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第一章

対面

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近くで見る王女様は、背が高く、華やかで美しい方だった。

燃えるように赤く、腰のあたりまである、まっすぐな髪。

そして、なにより目をひくのは、その瞳だ。
大きくて、少し上にあがった芯の強そうな目に、緑色の瞳が輝いている。

私には、ラルフのエメラルド色の瞳と、まるでおそろいのように思えた。

王女様は、にこやかに笑って、
「ラルフ!」
と、声をかけた。

明るい喜びをふくんだ声。その声を聞いただけで、王女様がラルフに親しみを感じているのが手に取るようにわかる。

そして、その後、何かを言ったが、知らない言葉なので、私にはわからない。

ラルフが、耳慣れない言葉で、返事をした。

ロイさんが、私の隣によってきて、
「ルーシェ王女がね、リリーちゃんが誰なのかって聞いたんだ。それで、ラルフが、幼馴染だって答えたんだよ」
と、通訳してくれた。

私は、その場で、カーテンシーをして、
「初めまして、王女様。リリアンヌ・ミラベルと申します。どうぞよろしくお願いいたします」
と、簡単にご挨拶をした。

他国の王族の方にお会いするのは初めてだけど、こんな感じで大丈夫なのかな?
よくわからないので、不安なんだけど…。

王女様は微笑んで、
「わたしは、ルーシェといいます。グランコクのダイサンオウジョです。ヨロシク」
と、この国の言葉で挨拶をしてくれた。

話せないと聞いてたけど、きれいに発音されている。

思わず、
「この国の言葉、とてもお上手ですね」
と、私が言うと、王女様は、私の言葉がわからなかったようで、首をかしげた。

ラルフが通訳すると、パッと笑って何かを言った。
「ラルフ」
という言葉しか、私には聞き取れない。
でも、王女様は、会話の中で、ラルフの名前を何度も言っているので、ラルフのことを言っているんだろうな、とは想像がつく。

ラルフを見た。
が、自分のことを言われて訳しにくいのか、少し気まずそうな顔をして、私から目をそらした。

なので、ロイさんが、かわりに訳してくれた。

「ラルフに教えてもらったんだって。ラルフの教え方がいいからだって。ラルフはやさしいんだって。ラルフ、ラルフ、ラルフって、すごいね。王女様、ラルフがよほど気に入ったんだね。どう思う、リリーちゃん?」
と、楽しそうに目を光らせながら、私に小声で言った。

王女様は笑いながら、ラルフに何か話しかけている。
ラルフもポツポツと答えている。

と、その時、ラルフが王女様のことを
「ルーシェ」と呼んだ。

そこだけ、はっきりと耳に入ってきた。

あ、ダメだ、私。
体の奥がズキズキして、二人を見てられない。

うん、さっさと失礼しよう。

ふと下を見れば、あれは、アイシャー!!

図書室に入ってきて、私を探しているのか、きょろきょろと見回している。
なんか、ほっとして、泣きそうになった。

とにかく、この場から、即刻、はなれたい。

ということで、手に持っていた本を、もとの位置にさっと戻し、靴がきちんと履けているか、そっと床にうちつけて確認した。よし、準備OKだ。

私は、誰の目も見ず、
「では、アイシャが私を探しているようですので、お先に失礼しますね。みなさま、ごゆっくり」
と、一息に言う。

そして、だれかが何か言う前に、素早く、王女様に頭を下げて、横をすりぬけ、全力で階段をおりはじめた。

「リリー!」
と、ラルフの声がしたが、とまらない。とまりたくない!

失礼だろうが、しょうがない。
貴族令嬢としても、図書館のマナーとしても、全力で走って階段をおりるなんてアウトだけど、でも、あの場にいたくなかった。

二人を見ていたくなかった。

親離れができてないのか、兄離れができてないのか、意味はわからないけれど、自分が自分じゃなくなっていくみたいで怖いから。

ほんと、せっかく王宮の図書室に来てるのに、私、どうしたんだろう。

一気に階段をかけおりると、息も乱れたまま、
「アイシャー!」
と、呼んだ。

アイシャが微笑んで、手をふってこたえてくれる。

親友の顔を見て、ズキズキがとまった。
ああ、良かった。これで、元の私にもどれるんだ。
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