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第一章
失礼でしょ
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「じゃあ、ラルフにはこれがいいんじゃない? ちょうどリリーちゃんに返そうと思ってもってきたの」
エルザおばさまが、テーブルに紙袋を置いた。
あ、前回、私が貸した本ね。
「どうでした?」
私が聞くと、エルザおばさまは、両手をにぎりしめて、夢見る表情になった。
「もう、すごーく良かった! ときめきまくりよ! 今まで一番好きなタイプのヒーローだわ」
確かに、これなら、糖分過剰なほどの溺愛ものだ。
フッフッフ。読めるもんなら、読んでみるがいい。ラルフよ!
「では、これを、ラルフに読んでもらいましょう」
「わかった。すぐ読んでやるよ」
と、どこまでも挑戦的なラルフ。
「いやいや、早さは競わなくていいので、最後まで味わって読んでね? そして、お待たせしました。ジャンさんには、これを持ってきました」
そう言って、バッグから紙袋に入った本を、テーブルに出す。
「これ、私の今一番のおすすめ。最後は感動もするし、ジャンさんにいいかと思って」
「嬉しいよ! 早速、読んでみるね」
と、ジャンさん。
「ちなみに、ここにでてくるヒーロー。ヒロインへの溺愛が素敵すぎて、私の好みで、ズキュンときました! もう、憧れちゃって」
「へえ、リリーの好みは気になるな。しっかり読み込んでみる」
と、ジャンさんが、甘く微笑んだ。
そして、ジャンさんが、紙袋入りの本を手にとろうとした瞬間、その本が消えた。
え?! あ、ラルフ!
「ちょっと、ラルフ。なにしてるの?」
「俺がこれを読む」
そう言って、紙袋をしっかり抱えている。
「ちょっと、先にこっちを読みなさい。さっき言ったでしょ。これもすごくいいから。私のイチオシよ」
と、エルザおばさまが、私の貸した本を、ラルフのほうに差し出す。
「いや、それは読まなくていい。それはジャンに貸せ。俺は、こっちを読む」
ちょっと、ラルフ! 仮メンバーなのに、えらく傍若無人だね?
「なんで?」
一応、理由を聞いてみる。
「なんでも」
そこで、アイシャが笑いだした。
「エルザおばさまの好みではなく、リリーの好みを知りたいのよ、ラルフは!」
「あら、ひどいわね」
と言いながら、エルザおばさまも楽しそうに笑う。
「それは、リリーが、僕のために初めて選んでくれた本だから、先に僕が読む。返してくれ、ラルフ」
ジャンさんがラルフにむかって言った。
ん? 顔はにこやかなのに、なんだか目がわらってないような…。
「ちょっと、ラルフ! それは、ジャンさんに貸す本だから、読みたかったら、ジャンさんの後で貸すから」
「ジャンより先に俺が読む」
はあ? なに、わがまま言ってんの?!
私は、椅子から立ちあがり、ラルフのところまで歩いていく。
今からする行動は、令嬢としては完全にアウトだけれど、かまうもんか!
デザート用のフォークをにぎりしめ、ルシアンのパウンドケーキにぶすっとつきさし、ラルフの口のところへ持っていった。
「…なにしてるんだ、リリー?」
驚いている様子のラルフ。
「一冊も読んでないくせに、選り好みするなんて、私の本に失礼でしょ。そんな失礼なことをするなんて、脳に糖分がたりてないのかと思って。ほら、口あけて!」
「はあ?」
エメラルド色の目が見開かれている。
私が、フォークにつきさしたルシアンのパウンドケーキを、ラルフの口元につきつける。
「はい、あーん。さっさと口あけて、食べる!」
私の気迫におされたのか、ラルフが口をあけ、ぱくっと食べた。
「よし! これで、脳に栄養がいくでしょ。なんてたって、ルシアンのパウンドケーキだからね」
茫然としたままのラルフの腕から、紙袋をさっさと奪い取り、ジャンさんに手渡した。
「はい、これ。ジャンさん、読んだら感想聞かせてね!」
と、私は、にっこり笑う。
ジャンさんは、
「…あ、ありがとう」
なんか、驚いた目で私を見ている。
アイシャが、
「なんか、斬新な、あーんだったわね」
と、クスクス笑う。
エルザおばさまもうなずきながら、
「そうね。見たことのないタイプのあーんだったわ」
と、興味深そうにうなずいた。
ん? あーんにそんなに種類があるのかな?
まあ、ラルフも糖分が補充され、大人しくなったから良かった。
私は、本たちへの無礼は許さないのだ!
覚えておきなさい、ラルフ君!
エルザおばさまが、テーブルに紙袋を置いた。
あ、前回、私が貸した本ね。
「どうでした?」
私が聞くと、エルザおばさまは、両手をにぎりしめて、夢見る表情になった。
「もう、すごーく良かった! ときめきまくりよ! 今まで一番好きなタイプのヒーローだわ」
確かに、これなら、糖分過剰なほどの溺愛ものだ。
フッフッフ。読めるもんなら、読んでみるがいい。ラルフよ!
「では、これを、ラルフに読んでもらいましょう」
「わかった。すぐ読んでやるよ」
と、どこまでも挑戦的なラルフ。
「いやいや、早さは競わなくていいので、最後まで味わって読んでね? そして、お待たせしました。ジャンさんには、これを持ってきました」
そう言って、バッグから紙袋に入った本を、テーブルに出す。
「これ、私の今一番のおすすめ。最後は感動もするし、ジャンさんにいいかと思って」
「嬉しいよ! 早速、読んでみるね」
と、ジャンさん。
「ちなみに、ここにでてくるヒーロー。ヒロインへの溺愛が素敵すぎて、私の好みで、ズキュンときました! もう、憧れちゃって」
「へえ、リリーの好みは気になるな。しっかり読み込んでみる」
と、ジャンさんが、甘く微笑んだ。
そして、ジャンさんが、紙袋入りの本を手にとろうとした瞬間、その本が消えた。
え?! あ、ラルフ!
「ちょっと、ラルフ。なにしてるの?」
「俺がこれを読む」
そう言って、紙袋をしっかり抱えている。
「ちょっと、先にこっちを読みなさい。さっき言ったでしょ。これもすごくいいから。私のイチオシよ」
と、エルザおばさまが、私の貸した本を、ラルフのほうに差し出す。
「いや、それは読まなくていい。それはジャンに貸せ。俺は、こっちを読む」
ちょっと、ラルフ! 仮メンバーなのに、えらく傍若無人だね?
「なんで?」
一応、理由を聞いてみる。
「なんでも」
そこで、アイシャが笑いだした。
「エルザおばさまの好みではなく、リリーの好みを知りたいのよ、ラルフは!」
「あら、ひどいわね」
と言いながら、エルザおばさまも楽しそうに笑う。
「それは、リリーが、僕のために初めて選んでくれた本だから、先に僕が読む。返してくれ、ラルフ」
ジャンさんがラルフにむかって言った。
ん? 顔はにこやかなのに、なんだか目がわらってないような…。
「ちょっと、ラルフ! それは、ジャンさんに貸す本だから、読みたかったら、ジャンさんの後で貸すから」
「ジャンより先に俺が読む」
はあ? なに、わがまま言ってんの?!
私は、椅子から立ちあがり、ラルフのところまで歩いていく。
今からする行動は、令嬢としては完全にアウトだけれど、かまうもんか!
デザート用のフォークをにぎりしめ、ルシアンのパウンドケーキにぶすっとつきさし、ラルフの口のところへ持っていった。
「…なにしてるんだ、リリー?」
驚いている様子のラルフ。
「一冊も読んでないくせに、選り好みするなんて、私の本に失礼でしょ。そんな失礼なことをするなんて、脳に糖分がたりてないのかと思って。ほら、口あけて!」
「はあ?」
エメラルド色の目が見開かれている。
私が、フォークにつきさしたルシアンのパウンドケーキを、ラルフの口元につきつける。
「はい、あーん。さっさと口あけて、食べる!」
私の気迫におされたのか、ラルフが口をあけ、ぱくっと食べた。
「よし! これで、脳に栄養がいくでしょ。なんてたって、ルシアンのパウンドケーキだからね」
茫然としたままのラルフの腕から、紙袋をさっさと奪い取り、ジャンさんに手渡した。
「はい、これ。ジャンさん、読んだら感想聞かせてね!」
と、私は、にっこり笑う。
ジャンさんは、
「…あ、ありがとう」
なんか、驚いた目で私を見ている。
アイシャが、
「なんか、斬新な、あーんだったわね」
と、クスクス笑う。
エルザおばさまもうなずきながら、
「そうね。見たことのないタイプのあーんだったわ」
と、興味深そうにうなずいた。
ん? あーんにそんなに種類があるのかな?
まあ、ラルフも糖分が補充され、大人しくなったから良かった。
私は、本たちへの無礼は許さないのだ!
覚えておきなさい、ラルフ君!
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