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第二章
恐るべし
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そんな私の様子を見て、ジョルジュさんが確認するように聞いてきた。
「やはり、知ってるんだな。ドラヤキを」
「はい、よーく知っています!」
興奮を抑えきれない私は、前のめりで答えてしまう。
ジョルジュさんの冷たい美貌に、ほんの少し、熱がこもる。
「ならば、ドラヤキとはなんなのか、その意味を教えてくれないか?」
私は、大きくうなずいて、答えた。
「どらやきとは、お菓子です! 前世で、祖母がよく買ってきてくれて、大好物でした。外側はふんわり、中のあんこは甘ーく。熱いお茶を飲みながら食べると、ほっこりと幸せな気分になるんです…」
と、説明していたら、思い出してきて、顔がにんまりとゆるんでくる。
この世界で、あんこを見たことはないけれど、あー、食べたい!
と、すっかり、前世に気持ちがとんでいた私。
我に返ると、ジョルジュさんが、感情の読めない瞳で、私をじっと見つめていた。
あ、…もしかして、どらやきが思ってたのと違って、がっかりしたのかな?
長年、追い求めていた言葉だもんね。なにかしら想像していたかもしれないし。
例えば、ジョルジュさんの雰囲気にぴったりの美しく、ひんやりした意味の言葉だったりとか?
どらやきは、ひんやりとは無縁の、あったかい言葉だもんね…。
とはいえ、どらやきは、お菓子界に燦然と輝く、不動の存在!
そんな愛すべきお菓子、どらやきにがっかりされるのは、どらやきファンとしては悲しすぎる!
しっかり、フォローしておかないと!
「ええと、どらやきは、前世では、大変有名なお菓子なんです。老若男女問わず、受け入れてくれる、なんというか、…そう、ふところの深いお菓子なんです! みんなをほっとさせる、やさしいお菓子なんです!!」
「おい、リリー! わかったから! 落ち着け! そこで、とまれっ。近いだろっ!」
と、ラルフの声。そして、私を止めるように、ラルフの腕がのびてきた。
ん? …あれ? ジョルジュさんの顔が近いような…。
私、いつのまにか、椅子をけって立ちあがり、テーブルごしに体をのりだし、相当、ジョルジュさんに近づいて、話してたみたい…。
うん、はずかしい…。
「ええと…、ちょっと興奮してしまいまして…。すみません」
そう言うと、さっと、体をもとにもどし、椅子に座りなおした。
すると、ジョルジュさんが言った。
「いや、リリアンヌ嬢のドラヤキへの気持ちがよく伝わってきた。そして、腑に落ちた」
「え? 腑に落ちた?」
「そうだ。私は、このドラヤキという言葉を聞くと、ほんのりとあたたかい気持ちになっていたのだ。つまり、私もリリアンヌ嬢と同じ世界で生きた前世というものがあり、リリアンヌ嬢とちがって、ドラヤキという言葉以外は忘れ去っているが、おそらく、私もリリアンヌ嬢と同様に好物だったのだろうと思ったのだ」
そう言うと、ジョルジュさんが、うっすらと微笑んだ。
「はっ? お兄様が、微笑んでる?!」
と、驚いた声をあげたアイシャ。
近くで控えていた執事のロバートさんも、何かを取り落して、あたふたしている。
「うそだろ…」
そうつぶやいたのは、隣のラルフだ。
まわりの動揺には目もくれず、ジョルジュさんはうっすらとした微笑みをたたえた顔で、私を見ている。
ぞくりと寒気がした。
うっすらと微笑んでいるだけなのに、背後に氷の花が舞い散るのが見える気がする。
あまりに凶暴な美しさに、本能的に逃げたくなってきた。
笑うと更に怖いだなんて、すごい危険人物じゃない?!
さすが、ラスボスよね!
「やはり、知ってるんだな。ドラヤキを」
「はい、よーく知っています!」
興奮を抑えきれない私は、前のめりで答えてしまう。
ジョルジュさんの冷たい美貌に、ほんの少し、熱がこもる。
「ならば、ドラヤキとはなんなのか、その意味を教えてくれないか?」
私は、大きくうなずいて、答えた。
「どらやきとは、お菓子です! 前世で、祖母がよく買ってきてくれて、大好物でした。外側はふんわり、中のあんこは甘ーく。熱いお茶を飲みながら食べると、ほっこりと幸せな気分になるんです…」
と、説明していたら、思い出してきて、顔がにんまりとゆるんでくる。
この世界で、あんこを見たことはないけれど、あー、食べたい!
と、すっかり、前世に気持ちがとんでいた私。
我に返ると、ジョルジュさんが、感情の読めない瞳で、私をじっと見つめていた。
あ、…もしかして、どらやきが思ってたのと違って、がっかりしたのかな?
長年、追い求めていた言葉だもんね。なにかしら想像していたかもしれないし。
例えば、ジョルジュさんの雰囲気にぴったりの美しく、ひんやりした意味の言葉だったりとか?
どらやきは、ひんやりとは無縁の、あったかい言葉だもんね…。
とはいえ、どらやきは、お菓子界に燦然と輝く、不動の存在!
そんな愛すべきお菓子、どらやきにがっかりされるのは、どらやきファンとしては悲しすぎる!
しっかり、フォローしておかないと!
「ええと、どらやきは、前世では、大変有名なお菓子なんです。老若男女問わず、受け入れてくれる、なんというか、…そう、ふところの深いお菓子なんです! みんなをほっとさせる、やさしいお菓子なんです!!」
「おい、リリー! わかったから! 落ち着け! そこで、とまれっ。近いだろっ!」
と、ラルフの声。そして、私を止めるように、ラルフの腕がのびてきた。
ん? …あれ? ジョルジュさんの顔が近いような…。
私、いつのまにか、椅子をけって立ちあがり、テーブルごしに体をのりだし、相当、ジョルジュさんに近づいて、話してたみたい…。
うん、はずかしい…。
「ええと…、ちょっと興奮してしまいまして…。すみません」
そう言うと、さっと、体をもとにもどし、椅子に座りなおした。
すると、ジョルジュさんが言った。
「いや、リリアンヌ嬢のドラヤキへの気持ちがよく伝わってきた。そして、腑に落ちた」
「え? 腑に落ちた?」
「そうだ。私は、このドラヤキという言葉を聞くと、ほんのりとあたたかい気持ちになっていたのだ。つまり、私もリリアンヌ嬢と同じ世界で生きた前世というものがあり、リリアンヌ嬢とちがって、ドラヤキという言葉以外は忘れ去っているが、おそらく、私もリリアンヌ嬢と同様に好物だったのだろうと思ったのだ」
そう言うと、ジョルジュさんが、うっすらと微笑んだ。
「はっ? お兄様が、微笑んでる?!」
と、驚いた声をあげたアイシャ。
近くで控えていた執事のロバートさんも、何かを取り落して、あたふたしている。
「うそだろ…」
そうつぶやいたのは、隣のラルフだ。
まわりの動揺には目もくれず、ジョルジュさんはうっすらとした微笑みをたたえた顔で、私を見ている。
ぞくりと寒気がした。
うっすらと微笑んでいるだけなのに、背後に氷の花が舞い散るのが見える気がする。
あまりに凶暴な美しさに、本能的に逃げたくなってきた。
笑うと更に怖いだなんて、すごい危険人物じゃない?!
さすが、ラスボスよね!
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