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第二章

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私の叫び声のあとは、異様なほどの静寂が訪れた。

思考が止まる…。

と、小さなコロンという音。
音のほうを見ると、ロバートさんがペンを落としたらしく、あわてて拾おうとして、また、落としている。

「…もっ、申し訳ありません。失礼いたしました…」

ベテラン執事であるロバートさんの動揺した様子を見て、妙に冷静になった。
止まっていた思考が動きだす。

もしや、ジョルジュさんの考える婚約と、私の考える婚約では別物なのかもしれない。
まずは、しっかり確認しないと!

「…ええと、ジョルジュさん。私が思う婚約とは、ゆくゆく結婚するための約束。もしかして、ジョルジュさんにとっては別の意味だったのでしょうか?」

「いや、その通りだ。結婚の約束を結ぶという認識で、リリアンヌ嬢に婚約を申し込んだ」

ジョルジュさんが、淡々と答えたとたん、隣からバーンと机を叩く音。
ウルフ…いや、ラルフが両手をテーブルにたたきつけた状態で、ジョルジュさんをにらみつけている。

「さっき会っただけで、何を言ってるんだ?! ふざけるなっ!」

「ふざけてなどいない。私とリリアンヌ嬢が婚約すれば、次期筆頭公爵夫人の教育として屋敷に滞在するという、しっかりとした理由ができる」

「そんなことのために婚約だなんて、頭おかしいだろう?! リリーのことをなんとも思ってないくせに、軽々しく婚約なんて申し込むな!」

「なんとも思ってない…? いや、政略でもあるまいし、なんとも思わない存在に婚約を申し込みはしない」

「はああ?! じゃあ、なんだ?! この短時間でリリーを好きになったとか言い出すんじゃないよな?!」
ラルフが、視線だけで射殺しそうなほど、ジョルジュさんをにらんでいる。

「好きだと? まさか、そんなわけがないだろう」
冷たくそう言い放つと、軽蔑するような目をラルフに向けるジョルジュさん。

そこで、今度はアイシャが怒った声で言った。
「お兄様、なんなの、その言い方?! いくら人の心がわからないお兄様だからと言って、リリーに失礼よ! 好きになったわけでもないのに、簡単に婚約を口にするなんて許せないわ!」

うーん、なんだろう、この会話…? 
何故だか、私、ふられたみたいな気持ちになってきたのですが…。

まあ、とにかく、私は全然平気なので、二人とも落ち着いて…。

と思ったら、ジョルジュさんが、冷たい目でアイシャとラルフを一瞥した。
そして、私に視線を戻す。

「リリアンヌ嬢は、私にとって恩人。長年、色々な言語を学んでもヒントすら見えなかったドラヤキの意味。それを知ることを、どれだけ私が渇望してきたか。その答えに導いてもらって、どれだけ私が満たされたか。リリアンヌ嬢に出会えたことは私にとっては至福。好きなどと軽々しく言えるような気持ちではない」

部屋が静まり返った。

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