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第二章
懐かしい
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「アイシャ様とラルフ様、お二人の大事なご友人のリリアンヌ様にお会いできて、本当に嬉しいです。快適におすごしいただけるよう、精一杯、つとめさせていただきます」
ロバートさんの言葉に、お世話になる身としては、恐縮してしまう。
「こちらこそ、どうぞ、よろしくお願いします」
「では、ラルフ様のお部屋の準備と、リリアンヌ様のお荷物をお部屋にいれてきます。お茶の準備をしてありますが、応接室でよろしいですか?」
ロバートさんが、アイシャに聞く。
「ええ、そうしてちょうだい。くれぐれも、ラルフの部屋は、リリーの部屋から一番離れた部屋でお願いね」
「俺は、リリーと一緒の部屋でもいいが?」
と、妖し気な笑みを浮かべるラルフ。
「それはダメです、ラルフ様。次期公爵様が、軽々しく、そんなことを言うなんて、冗談でも感心しません」
ロバートさんが、ぴしゃりと言った。
アイシャが満足そうに微笑む。
反対に、ラルフは、一気に不満そうに眉間にしわをよせた。
「…そうだった。ロバートは色々うるさかったっけ…。せっかくのチャンスが…」
ぶつぶつ言うラルフの顔は、ちょっと、子どもっぽい。
子どもの頃のラルフを思い出し、ニマニマしてしまう。
「…リリー。変な顔になってるが、どうした?」
ラルフがいぶかしげに聞いてきた。
「うん、子どもの頃のラルフを思い出してたの。ほら、中身とちがって、見た目だけは、天使みたいにかわいかったなあって…。フフフ」
ロバートさんがクスッと笑った。
「確かに。…あ、そう言えば、小さい頃、王太子のコンラートの誕生日会で事件があったわよねえ。その見た目詐欺のせいで」
と、アイシャ。
「なに、その事件? 聞いたことない! 教えて!」
私が前のめりで、アイシャに聞く。
「おい、だまれ! それを言うなら、アイシャだって似たようなもんだろ」
と、ラルフ。
「全然、違うわよ。わたしは、小さい頃から、口にだすことは考えてるもの。無用な敵はつくらないわ」
「…かわいくねえな」
ふてくされたラルフの口調が荒れてきた。
「それは違います、ラルフ様。アイシャ様は、とてもお可愛らしいですよ」
ロバートさんが、すかさず、訂正をいれる。
「…ぐっ。ロバートがアイシャにとりこまれてる」
ラルフが悔しそうに顔をゆがめた。
そんなやりとりを、アイシャは聞いてもいない。
「あの頃、リリーと私は、まだ知りあってなかったものね。ラルフとリリーは知りあってたのに、ラルフが教えないから。エルザおばさまのおかげで、リリーに出会えたから良かったけれど。ほんと、小さいころから、独占欲が強くて、心がせまいわよね」
そう言って、ラルフをひとにらみする。
もちろん、ラルフも氷のような目で、にらみかえす。
私は、あわてて、アイシャに先を促した。
「それで、その事件とは、なんだったの?」
「そう、あれは、私とラルフが8歳の頃。親戚だから、コンラートの誕生日会に王宮へ呼ばれたの。他の招待客は、コンラートの学園の同級生ばかりだったから、私たちより6歳年上だった。でも、令嬢たちは、主役のコンラートではなく、見かけ詐欺のラルフに集まってきたの。それこそ、すごいきれい、天使みたいとか言いながらね」
うん、その先の展開が想像がつくよね…。
「が、この男。近寄ってくる令嬢たちに、次々と暴言をはいていったの。令嬢たちは大泣きし、誕生会は中止になった。それ以来、ラルフはコンラートの誕生日会には呼ばれなくなったんだけどね」
「…ちなみに、どんなことを言ったの?」
おそるおそる聞く私に、アイシャが遠い目をして答えてくれた。
「確か、…天使なんかいるか、バカなのか? とか、気持ち悪いから勝手に近づくな、とか…。まあ、今でも成長してないから、近づく令嬢には似たようなこと言ってるけどね」
ああ、なるほどね…。思わず、うなずく私。
今でも、鋼のメンタルで、近づいてくる令嬢たちを、毒舌で、ばっさりと、きっていくもんね…。
「本当になぜ、その顔面を生かさないんだろ? 毒舌を少しひっこめたら、今頃、可憐なヒロイン相手に、極上の溺愛を私に見せてくれる、溺愛ヒーローとして、君臨できてたのに。もったいない。…あっ」
あわてて口をおさえたが、もう遅い。しっかりと、私の心の声がもれてしまっていた。
あわててラルフを見ると、あきれはてたような、冷え冷えとした目で私を見ている。
「ラルフ様も、前途多難というか…」
ロバートさんが、ぼそりとつぶやき、
「いいのよ、リリー。そのまま、そのまま」
アイシャは嬉しそうに微笑んだ。
ロバートさんの言葉に、お世話になる身としては、恐縮してしまう。
「こちらこそ、どうぞ、よろしくお願いします」
「では、ラルフ様のお部屋の準備と、リリアンヌ様のお荷物をお部屋にいれてきます。お茶の準備をしてありますが、応接室でよろしいですか?」
ロバートさんが、アイシャに聞く。
「ええ、そうしてちょうだい。くれぐれも、ラルフの部屋は、リリーの部屋から一番離れた部屋でお願いね」
「俺は、リリーと一緒の部屋でもいいが?」
と、妖し気な笑みを浮かべるラルフ。
「それはダメです、ラルフ様。次期公爵様が、軽々しく、そんなことを言うなんて、冗談でも感心しません」
ロバートさんが、ぴしゃりと言った。
アイシャが満足そうに微笑む。
反対に、ラルフは、一気に不満そうに眉間にしわをよせた。
「…そうだった。ロバートは色々うるさかったっけ…。せっかくのチャンスが…」
ぶつぶつ言うラルフの顔は、ちょっと、子どもっぽい。
子どもの頃のラルフを思い出し、ニマニマしてしまう。
「…リリー。変な顔になってるが、どうした?」
ラルフがいぶかしげに聞いてきた。
「うん、子どもの頃のラルフを思い出してたの。ほら、中身とちがって、見た目だけは、天使みたいにかわいかったなあって…。フフフ」
ロバートさんがクスッと笑った。
「確かに。…あ、そう言えば、小さい頃、王太子のコンラートの誕生日会で事件があったわよねえ。その見た目詐欺のせいで」
と、アイシャ。
「なに、その事件? 聞いたことない! 教えて!」
私が前のめりで、アイシャに聞く。
「おい、だまれ! それを言うなら、アイシャだって似たようなもんだろ」
と、ラルフ。
「全然、違うわよ。わたしは、小さい頃から、口にだすことは考えてるもの。無用な敵はつくらないわ」
「…かわいくねえな」
ふてくされたラルフの口調が荒れてきた。
「それは違います、ラルフ様。アイシャ様は、とてもお可愛らしいですよ」
ロバートさんが、すかさず、訂正をいれる。
「…ぐっ。ロバートがアイシャにとりこまれてる」
ラルフが悔しそうに顔をゆがめた。
そんなやりとりを、アイシャは聞いてもいない。
「あの頃、リリーと私は、まだ知りあってなかったものね。ラルフとリリーは知りあってたのに、ラルフが教えないから。エルザおばさまのおかげで、リリーに出会えたから良かったけれど。ほんと、小さいころから、独占欲が強くて、心がせまいわよね」
そう言って、ラルフをひとにらみする。
もちろん、ラルフも氷のような目で、にらみかえす。
私は、あわてて、アイシャに先を促した。
「それで、その事件とは、なんだったの?」
「そう、あれは、私とラルフが8歳の頃。親戚だから、コンラートの誕生日会に王宮へ呼ばれたの。他の招待客は、コンラートの学園の同級生ばかりだったから、私たちより6歳年上だった。でも、令嬢たちは、主役のコンラートではなく、見かけ詐欺のラルフに集まってきたの。それこそ、すごいきれい、天使みたいとか言いながらね」
うん、その先の展開が想像がつくよね…。
「が、この男。近寄ってくる令嬢たちに、次々と暴言をはいていったの。令嬢たちは大泣きし、誕生会は中止になった。それ以来、ラルフはコンラートの誕生日会には呼ばれなくなったんだけどね」
「…ちなみに、どんなことを言ったの?」
おそるおそる聞く私に、アイシャが遠い目をして答えてくれた。
「確か、…天使なんかいるか、バカなのか? とか、気持ち悪いから勝手に近づくな、とか…。まあ、今でも成長してないから、近づく令嬢には似たようなこと言ってるけどね」
ああ、なるほどね…。思わず、うなずく私。
今でも、鋼のメンタルで、近づいてくる令嬢たちを、毒舌で、ばっさりと、きっていくもんね…。
「本当になぜ、その顔面を生かさないんだろ? 毒舌を少しひっこめたら、今頃、可憐なヒロイン相手に、極上の溺愛を私に見せてくれる、溺愛ヒーローとして、君臨できてたのに。もったいない。…あっ」
あわてて口をおさえたが、もう遅い。しっかりと、私の心の声がもれてしまっていた。
あわててラルフを見ると、あきれはてたような、冷え冷えとした目で私を見ている。
「ラルフ様も、前途多難というか…」
ロバートさんが、ぼそりとつぶやき、
「いいのよ、リリー。そのまま、そのまま」
アイシャは嬉しそうに微笑んだ。
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