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第二章

現る

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「それは、私の言い方が悪くて失礼した、リリアンヌ嬢」
私の目をまっすぐに見て、穏やかな口調で謝るジョルジュさん。

え? 今、二人には想像力や理解力がないって言ってませんでしたっけ?
反応が真逆というか…。

「はあ?! なんだそれ?! リリーには言ってることが全然違うじゃないか!」
ラルフが、怒りを含んだ声で言う。

「当然だ。私にとって興味もわかないおまえたちと、興味をもっているリリアンヌ嬢を同じに扱うわけがない」
と、ジョルジュさんは、ラルフを見据えて冷静に答えた。

あの、ジョルジュさん?!  なんてことを言うんですか!
挑発的な発言に、ヒヤヒヤするんだけど…。

アイシャがためいきをついた。

「そこまで、あからさまに言われると怒りすらわかないわね…。それで、お兄様。リリーとドラヤキとやらを同列にしていないのなら、どういうおつもりなの? 理解力のない私にも、わかりやすく説明してくれないかしら?」

「今までは私の中で、音だけだったドラヤキ。それを形づけてくれたのがリリアンヌ嬢だ。つまり、私の中のドラヤキはリリアンヌ嬢の教えてくれたものにすでにすり替わっていると言える。これから先、ドラヤキを思い浮かべる時、私は、必ずやリリアンヌ嬢を思うだろう。だが、リリアンヌ嬢を思い浮かべたとて、必ずドラヤキを思うわけではない。つまり、私にとって、リリアンヌ嬢あってのドラヤキ。ドラヤキあってのリリアンヌ嬢では断じてない。故に同列ではない」

「「「…」」」

部屋が静まりかえった。

ジョルジュさんの言ったことを考えてみる…。考えてみる…。考えてみる…。

が、やはり、わからない…。

わかったことは、私の名前とドラヤキがやたらとでてきたことだけだ。

まず、口を開いたのはアイシャ。
「要は、リリーに属するものがドラヤキということ? リリーに属するドラヤキであって、ドラヤキに属するリリーではない? …って、自分で言って、おかしくなるわ! お兄様の思考を理解しようとすることが無理なのよ」

「理解してもらわなくて結構だ」

即答するジョルジュさん。

「お兄様のドラヤキ問題は理解不能だわ…。こんな変なのを、本当にリリーに推していいのかしら…?」

アイシャがぶつぶつとつぶやく。

そんなアイシャから私へと顔をむけたジョルジュさん。

「リリアンヌ嬢。ドラヤキ試作のために、わざわざ大事な休日を使って、この屋敷に通ってくれると言ってくれて、心より感謝する」

あまりに真剣に言われるので、思わず、私の背筋も伸びた。
「いえいえ、私もどらやきを食べたいですし…」

「あと、リリアンヌ嬢の時間のある時にで良いのだが、私に、ドラヤキのある世界について覚えていることを話してくれないだろうか?」

「あ、そんなことなら、いくらでも! 私も、前世の話ができるのは嬉しいです!」

私におまかせあれ!という気持ちをこめて、にっこり微笑む。

すると、何故だか、ジョルジュさんの瞳がとまどうように揺れた。
自信に満ち溢れたラスボスの時とはまるで違う、子犬のような瞳。

なに、そのギャップ?!
 
ラスボスが一途な溺愛を見せるヒーローの可能性はわかっていたけれど、まさか、そこにかわいい子犬属性まで入るとは! 
新しい大型溺愛ヒーロー候補現る!  




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