上 下
38 / 108
第一章

やっぱり、すごい

しおりを挟む
「どう、王宮の図書室は? あまり、リリーの興味のある本はおいてないでしょ?」
アイシャが聞いてきた。

「物語の本のところに、まだたどり着いてないからわからないけど、でも、すごい図書室で、びっくりしたよ! 素敵なつくりだね」
と、私が答える。

すると、アイシャが、
「あのね、私が留学してるロジャン国の王宮の図書室は、ここの10倍くらいはあるのよ? しかも、許可をとれば、一般の人も入れるし、借りることもできるの。リリーを連れて行きたいなあ」
目を輝かせて言った。

「いいな。行ってみたい…」

「ほんと?!」

「うん。だって、ロジャン国は、他にも大きな図書館や、大きな本屋さんとかもあるんだよね? 住みやすそうだよね」
想像をめぐらしている私を見て、アイシャが満面の笑みをうかべた。

「どうする? 物語本が置いてあるところに行く?」
と、アイシャが言った。

私は、首を横にふった。
「ううん、もういいよ。雰囲気は十分堪能したし、今日は集中して読めない感じかも。なんか、見慣れない景色に圧倒されっちゃったみたい」
私がそう言うと、意味ありげに、アイシャが私を見た。

「リリーが本を集中して読めないなんて、珍しいわね。ま、物語の本は、少ししか置いてないから、あんまりおもしろくはないかも。じゃあ、このあと、うちに来ない? ロジャン国の本やら、写真を見せたいなあと思って」
と、アイシャが言った。

「行く! なんか、今、やたらとロジャン国に興味がわいてきたから行く!」

そこへ、
「リリー!」
と、私を呼ぶ声。ラルフが走ってやってきた。

「あら、ラルフいたの? 王女のお守りはどうしたのかしら?」
と、アイシャがいきなり言った。

ラルフの目が一気に鋭くなる。
「変な言い方するな。言葉を少し教えてるだけだろ」

アイシャが、目を細めて
「へえ、そうなの? 王女がラルフじゃないと嫌だってごねるから、ラルフがつきっきりだって、王宮じゃ噂になってるけど?」

「つきっきりなんだ」
私がぼそっとつぶやくと、ラルフが目を見開いた。

「そんなわけないだろ!」
ラルフが、アイシャをにらみつける。

「はたからはそう見えてるのよ。ラルフ、あなた、なにしてるの?」
と、アイシャが真顔でにらみ返した。

その時、
「ラルフー!」
と、声が響いた。

ロイさんと一緒に階段から降り立った王女様が、こっちを見て、ラルフを呼んでいる。

「やっぱり、一緒じゃない! ほら、呼ばれてるわよ。ほんと、こっちが招待したわけでもないのに、勝手に押しかけてきて、王宮に滞在して、ラルフに言葉を習ってる? いいご身分よね? 自国が大変で、交流のないこの国に無理やり交渉にこざるおえない状況なのに、遊びにきたのかしら?」

「言いすぎだぞ」
と、ラルフ。

アイシャは、
「私、ラルフを買いかぶってたみたいね。王族は、国が大変なとき、国民のために動くものでしょ? 非常時に、あの王女、なにしてるの? ラルフに言葉を習うひまがあったら、国民のために動け、でしょ。そして、それを助長させている、王太子、ロイ、そして、ラルフに私は失望してるの。甘いわよ」
と、アイシャが一息に言いきった。

そうだよね…。アイシャは、ロジャン国の王子に嫁ぐため、厳しいお妃教育を受けてるもんね。

ラルフは、アイシャに何も言い返せず、眉間にしわをよせている。

そんなラルフに、アイシャは、きれいな笑みを浮かべて言った。
「まあ、ラルフのおかげで、私にとっては、望み通りに転びそうでいいけど? じゃ、リリーは私が連れて行くから、ラルフは、どうぞ王女と仲良くねー。行きましょ、リリー」

ラルフは私を見た。が、私は、すぐに目をそらした。
今は、ここにいたくない…。

私は、アイシャと一緒に歩き出した。

それから、護衛騎士さんに先導され、王宮の外へでると、アイシャの家の馬車が待っていた。

馬車に乗せてもらった途端、
「リリー、大丈夫? 無理してたんでしょ?」
と、アイシャが声をかけてきた。

「え? なんで?」

驚いている私に、アイシャは、優しく微笑んだ。

「あのね。リリーと何年のつきあいだと思ってるの? 図書室で会った瞬間、様子がおかしいのは、わかってたわ。私には、泣きそうな顔をしてるように見えたわ」

はあーっと私はため息をついた。

「アイシャは、やっぱりすごいな…。私は、自分のことさえよくわからないのに…。そう、今日、なんか、アイシャの顔をみた瞬間、ほっとして泣きそうになったの」

アイシャは、穏やかにうなずいた。

私は、今日、見たこと、おこったこと、そして、思ったことを、ぽつぽつと話しはじめた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛すべきマリア

志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。 学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。 家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。 早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。 頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。 その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。 体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。 しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。 他サイトでも掲載しています。 表紙は写真ACより転載しました。

転生したら、最推しキャラの弟に執着された件。 〜猫憑き!?氷の騎士が離してくれません〜

椎名さえら
恋愛
私はその日、途方に暮れていた。 なにしろ生家であるサットン侯爵家が没落し、 子供の頃からの婚約者に婚約破棄されたのだ。 だが同時に唐突に気づいた。 ここはかつて読んでいた某ライトノベルの世界だと! しかもガスはあるし、水道も通ってるし、醤油が存在する まさかのチートすぎる世界だった。 転生令嬢が、氷の騎士(最推しキャラの、弟!)と 呼ばれる男のリハビリを精一杯して ヒロインのもとへ返してあげようとしたら、 ヒーローの秘密(キーは猫)を知った上、 気づいたら執着からの溺愛されて逃げられなくなる話。 ※完結投稿です ※他サイトさんでも連載しています ※初日のみ頻回更新、のち朝6時&18時更新です ※6/25 「23 決戦は明後日」の内容が重複しておりましたので修正しました  すみません(/_;)

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【完結】 悪役令嬢は『壁』になりたい

tea
恋愛
愛読していた小説の推しが死んだ事にショックを受けていたら、おそらくなんやかんやあって、その小説で推しを殺した悪役令嬢に転生しました。 本来悪役令嬢が恋してヒロインに横恋慕していたヒーローである王太子には興味ないので、壁として推しを殺さぬよう陰から愛でたいと思っていたのですが……。 人を傷つける事に臆病で、『壁になりたい』と引いてしまう主人公と、彼女に助けられたことで強くなり主人公と共に生きたいと願う推しのお話☆ 本編ヒロイン視点は全8話でサクッと終わるハッピーエンド+番外編 第三章のイライアス編には、 『愛が重め故断罪された無罪の悪役令嬢は、助けてくれた元騎士の貧乏子爵様に勝手に楽しく尽くします』 のキャラクター、リュシアンも出てきます☆

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

処理中です...