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第一章
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「えっと、ラルフ、走ってあがってきたの?」
と、思ってたことと違う言葉がでてきた。
「ああ。…リリーが見えたから」
あ、見えてたんだ。つい、隠れちゃったけどね。
「すごいね。この階段を一気に上がってくるなんて。結構距離あるよね」
と、どうでもいいことを返してしまう。
「…ああ」
ラルフは、簡単に相槌をうち、息を整えている。
「私、今日はアイシャに連れてきてもらったんだ」
「さっき、ロイに聞いた」
「ふーん…」
なんだろう。今日は、ラルフとあまり会話がはずまない。
といっても、ラルフはいつもと同じだから、普段、私が、どれだけ、べらべらしゃべってるかがよくわかる。
間があくわ…。
だから、やっぱり聞いてみることにした。
「ええと、お連れの方はどうしたの?」
うん、我ながら、変な聞き方だ…。
すると、ラルフは、ちょっと目を見開いて、私を見た。
「ああ、見たのか。連れではないけどな」
と、丁寧に訂正してきた。
でも、仲良さそうだったよ。…って、思わず言いそうになって、もやっとした。
が、ラルフは私の様子を気にするでもなく、普段通りに
「今、ロイと一緒にいる」
と、端的に答えた。
「そっか。いかなくていいの?」
「今、資料室で何か見てるから」
「ふーん」
なんだろう、このもやもやっとする感じ。
…あっ、そうか、わかった!
これは、物語でよくある、お兄ちゃんをとられる妹の心境なんだ。
なるほど。腑に落ちた。
心の狭い妹でごめん、ラルフ!
内心謝り、にっこり笑いかけた。
私の顔をじっと見ていたラルフが、
「リリー、どうした? さっきから、なに、百面相してるんだ?」
あわてて顔をおさえる。
「ううん、なんでもない。自分のふがいなさを反省してたの」
「なんかあったのか?」
ラルフが心配そうに聞いてきた。
「ううん。多分、あこがれの図書室で緊張してたみたい」
そう言って、へらりと笑った。
ラルフが、探るような目で私を見ている。
すると、下からロイさんが手をふっている。お隣に王女様。
「あ、ロイさんが呼んでるよ。いったほうがいいんじゃない?」
私がそう言うと、ラルフは、眉間にしわを寄せ、ロイさんを見下ろした。
ロイさんが両手をあわせるジェスチャーをして、ラルフにお願いしている。
「やっぱり、王女様が呼んでるんだね。ほら、行った行った」
「リリーは降りないのか。物語のあるエリアは1階のフロアだけど」
ええ?! そうなの? 道理でないと思ったわ。
じゃあ、そこに行こうかなと思ったのに、
「うん、もうちょっと、ここらへん見ていくわ。せっかくだし」
と、口からでた。
もう、本当、私、どうしたんだろ?
自分がコントロールできない! もやもやする!
八つ当たりだけど、その原因らしきラルフと一緒にいたくないと思ってしまう。
あ、これは、もしや、反抗期?!
私、ラルフのこと、兄でもなく親と思ってたのかな?!
そういや、反抗期なかったもんね、私…。
と、思ったものの、これまた自分の口がコントロールできず、
「じゃあね」
私は、ラルフにそう言って、背をむけた。
本棚の方に歩いていく。
全く興味がない建築の本が目の前に並んでいるエリアだ。
適当に手にとってめくる。
とりあえず、心を正常に戻そう。本があれば、大丈夫。
静かに、ページをめくりはじめたら、
「なあ、リリー」
いきなり耳元で声がした。
「ぎゃっ!」
と、飛び上がって、声の方を見た。エメラルド色の瞳が至近距離にある。
「びっくりした! ラルフ、まだいたの?!」
ラルフは、それには答えず、私の目を真剣なまなざしで射抜く。
いつもはきれいで見とれてしまうエメラルド色の瞳。
なのに、今日はまともに見れない。思わず、横をむいた。
すると、ラルフが、両手で私の頭をおさえて、逃げられないように自分の方にぐいっと向けた。
そして、言った。
「なあ、リリー。俺、なにかしたか?」
なにもしてない。私がおかしいだけ。
私は、首を横にふった。
「じゃあ、なんで、俺の目を見ない? 避けてんだろ?」
うっ…。だって、自分でもよくわからないんだもん。
だから、説明できない。
私は、また、首を横にふった。
「リリー。言いたいことがあったら、言ってくれ」
「…ない!」
やっと、でた言葉。しかも、怒ってるみたいな声になってしまった。
ラルフのエメラルド色の瞳が揺れた。
「どうしたんだ、リリー?」
ラルフがそう聞くけど、自分も聞きたいわ。
どうしたのよ、私? ってね!
と、その時、
「あっ、お取込み中だった? お邪魔して、ごめんねー」
と、声が聞こえてきた。
ロイさんだ。
「はああー、つかれた! ラルフが降りてこなさそうだから、急いでのぼってきたよー」
と、のんきな声。
ロイさんが来たことに、一瞬安堵した私。
でも、その後ろに王女様がいるのを見て、私の思考は完全にストップした。
と、思ってたことと違う言葉がでてきた。
「ああ。…リリーが見えたから」
あ、見えてたんだ。つい、隠れちゃったけどね。
「すごいね。この階段を一気に上がってくるなんて。結構距離あるよね」
と、どうでもいいことを返してしまう。
「…ああ」
ラルフは、簡単に相槌をうち、息を整えている。
「私、今日はアイシャに連れてきてもらったんだ」
「さっき、ロイに聞いた」
「ふーん…」
なんだろう。今日は、ラルフとあまり会話がはずまない。
といっても、ラルフはいつもと同じだから、普段、私が、どれだけ、べらべらしゃべってるかがよくわかる。
間があくわ…。
だから、やっぱり聞いてみることにした。
「ええと、お連れの方はどうしたの?」
うん、我ながら、変な聞き方だ…。
すると、ラルフは、ちょっと目を見開いて、私を見た。
「ああ、見たのか。連れではないけどな」
と、丁寧に訂正してきた。
でも、仲良さそうだったよ。…って、思わず言いそうになって、もやっとした。
が、ラルフは私の様子を気にするでもなく、普段通りに
「今、ロイと一緒にいる」
と、端的に答えた。
「そっか。いかなくていいの?」
「今、資料室で何か見てるから」
「ふーん」
なんだろう、このもやもやっとする感じ。
…あっ、そうか、わかった!
これは、物語でよくある、お兄ちゃんをとられる妹の心境なんだ。
なるほど。腑に落ちた。
心の狭い妹でごめん、ラルフ!
内心謝り、にっこり笑いかけた。
私の顔をじっと見ていたラルフが、
「リリー、どうした? さっきから、なに、百面相してるんだ?」
あわてて顔をおさえる。
「ううん、なんでもない。自分のふがいなさを反省してたの」
「なんかあったのか?」
ラルフが心配そうに聞いてきた。
「ううん。多分、あこがれの図書室で緊張してたみたい」
そう言って、へらりと笑った。
ラルフが、探るような目で私を見ている。
すると、下からロイさんが手をふっている。お隣に王女様。
「あ、ロイさんが呼んでるよ。いったほうがいいんじゃない?」
私がそう言うと、ラルフは、眉間にしわを寄せ、ロイさんを見下ろした。
ロイさんが両手をあわせるジェスチャーをして、ラルフにお願いしている。
「やっぱり、王女様が呼んでるんだね。ほら、行った行った」
「リリーは降りないのか。物語のあるエリアは1階のフロアだけど」
ええ?! そうなの? 道理でないと思ったわ。
じゃあ、そこに行こうかなと思ったのに、
「うん、もうちょっと、ここらへん見ていくわ。せっかくだし」
と、口からでた。
もう、本当、私、どうしたんだろ?
自分がコントロールできない! もやもやする!
八つ当たりだけど、その原因らしきラルフと一緒にいたくないと思ってしまう。
あ、これは、もしや、反抗期?!
私、ラルフのこと、兄でもなく親と思ってたのかな?!
そういや、反抗期なかったもんね、私…。
と、思ったものの、これまた自分の口がコントロールできず、
「じゃあね」
私は、ラルフにそう言って、背をむけた。
本棚の方に歩いていく。
全く興味がない建築の本が目の前に並んでいるエリアだ。
適当に手にとってめくる。
とりあえず、心を正常に戻そう。本があれば、大丈夫。
静かに、ページをめくりはじめたら、
「なあ、リリー」
いきなり耳元で声がした。
「ぎゃっ!」
と、飛び上がって、声の方を見た。エメラルド色の瞳が至近距離にある。
「びっくりした! ラルフ、まだいたの?!」
ラルフは、それには答えず、私の目を真剣なまなざしで射抜く。
いつもはきれいで見とれてしまうエメラルド色の瞳。
なのに、今日はまともに見れない。思わず、横をむいた。
すると、ラルフが、両手で私の頭をおさえて、逃げられないように自分の方にぐいっと向けた。
そして、言った。
「なあ、リリー。俺、なにかしたか?」
なにもしてない。私がおかしいだけ。
私は、首を横にふった。
「じゃあ、なんで、俺の目を見ない? 避けてんだろ?」
うっ…。だって、自分でもよくわからないんだもん。
だから、説明できない。
私は、また、首を横にふった。
「リリー。言いたいことがあったら、言ってくれ」
「…ない!」
やっと、でた言葉。しかも、怒ってるみたいな声になってしまった。
ラルフのエメラルド色の瞳が揺れた。
「どうしたんだ、リリー?」
ラルフがそう聞くけど、自分も聞きたいわ。
どうしたのよ、私? ってね!
と、その時、
「あっ、お取込み中だった? お邪魔して、ごめんねー」
と、声が聞こえてきた。
ロイさんだ。
「はああー、つかれた! ラルフが降りてこなさそうだから、急いでのぼってきたよー」
と、のんきな声。
ロイさんが来たことに、一瞬安堵した私。
でも、その後ろに王女様がいるのを見て、私の思考は完全にストップした。
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