(第2章連載中)だれか溺愛見せてください。ちなみに、溺愛を見たいだけで、溺愛してもらいたいわけではありません。

水無月あん

文字の大きさ
上 下
29 / 108
第一章

わくわくがとまらない

しおりを挟む
ルシアンのパウンドケーキがききすぎたのか、ラルフが、挙動不審なまま固まっている。

「どうしたの?」

私が近寄ると、びくっとする。ちょっと耳も赤い。

「こじらせすぎてるわね…。リリー、放っておいていいわよ。自然と解凍されるでしょ。それに、静かでいいじゃない。…フフフ」
と、アイシャが微笑んだ。

冷凍食品扱いのラルフ…。
普段だったら、こんなこと言われたら、すぐにアイシャと言い合いになるのに、反応がない。
脳に栄養がいきすぎたかな? ま、いいか…。

ということで、その間に、ジャンさんの本も貸してもらい、本仲間たち(仮メンバーのぞく)で楽しく本談義をして、お茶の時間はお開きになった。

やっと、解凍されたラルフが、
「もう、帰るのか?」
と、驚いている。

「うん、ルシアンのパウンドケーキも十分にいただいたし、今日は帰るねー」
と、私が言うと、ラルフの頬が赤くそまった。

「どうしたの? 顔、赤いよ?」
近づいて、のぞきこむ。

「こら、見るなっ! …ほら、さっさと帰れ」
ラルフはそう言って、あわてて横を向いた。

まったく、失礼だな。帰りますよ! おなかもいっぱいになったしね!

ということで、エルザおばさまにお礼を言って、ジャンさんともそこでわかれ、アイシャの馬車で家まで送ってもらうことになった。

馬車の中、アイシャが、私に言った。
「明日なんだけど、リリー、時間ない? 実は、私、叔母様に王宮へ呼ばれてるの。留学の報告を聞きたいんだって。でね、リリー、王宮の図書室に興味あったでしょ? 時間があれば、一緒にいかない?」

「えええ?! 王宮の図書室?! 行ってみたいっ!」
すごい大声になってしまったが、仕方ない。

だって、王宮の図書室といえば、珍しい本がたんまりあるという噂だもんね。
本好きとしては、一度見てみたいと、ずーっと思ってた。

「でも、私も行っていいの?」
と、冷静になって聞くと、アイシャは笑ってうなずいた。

「実は、パーティーの時にね、叔母さまに王宮へ報告へ来なさいって言われた時、リリーの図書室見学の許可もとったの。一緒に行こうと思って」

「…」

ちょっと、思考がとまる。

そして、
「王妃様直々に?! なんか、恐れ多いんですけど?!」
またもや、大声をだしてしまった。

アイシャは、驚く私を、嬉しそうに見ながら、
「大丈夫よ。リリーのことは、叔母さまも知ってるから。すぐに許可をだしてくれたわよ」

「えっ?! 王妃様って、私のこと、ご存じなんだ?!」
驚くことばっかり。

「あたりまえでしょ」

「いやいや、お話したこともない貴族令嬢を覚えておられるなんて、ほんと、王妃様ってすごいねー」

「あのね、リリーは由緒あるミラベル侯爵家の御令嬢なのよ。王妃なら知ってて当然」

「ええ、そうなの?! 私は王妃には絶対なれないわー。本の登場人物なら覚えられるんだけどね」
と、私がそう言うと、アイシャが、きりりと私の方をむいた。

「大丈夫よ。リリーを絶対王妃になんてさせないから。安心して」
と、真剣なまなざしで言いきられた。

ん? いやいや、させないというより、なれないから。
そんな真剣に返されるとびっくりするわ。
どうしたのかな、アイシャ?

そして、立派な馬車は、我が家に到着。
アイシャにお礼を言って、家に入る。足取りが自然とスキップになってしまうのは仕方がない。
だって、明日のことを思うと、わくわくがとまらないもんね!



しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

〖完結〗幼馴染みの王女様の方が大切な婚約者は要らない。愛してる? もう興味ありません。

藍川みいな
恋愛
婚約者のカイン様は、婚約者の私よりも幼馴染みのクリスティ王女殿下ばかりを優先する。 何度も約束を破られ、彼と過ごせる時間は全くなかった。約束を破る理由はいつだって、「クリスティが……」だ。 同じ学園に通っているのに、私はまるで他人のよう。毎日毎日、二人の仲のいい姿を見せられ、苦しんでいることさえ彼は気付かない。 もうやめる。 カイン様との婚約は解消する。 でもなぜか、別れを告げたのに彼が付きまとってくる。 愛してる? 私はもう、あなたに興味はありません! 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 沢山の感想ありがとうございます。返信出来ず、申し訳ありません。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

嘘をありがとう

七辻ゆゆ
恋愛
「まあ、なんて図々しいのでしょう」 おっとりとしていたはずの妻は、辛辣に言った。 「要するにあなた、貴族でいるために政略結婚はする。けれど女とは別れられない、ということですのね?」 妻は言う。女と別れなくてもいい、仕事と嘘をついて会いに行ってもいい。けれど。 「必ず私のところに帰ってきて、子どもをつくり、よい夫、よい父として振る舞いなさい。神に嘘をついたのだから、覚悟を決めて、その嘘を突き通しなさいませ」

【完結】今世も裏切られるのはごめんなので、最愛のあなたはもう要らない

曽根原ツタ
恋愛
隣国との戦時中に国王が病死し、王位継承権を持つ男子がひとりもいなかったため、若い王女エトワールは女王となった。だが── 「俺は彼女を愛している。彼女は俺の子を身篭った」 戦場から帰還した愛する夫の隣には、別の女性が立っていた。さらに彼は、王座を奪うために女王暗殺を企てる。 そして。夫に剣で胸を貫かれて死んだエトワールが次に目が覚めたとき、彼と出会った日に戻っていて……? ──二度目の人生、私を裏切ったあなたを絶対に愛しません。 ★小説家になろうさまでも公開中

婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい

恋愛
婚約者には初恋の人がいる。 王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。 待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。 婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。 従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。 ※なろうさんにも公開しています。 ※短編→長編に変更しました(2023.7.19)

処理中です...