(本編完結)無表情の美形王子に婚約解消され、自由の身になりました! なのに、なんで、近づいてくるんですか?

水無月あん

文字の大きさ
上 下
23 / 125
番外編

ぼくが守る 5

しおりを挟む
馬車を降りて、話しかけようと、あとを追う。
あの女、あんな大きな荷物を持っているのに足が早い…。

そして、やっと追いつく。

ウルスが、ぼくに小声で、
「さあ、どうするんだ? 色仕掛け作戦、お手並み拝見だな」
と、嫌味ったらしく言った。

「まかせといて」
ぼくは答えて、女に近づいた。

そして、ポケットからハンカチを出して、
「お嬢さん、ハンカチが落ちましたよ」
と、声をかける。

「ブッ、なんだそれ?」
ウルスが笑っている。 

しかし、そこは問題じゃない。
至近距離なのに、あの女は、まったくふりかえらず、すごいスピードで歩いていく。

聞こえてないのか?

仕方ない。奥の手だ。
ぼくは、ポケットから別のものをとりだし、
「お嬢さん、金貨が落ちましたよ」
と、声をかけた。

「ブフッ、今度は金か?! 変な声のかけ方だな。…って、え、嘘だろ?!」
ウルスが驚いた声をあげた。

そう、女は立ち止まり、振り返ったから。

俺は、手のひらに金貨をのせて、見せてみる。

女は、にっこり笑って、
「うん、私かも。ありがとう」
そう言って、受け取った。

ここで、ぼくは、
「あれ? どっかで見たと思ったら、ルイス殿下と、一緒におられる御令嬢ですよね」
さも今、気づいたかのように言う。

すると、女は、
「ああ、あの学園で見たのね。でも、もう、私、あの学園も貴族もやめたから」
と、すぱっと言いきった。

以前見た時とは、声のトーンも、しゃべりかたも、表情も、まとう雰囲気も、なにもかも違う。
何かふっきれたようで、今の姿のほうが自然だ。

「でも、ルイス殿下と仲が良かったのでは?」
と、核心にふれる。

聞きたいのはそこだけだ。答えろ!
焦る気持ちを隠して、にっこりと王子スマイルで微笑む。

女は、面倒そうにため息をついた。
「まあ、金貨ももらったし、…じゃなくて、ひろってもらったし、教えてあげる。ルイス殿下にまとわりついてたのは、確かに私。でもね、私のこと見てもなかった。追い払わなかったのは、私を婚約解消するために利用するため。なのに、あの、元婚約者の公爵令嬢には、すごく執着してるみたい。ほんと、意味がわからないわよねー。あんな、理解できない人間がいる貴族社会は私には向いてない。だから、きれいさっぱり足を洗って、平民に戻ることにしたの!」

「それは、賢明だ。それに、前に見た君よりも今のほうがいいね」
思わず、本音がぽろりとでた。

女は、からっと笑って、
「なら、良かった。あんた、貴族なのに、いい人そうだね。ルイス殿下みたいに、見た目がきれいな貴族には、気をつけたほうがいいよ! 結構きれいな顔してるけど、騙されそうな顔してるもんね。じゃあ!」
そう言って、立ち去って行った。

ブハッ、と後ろでふきだしたのは、もちろんウルスだ。

「色仕掛け、必要なくて良かったな。それどころか、心配されてるって、…笑える」
ツボにはまったみたいで、肩をゆらして笑い続ける。

まあ、疲労がたまってるウルスが、笑えてよかったよ。
でも、あの女、目が悪いんだな。ぼくとルイスが似ていることに気づかないなんて。

ぼくは、王宮に戻り、情報を頭の中でまとめた。

とにかく、あの女はルイスと関係ない。
ルイスは、今まで同様、アリス嬢に執着しているが、自分から婚約解消した。

それは、なぜか…? 

そういえば、もともとは、アリス嬢が王子妃になりたくないと言ったから、王子をやめたいって言いだしたのが、最初だったな。

そして、今、そのアリス嬢と婚約を解消した。あの女との噂はひろまっている。
腹立たしいことに、ルイスの評判も落ちている。

まあ、これは、ぼくが本気をだしたら、一気にあげることは簡単だ。
ルイスのいいところを書き出して、印刷して配るなり、ルイスを主人公にした劇を作り、ルイスのいいところを広めるのもいい。

とにかく、こうして、まとめて考えてみると、やはり最初に戻る。
王子を辞めるつもりだ。ルイスは。アリス嬢のために。

そして、改めて、アリス嬢と婚約を結ぼうとするだろう。ルイスのことだから。

はああ、なんて、不器用なほど一途なんだ、ルイスは!
やはり、この地に舞い降りた天使なのか?!

兄様はルイスの心にふれ、猛烈に感動している。
こうなったら、ルイスを全力で応援する。兄様に任せなさい!
しおりを挟む
感想 249

あなたにおすすめの小説

婚約者の側室に嫌がらせされたので逃げてみました。

アトラス
恋愛
公爵令嬢のリリア・カーテノイドは婚約者である王太子殿下が側室を持ったことを知らされる。側室となったガーネット子爵令嬢は殿下の寵愛を盾にリリアに度重なる嫌がらせをしていた。 いやになったリリアは王城からの逃亡を決意する。 だがその途端に、王太子殿下の態度が豹変して・・・ 「いつわたしが婚約破棄すると言った?」 私に飽きたんじゃなかったんですか!? …………………………… たくさんの方々に読んで頂き、大変嬉しく思っています。お気に入り、しおりありがとうございます。とても励みになっています。今後ともどうぞよろしくお願いします!

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

公爵令息は妹を選ぶらしいので私は旅に出ます

ネコ
恋愛
公爵令息ラウルの婚約者だったエリンは、なぜかいつも“愛らしい妹”に優先順位を奪われていた。正当な抗議も「ただの嫉妬だろう」と取り合われず、遂に婚約破棄へ。放り出されても涙は出ない。ならば持ち前の治癒魔法を活かして自由に生きよう――そう決めたエリンの旅立ち先で、運命は大きく動き出す。

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします

希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。 国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。 隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。 「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

本日より他人として生きさせていただきます

ネコ
恋愛
伯爵令嬢のアルマは、愛のない婚約者レオナードに尽くし続けてきた。しかし、彼の隣にはいつも「運命の相手」を自称する美女の姿が。家族も周囲もレオナードの一方的なわがままを容認するばかり。ある夜会で二人の逢瀬を目撃したアルマは、今さら怒る気力も失せてしまう。「それなら私は他人として過ごしましょう」そう告げて婚約破棄に踏み切る。だが、彼女が去った瞬間からレオナードの人生には不穏なほつれが生じ始めるのだった。

わたしにはもうこの子がいるので、いまさら愛してもらわなくても結構です。

ふまさ
恋愛
 伯爵令嬢のリネットは、婚約者のハワードを、盲目的に愛していた。友人に、他の令嬢と親しげに歩いていたと言われても信じず、暴言を吐かれても、彼は子どものように純粋無垢だから仕方ないと自分を納得させていた。  けれど。 「──なんか、こうして改めて見ると猿みたいだし、不細工だなあ。本当に、ぼくときみの子?」  他でもない。二人の子ども──ルシアンへの暴言をきっかけに、ハワードへの絶対的な愛が、リネットの中で確かに崩れていく音がした。

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

【完結】聖女の手を取り婚約者が消えて二年。私は別の人の妻になっていた。

文月ゆうり
恋愛
レティシアナは姫だ。 父王に一番愛される姫。 ゆえに妬まれることが多く、それを憂いた父王により早くに婚約を結ぶことになった。 優しく、頼れる婚約者はレティシアナの英雄だ。 しかし、彼は居なくなった。 聖女と呼ばれる少女と一緒に、行方を眩ませたのだ。 そして、二年後。 レティシアナは、大国の王の妻となっていた。 ※主人公は、戦えるような存在ではありません。戦えて、強い主人公が好きな方には合わない可能性があります。 小説家になろうにも投稿しています。 エールありがとうございます!

処理中です...