(第2章連載中)だれか溺愛見せてください。ちなみに、溺愛を見たいだけで、溺愛してもらいたいわけではありません。

水無月あん

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第一章

王太子様

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王太子様の前にでた私は、カーテンシーをして、
「ミラベル侯爵家のリリアンヌと申します。本日は、お招きいただきまして、ありがとうございます」
と、簡単にご挨拶をした。

「リリアンヌ嬢。顔をあげて」
そう言われて、顔をあげる。

間近で見た、王太子様は、親戚とはいえ、冴えわたる冷たい美貌のラルフやアイシャには似ていない。
整ったお顔ながら、おっとりとして、優しそうな顔つきをされていた。

「これは、これは…、噂以上の美しさだね。ラルフの気持ちもわかるよ」
と、ふわりと微笑んだ。

とたんに、ラルフから、ひんやりとした雰囲気が放たれる。
ちらりと見ると、野獣化した、ものすごい怖い目で、王太子様をにらんでる!

ちょっと、やめなさいよ! 王太子様だよ?!

思わず、隣のラルフのそでを、少しひっぱった。

王太子様は、そんな私を見て、クスッと笑うと、
「大丈夫だよ、リリアンヌ嬢。ラルフの殺気には慣れてるから」
と、言った。

「それより、今日は、無理言って、パーティーに来てもらって、悪かったね」

「あ、いえ…」
と、一応、答える。

すると、王太子様は、ここで声を落として、
「私が交渉に気をとられてしまって、付き添いの王女のことを、言葉がしゃべれるラルフにまるなげしてしまったんだ。王女がラルフを気に入ったのも、正直、都合がいいと軽く考えてしまって、結果的に、ラルフにもリリアンヌ嬢にも迷惑をかけることになってしまった。本当にすまなかった」
と、王太子様に謝られた。

王太子様に謝られたら、こっちが申し訳ない。

それに、私が、お願いされたのは、今日のパーティーだけだもんね。

「いえいえ、私は、そんな謝っていただかなくても、全然大丈夫です」
と、あわてて、言う。

すると、王太子様が、
「ほんと? 良かった! リリアンヌ嬢に嫌われたら、どうしようかと思ったよ」
そう言って、にこっと笑った。

ん? なんで? と、思ったら、

「リリアンヌ嬢のことは、母上からも聞いている。好きな本で仲良くなったんだって?」

「王妃様には、とても良くしていただきましたが、仲良くだなんて、恐れ多いです!」
と、私が言うと、

「母上はリリアンヌ嬢がすごく気に入ったみたいでね。王太子妃に欲しいわね、なんて言ってたんだよ。
それなのに、リリアンヌ嬢に嫌われたなんて言ったら、叱られるところだよ」
と、甘やかに、私に微笑みかけてきた。

王妃様! この、貴族社会から浮きまくっている、本好きオタクに、冗談でも、なんて恐ろしいことを!!

私がおののいている様子に、王太子様は、おもしろそうに、フフフッと微笑んだ。

そのとたん、
「却下。コンラートは絶対ダメ」
と、冷たい声で、言い放ったのは、アイシャだ。

「当たり前だろ。そんなこと、させるか」
と、ラルフも、冷え冷えとした声で、追い打ちをかける。

「怖い番犬が二人もいると、大変だね。リリアンヌ嬢?」
と、涼しい顔で微笑む王太子様。

ちょっと、今、なんて?! 現在、冷気を放っているこの二人に向かって、番犬って?!
王太子様、なんて、こと言うの?! 

怖いものしらず、というか、図太いというか…!

案の定、アイシャから、
「反省してるかと思ったら、余裕ね? コンラート。もし、今日、あの王女がリリーに何かしでかしたら、あの王女はもちろん、コンラートも復讐のターゲットにいれるから。覚悟しときなさい」
と、冷たく言った。

もう、悪役令嬢としては、かっこよすぎるセリフだけど、…それを、王太子様に言う、アイシャ?

「そうだな。俺も、何するかわからないな。せっかく上手くいった交渉もめちゃくちゃになるかもな。俺にとったら、国の利益より、リリーだからな」
と、ラルフが、野性味あふれる眼差しで、王太子様をにらむ。

いやいや、ラルフ、そのセリフ、どう考えても、おかしいでしょ! 
なに、変なこと言ってるの?!

とにかく、二人とも落ち着いて!
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