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第二章

嵐のよう

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「では、ジョッシュ。明日からリリアンヌ嬢と食事ができるよう手配してくれ。あと、別に、アイシャやラルフがいようがいまいが、どうでもいい。私とリリアンヌ嬢の会話を邪魔するようであれば、追い出すだけだ」
と、美しい顔で、さらっと怖いことを言う、ジョルジュさん。

その瞬間、拍手が鳴り響く。
ジョッシュさんだ…。
 
手が痛そうなほど、力強い拍手をするジョッシュさん…。
なぜ、手をたたいてるんだろう…? 意味がわからない。

「さすが、我が主、ジョルジュ様です!」
そう言うと、更に強く手をたたいた。

「あー、うるさいわね」
と、顔をしかめるアイシャ。

「それは失礼いたしました、アイシャ様。ジョルジュ様への思いが、つい、音量としてあふれでてしまいました」

え、音量で…?! そんなことあるの…?!

ジョッシュさんは、すぐに、ジョルジュさんに視線を戻した。

「ジョルジュ様であれば、邪魔者を追い出すことなど、たやすいこと。 私としたことが、いらぬ心配をしてしまい、申し訳ございません!」

謝っているけれど、なんだか、嬉しそう…。

「おい、誰が邪魔者だ?」
ラルフが不機嫌そうに言う。

「ジョッシュ…。私も、この家の娘なんだけど?」
あきれたように言うのは、アイシャだ。

すると、ジョッシュさんは、派手な顔立ちに不敵な笑みを浮かべて、ふたりに言い放った。

「例え、ジョルジュ様の幼馴染のラルフ様であろうが、ご家族のアイシャ様であろうが、ジョルジュ様が邪魔だと思われたのなら、私にとっても邪魔な存在ですから。悪しからず」

なんというか、すごいよね…、ジョッシュさん…。
ジョルジュさんへの愛がすごすぎる…。

見た目は素敵な感じなのに、それを完全に忘れさるほどの、あくの強さだよね…。
でも、物珍しすぎて、目が離せない…。

「リリアンヌ嬢」
と、ジョルジュさんに呼ばれ、やっと、ジョッシュさんから視線を外した私。

「はい!」

「私はこれから仕事に向かうが、自分の屋敷だと思ってゆっくりして欲しい。では、明日、朝食の席で」
そう言って、うっすらと微笑んだ。

やっぱり、美貌が人外で目がつぶれそう…。

「おおお!」
ものすごい声量が部屋中に響いた。

もちろん、ジョッシュさんだ。

「ジョルジュ様がこんなに笑われるなんて…!」

こんなに笑われる?! …うっすら微笑んでる、という感じですが…。

ジョッシュさんが、私をきりっと見た。そして、ものすごい勢いで私に近づいてくる。

え、なに、なに、なに…?!

目の前にきたジョッシュさんは、ものすごい圧で言った。

「ジョルジュ様を笑わせるなんて、さすがは、リリアンヌ様。…いえ、リリアンヌ奥様!」

…はあ?! 奥様って何ですか?!

と、思った瞬間、ラルフが吠えた。

「おい、何、血迷ったことを言っている?! リリーは、ジョルジュさんとは結婚なんてしない! 冗談でも、そんな呼び方をするな!」

「これは、失礼しました。つい、気が急きまして…。しかし、ラルフ様、覚えておいてください。ジョルジュ様の望みは、私の望み。ラルフ様と言えど、邪魔するなら容赦はしませんよ? ジョルジュ様のお手を煩わさなくても、私が相手になります。もちろん、ジョルジュ様の足元にも及びませんが、ラルフ様相手なら、結構、やれると思います」

「はあ? なんだと? だれが、変人の乳母もどきに負けるか。そっちこそ、リリーにちょっかいだそうとするなら、どんな手を使ってもつぶしてやる」
ラルフが切れ長の目を、更に、きれっきれにさせて、ジョッシュさんとにらみあう。

と、そこへ、ジョルジュさんの淡々とした声が響いた。

「ジョッシュ。もう出ないと間に合わない」

そのとたん、ジョッシュさんの顔がガラッとかわった。

「申し訳ありません、ジョルジュ様。では、行きましょう! 皆さま、失礼」
そう言うと、ジョルジュさんを先導するように、部屋を出て行った。

まるで、嵐が去ったあとのように、突然、部屋が静かになった。
なんだか、どっと疲れた…。



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