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第二章

眠い

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ラルフとアイシャとジャンさんのやりとりを聞いているうちに、眠気がおそってきた。
昨日、眠ってないからね…。
目を一生懸命こじあけているけど、頭がガクンと落ちる。

はっとして、まわりを見ると、三人の視線が私に集中していた。
…恥ずかしすぎるんだけど?

ただ、頭が落ちただけで、眠ってないですよ、みたいな感じを、さりげなーく装う。

が、アイシャは、フフッと笑って、
「リリー、眠たいんでしょ。遠慮せずに眠っていいわよ。昨日、眠れてないんだものね?」
と、すばらしい品質の豪華なクッションを手渡してくれた。

「ありがと…」
クッションのあまりの触り心地の良さに抱きしめると、更に眠気が加速する。

頭にもやがかかったように、ぼんやりしてきた。

遠くのほうで、
「やっぱり、留学前だから興奮して眠れなかったの…?」
みたいに聞かれたけれど、それが、アイシャの声なのか、ジャンさんの声なのか…、眠すぎて、もうそれすら、よくわからない。

そして、目もあかなくなってきた…。
が、夢の中で、なんとか口だけを動かす。

「うーん…、というより、ラルフが…、ラルフが…変なんだもん…。お姫様だっこしたり、…手に、…キ…キス…したり…。ラルフ…、王子様みたい…。恥ずかしいし、…びっくり…して、…眠れなかった…」

そこまで言って、私は完全に意識が落ちた。


ふっと、体が揺れて目が覚める。

どうやら、クッションを抱えて眠ってたらしい。
体を起こした途端、

「よく眠れた? リリー」
と、アイシャが隣から声をかけてきた。

「うん…。私、すごく眠ってたよね?」

「1時間くらいかしらね。良かったわ、よく眠れて。だれかの自分勝手な欲望のせいで、リリーが眠れなかったなんて、許せないもの」
と、アイシャが、氷のような視線でラルフをにらむ。

えっ…? 私が眠っている間に、何か、ありましたか?!

「確かに、留学前日、しかも長旅の前に、純粋なリリーの気持ちを乱すようなことをするのは、自分勝手だよね?」
と、ジャンさんにしては厳しい口調でラルフを見ながら言う。

私のことを言っているのに、全く意味が見えない…。

私はおそるおそる聞いてみた。
「ええと、私の眠ってる間に何があったの…?」

「なんにもないわよ、リリー」
と、アイシャが即座に答えた。
顔には、美しい笑みを浮かべたまま、視線は、ラルフをにらんでいる。

「うん、リリーが気にすることは何もなかったよ」
と、ジャンさんも微笑んでくれた。が、すぐに、ラルフを咎めるように見た。

本当に意味がわからない…。
ということで、二人が厳しい視線を送るラルフに問いかける。

「ねえ、ラルフ。なにかした?」

すると、ラルフは凶暴な美しさで、私に微笑んできた。

ちょっと、ラルフ! その顔、危ないよ! 

「リリー、悪かったな。俺のことを考えて、眠れなかったんだろ」
そう言って、私に微笑みかけるラルフのエメラルド色の瞳が、すごい色気を醸し出している。

…ん? …ええええ?! なんで、私が眠れなかった理由が、ラルフのせいだって知ってるの?!

パニックになる私を、楽しそうに見つめるラルフ。

「眠りながら言ってたぞ。昨日の俺の行動で、眠れなかったって。俺のことで頭がいっぱいだったんだな」
と、ラルフは、嬉しそうに私をじっと見つめる。

冷たい美貌に甘さが加わり、近寄るのが危険なレベルだ。

…って、そんなこと考えてる場合じゃない! 私、なんてことを口走ってるの?!

しかも、ラルフ本人に聞かれるなんて! 
恥ずかしすぎて、消えてしまいたいんですが…。 
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