(本編完結)無表情の美形王子に婚約解消され、自由の身になりました! なのに、なんで、近づいてくるんですか?

水無月あん

文字の大きさ
上 下
25 / 125
番外編

俺は出会った 1

しおりを挟む
※ 今回から、ルイス視点になります。

アリスと出会った日は、俺にとって、世界が全く変わった日でもある。

つまり、
「アリスか、そうでないか」
「アリスに関わることか、そうでないのか」
「アリスのためになるか、そうでないのか」
が、物事の判断基準となった。


アリスに出会うまでの俺は、物心ついた時から、まわりのことに興味がわかなかった。

家庭教師に教えられれば、なんでも、即座に理解できた。
その先も想像ができるが、興味はわかなかった。

まわりは「天才だ」と、騒いでいたけれど、それこそ、どうでもよかった。

そして、もうひとつ、どうでもよかったのが、自分の顔だ。
どうやら、人から見ると俺の顔はきれいらしい。
物心ついたころから、きれいだ、きれいだ、と呪文のように言われてきた。

自分の興味のないことを、色々言われても、どう反応していいかわからない。

そうしているうちに、表情がないとささやかれはじめた。
人形王子というのも、俺のことらしい。

確かに、表情はないのだろうし、表情をつくろうとも思わなかった。

が、そんなことも、どうでもよかった。

ただ、兄上が憤慨したらしく、陰で動きまわったようだ。
いつしか、耳に入らなくなった。

その頃から、兄上は、不思議な存在だった。
俺とちがって、顔がころころ変わる。
見ていると、人間の顔は動くものなんだ、ということが、よくわかった。

一度、俺の誕生日に手製の紙芝居をしてくれたことがあった。
話も自分で作り、絵も自分で描いたと言った。
課題でもないのに、その気力はなんなんだと驚いた。

いろんな動物たちがでてくる話だったが、それぞれに声色をかえ、読んでくれた。
が、俺は紙芝居の絵ではなく、お話を読んでいる兄上の顔に釘付けだった。
登場人物に感情移入しすぎているのか、顔の変わりようがすごい。
お話は興味がわかなかったが、兄上の顔は面白いと思った。

今にして思えば、あの頃の俺は、兄上によって、なんの興味もわかないこの世界に、なんとか、つなぎ留められていたんだと思う。

そして、12歳になったころ、俺は、興味がわかないどころか、この世界が嫌になりはじめていた。
兄上の不可思議な面白さは健在だったが、それを上回るほどの苦痛が生じてきたからだ。

それは、年齢があがるにつれ、俺がどれだけ無表情であっても、よってくる令嬢たちが増えてきたからだ。

しかも、俺に直接、接触してくる機会があるのは、高位貴族の令嬢に限られている。
何を背負っているのかわからないが、みな、獲物を狙うような目をして、あきらめない。

よく勘違いされるが、俺は、自分の表情は無くても、人の表情は見る。
表面的な表情ではなく、ましてや、顔の造作でもなく、奥からでてくる表情を探るように見る。
しつこく、よってくる令嬢たちの目は、色々なものを含みすぎていて、俺にはドロリとした気持ちの悪いものに見えた。

そんな時、父上に、そろそろ婚約者を考え始めないといけないと言われた。

王族として、結婚することは義務だと学んだ。
だから、婚約者を決めることに異議はない。
が、せめて、ドロリとした目をしていない令嬢にしてほしいと思った。

手始めに、宰相の娘と会うよう命じられた。
宰相は、父上の親友でもあり、信頼にあたいする人物であることは疑いがない。

ならば、
「会わなくても、その令嬢でかまわない」と、
父上に言った。

すると、
「そうはいかん。自分のことだぞ。ルイスが、仲良くなれそうな子にしなさい」と、
父上に強く言われた。

春の日差しの中、王宮の中庭で、その令嬢とお茶をすることになった。
行ってみると、小さな女の子が待っていた。

小さな女の子は、俺を見ると、トコトコと俺の前にやってきて、カーテンシーをした。
そして、言った。

「はじめまして。わたし、アリス・ヴァルドと、もうします。七歳です。どうぞ、よろしくおねがいします」
一生懸命、挨拶をして、にこっと笑った。

こぼれ落ちそうなくらい、大きな目が、まっすぐにこっちを見ている。
はちみつみたいな色の瞳は、澄んでいて、きらきらと輝いている。

俺は、目が離せなくなった。

なんだ、この生き物は? 
小さくて、とてつもなく…かわいい。


こうして、俺の世界をすっかり変えてしまう小さな妖精と、俺は出会った。

しおりを挟む
感想 249

あなたにおすすめの小説

本日より他人として生きさせていただきます

ネコ
恋愛
伯爵令嬢のアルマは、愛のない婚約者レオナードに尽くし続けてきた。しかし、彼の隣にはいつも「運命の相手」を自称する美女の姿が。家族も周囲もレオナードの一方的なわがままを容認するばかり。ある夜会で二人の逢瀬を目撃したアルマは、今さら怒る気力も失せてしまう。「それなら私は他人として過ごしましょう」そう告げて婚約破棄に踏み切る。だが、彼女が去った瞬間からレオナードの人生には不穏なほつれが生じ始めるのだった。

婚約者の側室に嫌がらせされたので逃げてみました。

アトラス
恋愛
公爵令嬢のリリア・カーテノイドは婚約者である王太子殿下が側室を持ったことを知らされる。側室となったガーネット子爵令嬢は殿下の寵愛を盾にリリアに度重なる嫌がらせをしていた。 いやになったリリアは王城からの逃亡を決意する。 だがその途端に、王太子殿下の態度が豹変して・・・ 「いつわたしが婚約破棄すると言った?」 私に飽きたんじゃなかったんですか!? …………………………… たくさんの方々に読んで頂き、大変嬉しく思っています。お気に入り、しおりありがとうございます。とても励みになっています。今後ともどうぞよろしくお願いします!

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします

希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。 国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。 隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。 「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

わたしにはもうこの子がいるので、いまさら愛してもらわなくても結構です。

ふまさ
恋愛
 伯爵令嬢のリネットは、婚約者のハワードを、盲目的に愛していた。友人に、他の令嬢と親しげに歩いていたと言われても信じず、暴言を吐かれても、彼は子どものように純粋無垢だから仕方ないと自分を納得させていた。  けれど。 「──なんか、こうして改めて見ると猿みたいだし、不細工だなあ。本当に、ぼくときみの子?」  他でもない。二人の子ども──ルシアンへの暴言をきっかけに、ハワードへの絶対的な愛が、リネットの中で確かに崩れていく音がした。

公爵令息は妹を選ぶらしいので私は旅に出ます

ネコ
恋愛
公爵令息ラウルの婚約者だったエリンは、なぜかいつも“愛らしい妹”に優先順位を奪われていた。正当な抗議も「ただの嫉妬だろう」と取り合われず、遂に婚約破棄へ。放り出されても涙は出ない。ならば持ち前の治癒魔法を活かして自由に生きよう――そう決めたエリンの旅立ち先で、運命は大きく動き出す。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

ご自慢の聖女がいるのだから、私は失礼しますわ

ネコ
恋愛
伯爵令嬢ユリアは、幼い頃から第二王子アレクサンドルの婚約者。だが、留学から戻ってきたアレクサンドルは「聖女が僕の真実の花嫁だ」と堂々宣言。周囲は“奇跡の力を持つ聖女”と王子の恋を応援し、ユリアを貶める噂まで広まった。婚約者の座を奪われるより先に、ユリアは自分から破棄を申し出る。「お好きにどうぞ。もう私には関係ありません」そう言った途端、王宮では聖女の力が何かとおかしな騒ぎを起こし始めるのだった。

処理中です...