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第二章
何の意味があるんでしょうか?
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そこへ、部屋のドアをノックする音がした。
素早く、執事のロバートさんがドアをあける。
一人の男性が入ってきた。
背は高く、がっしりとした男性。彫りの深い顔立ちは整っている。
初対面だけれど、なんだか親しみがわく。というのも、黒髪に黒い瞳だから。
前世を思い出して、懐かしいよね…。
おそらく30代前半くらいかな。なんというか、ワイルドで大人な雰囲気をかもしだしている。
男性は、私たちを見て、驚いたように目を見開いた。
「おや、アイシャ様、ジョルジュ様とお話されているとは、お珍しい。それに、ラルフ様、おひさしぶりですね。が、何故、こちらに? そして、お初にお目にかかるご令嬢はアイシャ様のご友人ですか?」
と、男性は笑みをうかべて、私を見た。
顔は笑っているけれど、探るような視線が鋭すぎて怖い…。
あの、私、不審人物じゃないですよ?!
あわてて挨拶をしようとすると、アイシャがあきれたように言った。
「ちょっと、ジョッシュ! なんて失礼な目でリリーを見てるの?! こちらは、私の親友で、ミラベル侯爵家のご令嬢リリアンヌよ。お兄様を狙う令嬢たちと一緒にしないで。リリーはね、私と同じ学園に留学するの。学園が始まるまで、数日、こちらに滞在するわ。…リリー、ごめんなさいね。この人は、お兄様の従者でジョッシュよ。お兄様命の乳母みたいな人」
え? 従者さんで、ジョルジュさん命の乳母みたいな人…?
このたくましそうな人が?!
プッと、ラルフが笑った。
「確かに…。ジョッシュは昔っから、ジョルジュさんに過保護すぎて、まさに乳母みたいだもんな」
なんだか、癖の強そうな方なんだね…。
とりあえず、不審者ではないことをわかってもらうべく、私はあわてて、ご挨拶をした。
「リリアンヌ・ミラベルと申します。お世話になりますが、よろしくお願いいたします」
そんな私をじっと観察していたジョッシュさん。
鋭い視線をふっとゆるめ、優しく微笑みかけてきた。
「アイシャ様のご親友に、大変失礼いたしました。ジョルジュ様に群がる身の程知らずな令嬢が多いものですから、警戒するのが癖になっており、申し訳ありません…。私は、ジョルジュ様の従者で、ジョッシュ・ハルクと申します。私のことは、ジョッシュとお呼びください。では、早速、リリアンヌ様、ジョッシュと10回呼んでいただけますか?」
「…は?」
意味がわからず、あっけにとられる私。
が、ジョッシュさんは、にっこり微笑んで、有無を言わせない圧をかもしだしながら、私に再度言った。
「さあ、リリアンヌ様。10回、ジョッシュと呼んでもらえますか」
「はー。また、それ? 面倒ね…。リリー、適当に呼んであげて。害はないから」
心底嫌そうに言うアイシャ。
「…わかった。ええと、…では、ジョッシュさん、ジョッシュさん、ジョッシュさん、ジョッシュさん、ジョッシュさん、ジョッシュさん、ジョッシュさん、ジョッシュさん、ジョッシュさん、ジョッシュさん…?」
これで、10回かな?
ジョッシュさんは、満足そうに微笑んで、ジョルジュさんを手で示した。
「では、この方のお名前は?」
「ジョッ…ジョルジュさんです」
「はい、その通りです。ありがとうございました、リリアンヌ様」
と、満足そうに言うジョッシュさん。
「ええと、これは、一体何の意味があって…?」
おそるおそる聞く私。
「今、ジョルジュ様の名前を呼ぶとき、思わず、私の名前を言いそうになられましたよね?」
「ええ、まあ。似てますから」
「そうでしょう! そのことをリリアンヌ様にも実感してほしかったのです。私の一番の自慢はジョルジュ様に似たこの『ジョッシュ』という名前なんですから」
と、誇らしげに言うジョッシュさん。
ええと…、もしや、そのためだけに、私は10回繰り返したってこと…?
普通に、「ジョルジュ」と「ジョッシュ」って似てるよね?で、終わる話じゃないの…?
「ごめんなさいね、リリー。この変なくだり、ジョッシュの挨拶の一貫だから。一度は通る通過儀礼というか…」
「そう言えば、俺も子どもの頃、ジョッシュに初めて会った時、言わされた。まだ、やってたんだな…。デジャブを見てるみたいだった…」
と、あきれた声で言うラルフ。
「私にとっては挨拶ですが、これをするのは、今後長いお付き合いになりそうな方のみ。そんなお方には、しっかりと、私の一番の自慢をお伝えしておきたいですからね。つまり、私の野生の感では、リリアンヌ様とは長いお付き合いになりそうな気がするので、思わず、口からでてしまいました。ということで、これからよろしくお願いしますね、リリアンヌ様」
そう言って、ジョッシュさんが、目をぎらっと光らせた。
※ 大変更新が遅くなりました! すみません!
こんな不定期な更新のなか、よんでくださっている方には感謝ばかりです。本当にありがとうございます!
お気に入り登録、エールもありがとうございます! 大変励みになります!
新しい登場人物も癖が強いですが、どうぞよろしくお願いいたします。
素早く、執事のロバートさんがドアをあける。
一人の男性が入ってきた。
背は高く、がっしりとした男性。彫りの深い顔立ちは整っている。
初対面だけれど、なんだか親しみがわく。というのも、黒髪に黒い瞳だから。
前世を思い出して、懐かしいよね…。
おそらく30代前半くらいかな。なんというか、ワイルドで大人な雰囲気をかもしだしている。
男性は、私たちを見て、驚いたように目を見開いた。
「おや、アイシャ様、ジョルジュ様とお話されているとは、お珍しい。それに、ラルフ様、おひさしぶりですね。が、何故、こちらに? そして、お初にお目にかかるご令嬢はアイシャ様のご友人ですか?」
と、男性は笑みをうかべて、私を見た。
顔は笑っているけれど、探るような視線が鋭すぎて怖い…。
あの、私、不審人物じゃないですよ?!
あわてて挨拶をしようとすると、アイシャがあきれたように言った。
「ちょっと、ジョッシュ! なんて失礼な目でリリーを見てるの?! こちらは、私の親友で、ミラベル侯爵家のご令嬢リリアンヌよ。お兄様を狙う令嬢たちと一緒にしないで。リリーはね、私と同じ学園に留学するの。学園が始まるまで、数日、こちらに滞在するわ。…リリー、ごめんなさいね。この人は、お兄様の従者でジョッシュよ。お兄様命の乳母みたいな人」
え? 従者さんで、ジョルジュさん命の乳母みたいな人…?
このたくましそうな人が?!
プッと、ラルフが笑った。
「確かに…。ジョッシュは昔っから、ジョルジュさんに過保護すぎて、まさに乳母みたいだもんな」
なんだか、癖の強そうな方なんだね…。
とりあえず、不審者ではないことをわかってもらうべく、私はあわてて、ご挨拶をした。
「リリアンヌ・ミラベルと申します。お世話になりますが、よろしくお願いいたします」
そんな私をじっと観察していたジョッシュさん。
鋭い視線をふっとゆるめ、優しく微笑みかけてきた。
「アイシャ様のご親友に、大変失礼いたしました。ジョルジュ様に群がる身の程知らずな令嬢が多いものですから、警戒するのが癖になっており、申し訳ありません…。私は、ジョルジュ様の従者で、ジョッシュ・ハルクと申します。私のことは、ジョッシュとお呼びください。では、早速、リリアンヌ様、ジョッシュと10回呼んでいただけますか?」
「…は?」
意味がわからず、あっけにとられる私。
が、ジョッシュさんは、にっこり微笑んで、有無を言わせない圧をかもしだしながら、私に再度言った。
「さあ、リリアンヌ様。10回、ジョッシュと呼んでもらえますか」
「はー。また、それ? 面倒ね…。リリー、適当に呼んであげて。害はないから」
心底嫌そうに言うアイシャ。
「…わかった。ええと、…では、ジョッシュさん、ジョッシュさん、ジョッシュさん、ジョッシュさん、ジョッシュさん、ジョッシュさん、ジョッシュさん、ジョッシュさん、ジョッシュさん、ジョッシュさん…?」
これで、10回かな?
ジョッシュさんは、満足そうに微笑んで、ジョルジュさんを手で示した。
「では、この方のお名前は?」
「ジョッ…ジョルジュさんです」
「はい、その通りです。ありがとうございました、リリアンヌ様」
と、満足そうに言うジョッシュさん。
「ええと、これは、一体何の意味があって…?」
おそるおそる聞く私。
「今、ジョルジュ様の名前を呼ぶとき、思わず、私の名前を言いそうになられましたよね?」
「ええ、まあ。似てますから」
「そうでしょう! そのことをリリアンヌ様にも実感してほしかったのです。私の一番の自慢はジョルジュ様に似たこの『ジョッシュ』という名前なんですから」
と、誇らしげに言うジョッシュさん。
ええと…、もしや、そのためだけに、私は10回繰り返したってこと…?
普通に、「ジョルジュ」と「ジョッシュ」って似てるよね?で、終わる話じゃないの…?
「ごめんなさいね、リリー。この変なくだり、ジョッシュの挨拶の一貫だから。一度は通る通過儀礼というか…」
「そう言えば、俺も子どもの頃、ジョッシュに初めて会った時、言わされた。まだ、やってたんだな…。デジャブを見てるみたいだった…」
と、あきれた声で言うラルフ。
「私にとっては挨拶ですが、これをするのは、今後長いお付き合いになりそうな方のみ。そんなお方には、しっかりと、私の一番の自慢をお伝えしておきたいですからね。つまり、私の野生の感では、リリアンヌ様とは長いお付き合いになりそうな気がするので、思わず、口からでてしまいました。ということで、これからよろしくお願いしますね、リリアンヌ様」
そう言って、ジョッシュさんが、目をぎらっと光らせた。
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