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第一章

わくわくがとまらない

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ルシアンのパウンドケーキがききすぎたのか、ラルフが、挙動不審なまま固まっている。

「どうしたの?」

私が近寄ると、びくっとする。ちょっと耳も赤い。

「こじらせすぎてるわね…。リリー、放っておいていいわよ。自然と解凍されるでしょ。それに、静かでいいじゃない。…フフフ」
と、アイシャが微笑んだ。

冷凍食品扱いのラルフ…。
普段だったら、こんなこと言われたら、すぐにアイシャと言い合いになるのに、反応がない。
脳に栄養がいきすぎたかな? ま、いいか…。

ということで、その間に、ジャンさんの本も貸してもらい、本仲間たち(仮メンバーのぞく)で楽しく本談義をして、お茶の時間はお開きになった。

やっと、解凍されたラルフが、
「もう、帰るのか?」
と、驚いている。

「うん、ルシアンのパウンドケーキも十分にいただいたし、今日は帰るねー」
と、私が言うと、ラルフの頬が赤くそまった。

「どうしたの? 顔、赤いよ?」
近づいて、のぞきこむ。

「こら、見るなっ! …ほら、さっさと帰れ」
ラルフはそう言って、あわてて横を向いた。

まったく、失礼だな。帰りますよ! おなかもいっぱいになったしね!

ということで、エルザおばさまにお礼を言って、ジャンさんともそこでわかれ、アイシャの馬車で家まで送ってもらうことになった。

馬車の中、アイシャが、私に言った。
「明日なんだけど、リリー、時間ない? 実は、私、叔母様に王宮へ呼ばれてるの。留学の報告を聞きたいんだって。でね、リリー、王宮の図書室に興味あったでしょ? 時間があれば、一緒にいかない?」

「えええ?! 王宮の図書室?! 行ってみたいっ!」
すごい大声になってしまったが、仕方ない。

だって、王宮の図書室といえば、珍しい本がたんまりあるという噂だもんね。
本好きとしては、一度見てみたいと、ずーっと思ってた。

「でも、私も行っていいの?」
と、冷静になって聞くと、アイシャは笑ってうなずいた。

「実は、パーティーの時にね、叔母さまに王宮へ報告へ来なさいって言われた時、リリーの図書室見学の許可もとったの。一緒に行こうと思って」

「…」

ちょっと、思考がとまる。

そして、
「王妃様直々に?! なんか、恐れ多いんですけど?!」
またもや、大声をだしてしまった。

アイシャは、驚く私を、嬉しそうに見ながら、
「大丈夫よ。リリーのことは、叔母さまも知ってるから。すぐに許可をだしてくれたわよ」

「えっ?! 王妃様って、私のこと、ご存じなんだ?!」
驚くことばっかり。

「あたりまえでしょ」

「いやいや、お話したこともない貴族令嬢を覚えておられるなんて、ほんと、王妃様ってすごいねー」

「あのね、リリーは由緒あるミラベル侯爵家の御令嬢なのよ。王妃なら知ってて当然」

「ええ、そうなの?! 私は王妃には絶対なれないわー。本の登場人物なら覚えられるんだけどね」
と、私がそう言うと、アイシャが、きりりと私の方をむいた。

「大丈夫よ。リリーを絶対王妃になんてさせないから。安心して」
と、真剣なまなざしで言いきられた。

ん? いやいや、させないというより、なれないから。
そんな真剣に返されるとびっくりするわ。
どうしたのかな、アイシャ?

そして、立派な馬車は、我が家に到着。
アイシャにお礼を言って、家に入る。足取りが自然とスキップになってしまうのは仕方がない。
だって、明日のことを思うと、わくわくがとまらないもんね!



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