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第二章

私はどらやき

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そんな戦闘モードのラルフに、アイシャがぴしりと言った。

「念願叶って、やっと、この国へつれてきたのに、やすやすと、ラルフに連れ帰らせると思う? リリーのことは、すっぱりあきらめなさい。永遠にね」

「なんだと?! なら、俺も留学してやる」

ラルフの言葉を、鼻で笑ったアイシャ。

「ラルフ、女装でもするの? 女子だけの学園だけど?」

「ああ、やってやる」

いやいや、ラルフ?! 冷静になろうよ! 相当おかしなことを言ってるよ?

ジョルジュさんのひんやりとした声が響いた。

「おまえたちは、幼児なのか? それに、ラルフ。今のおまえでは、私の敵としては力不足だ。次期公爵として学ぶべきことは多いだろう? 遊んでる場合か? さっさと帰れ」

「はっ! ドラヤキとかいう食べ物に固執してるだけだろ? それなら、ドラヤキだけ食ってろ! リリーに関わるな!」
荒れまくるラルフが、ドラヤキのことを言ったとたん、ジョルジュさんの美貌に、怒りの色がさしこんだ。

「ドラヤキを知りもしないくせに、ドラヤキを侮るな。ドラヤキの意味を教えてくれたリリアンヌ嬢に失礼だ」

ん? …ちょっと意味がわからないけれど、別に私は大丈夫です。

「それと、おまえの今の発言に異議がある」
ジョルジュさんは、更にラルフに言い募る。

「あ?!」

あのー、ラルフ…。品のある冷たい美貌をもってしても、醸し出す雰囲気は、ならず者のようだよ…。

「おまえは、『ドラヤキだけ食ってろ。リリーに関わるな』と言ったな。だが、それは無理な話だ。そもそもリリアンヌ嬢がいなければ、ドラヤキを食べることはできないし、ドラヤキが食べ物だともわからなかった。つまり、リリアンヌ嬢に関わらずして、私のドラヤキはあり得ない」

…んんん? 
ますますわからないけれど、ジョルジュさんが言いたいのは、私がどらやきってこと?

と、混乱していたら、ラルフがうなるように言った。

「リリーはドラヤキじゃない! 意味がわからないことばかり言いやがって」

ふむ、どうやら、ラルフは私と同じ解釈のようね。

「お兄様…。真剣な気持ちは伝わってはきますが、食べ物と女性を同等に語って喜ぶ女性がいるかしら?」
と、アイシャがため息をついた。

すると、ジョルジュさんが、怒りをこめた声で言い放った。
「ラルフもアイシャも失礼なことを言うな。私は、リリアンヌ嬢とドラヤキを同等などと言ってはいないし、思ってもいない」

え? 違うの? 私もてっきり、どらやき=私だと思ったけど?

「さっきから、そう言ってるだろ?!」
ラルフが吠える。

「私もそう聞こえるわ」
と、アイシャもいぶかし気に言った。

ジョルジュさんは、憂いのある美貌で、軽く息をはく。
「二人とも、想像力も理解力もないな。それで、公爵や王子妃になれるのか? 嘆かわしい」

ちょっと、ジョルジュさん?! 無敵の二人になんてことを言うんですか?!
両隣が怖くて見れない! 

私はあわてて口をひらく。

「ええと、ジョルジュさん。…私もそう思ってしまいました。でも、それはそれで大丈夫です! どらやきは、大好きだったので。どらやきが私、…いや、ちがうか…、私をどらやきと思ってくださっても、全然失礼じゃないです。むしろ嬉しいくらいです!」
しどろもどろになりながらも、できるだけ、この部屋の空気を変えるように、明るい声で言ってみた。

ふと、部屋の後ろで控えている執事のロバートさんと目があう。
私をねぎらうように、目礼をしてくれた。お疲れ様です…。




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