。
※ 次回もルイス視点です。王太子のルイスへの愛と同様、ルイスのアリスへの愛も重すぎるので、ルイス視点も長くなりそうです…。
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