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第一章

集中しよう

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「王太子の命だろうが、何が何でも、エスコートだけは絶対に断る」
と、ラルフが、底冷えするような声で言った。

「ラルフにできるの? 私が王妃様に進言してあげましょうか?」
と、エルザおばさま。

その言い方が、なんとなく、ラルフを挑発しているような感じもするんだけど…。

と思ったら、案の定、ラルフの切れ長の目が、更に、きれっきれになった。
鋭すぎて、怖い…。

「余計なお世話だ。俺がしっかり断る。…何が王太子だ。コンラートのやろう、なめやがって…」

公爵令息というよりは、輩みたいな口ぶりで、どんどん、ガラが悪くなってるんだけど…。

が、そんなラルフを見て、エルザおばさまはクスっと笑った。
「じゃあ、お手並み拝見ね。王族に、いいように使われないようにするのも、次期公爵としては必要だものね。好きにやってみなさい。私は何もしないから」

「ああ、望むところだ。やってやる」
と、闘志を燃やす姿は、またもや、ラルフではなくウルフがでてきてしまってる。

まあ、がんばって…。
ということで、私はそろそろ失礼しようかな。

「では、私はそろそろ帰りますね…」
と、席を立つと、

「待て」
ウルフモードのラルフに呼び止められた。

「なにか、ご用かな?」
と、少しおびえつつ聞いてみる。

「座れ」
と、椅子を手で示される。

逆らえない雰囲気だよね?

とりあえず、座ってみる。

「じゃあ、留学先のことについて、じっくりと聞かせてもらおうか。俺に相談もなく、勝手に決めたんだ。さぞかし、安心安全で完璧な計画なんだよな? ぬかりはないよな?」

へ? 

「…まあ、アイシャが手配してくれたから、ぬかりはないと思うよ?」

「あ?!」

ひえっ、何をお怒りかな?!

「リリーが留学するんだろ。自分できちんと把握してないと、どこに危険があるかわからないだろ。ほら、わかることを全部言ってみろ。俺が検証する」

過保護モードが全開になっている。

「…そんなことより、ラルフは自分のことを心配したほうがいいんじゃない?」

「なんだと?」
と、ラルフが冷え冷えとした声を出す。

が、エルザおばさまが、フフッと笑って言った。
「リリーの言う通りよね。ラルフは、自分の心配をしなさいな。色々ぬけてたから、こんなことになってるんだから。その点、アイシャは、ぬかりはないわよ。攻め時も完璧だったわ。さすがアイシャよね」

ん? …攻め時?

ラルフが、悔しそうに、
「アイシャのやつ、俺の隙をつきやがって…」
と、ぶつぶつと悪態をついている。

結局、今、わかってる留学先のことを色々と、全部、ラルフに話して、やっと帰れることになった。

帰り際、ラルフが、まっすぐに私を見て言った。
「王女のエスコートは絶対に断る。俺は、リリー以外のエスコートはしない」

思わず、ドキッとした。でも、なんて答えていいのかわからない。

「そうなんだ…」
と、答えたものの、ぼんやりしたまま、気がついた時には、自分の家の馬車に乗っていた。

一体、どういう意味なんだろう…。

よほど、王女のエスコートが嫌なのかな。
それとも、勝手に決められたことに、腹が立ってるのかな。

うん、後者かも。
ということで、ひとまず、この件については、思考をとめることにした。

今は、ロジャン国へ留学することに集中しないとね!
だって、あと、4日しかないもの。

そして、その4日後が、そのラルフがエスコートを頼まれているパーティーか…。
…って、ダメダメ。また、思考が戻ってた。

とにかく、日にちがないから、集中しよう! 忘れ物がないように、きちんと準備しないとね!
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