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第一章

失礼だよ

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「あ、ジャンさん! この本は、読んだ?」
と、私は、本棚から一冊の本をとりだす。

初めて読んだ作家さんだけど、すごく良かったんだよね。

すると、ジャンさんは、ぱっと瞳を輝かせて、
「ぼく、その本持ってる。この作家さん好きだから、全部集めてるんだ」

「うわあ、ほんと?! 私は、この作家さん、この本が初めてだったんだけど、感動しちゃって」

「どれも、感動するよ。どの作品も読後感がすごくいいんだ。良かったら、本仲間の人たちに貸すよ」

「え! それは、うれしい! みんな喜ぶわ」
私がそう言うと、ジャンさんは嬉しそうに微笑んだ。

なんて強力なメンバーが入ってきたんだろう! 

「ジャンさんが、本仲間に入ってくれて、ほんと良かった」
そう言って、私はにっこりと微笑んだ。

ジャンさんの顔が一気に赤くなった。

「ありがとう。ぼくも、リリーと知りあえてよかった」
と、はにかんだ。

「もう、なんてかわいいの、ジャンさん」
あ、思わず声にでてしまった。

「つい、心の声が…。年上の男性にかわいいは失礼よね?」

すると、ジャンさんは、頬をそめたまま、
「いや、ほめてくれて嬉しいよ」
と、微笑んだ。

こんな和やかな雰囲気の中、
「はっ?! かわいい?!」
と、鼻で笑う声。もちろん、ラルフだ。

鋭い目でジャンさんをにらみながら、腕をくんで立っているラルフ。
冷たい美貌が際立ちすぎて、本屋では異様に浮いている。

ほんと、ダークヒーローとして推せる見た目だわ。
そして、純粋なヒロインに出会い、改心して、溺愛していく…。
なーんて最高なのに。

まるで、私のお父さんのように、異常なほどの過保護になってる場合じゃないよ。
そのポテンシャルを使わないなんて、ほんともったいない!

ほら、お客さんの女性たちの視線も釘付けだよ。

ラルフが言った。
「ジャン、おまえ、なに猫かぶってんの? リリー、こいつは、いつもにこにこしてるけど、しっかりと腹黒だ。だまされるな?」

え、ジャンさん、腹黒なの?! 
真面目で、穏やかで、時にかわいさもあるのに、更に腹黒属性なの?! 
それは、萌えるわ! 
やっぱり、溺愛ヒーローとして、最高の逸材ね。 

私はわくわくして、ジャンさんを観察していると、ラルフが、私の顔をのぞきこんできた。

「おい、リリー。また、変なこと考えてんだろ?」

「うっ…、いえいえ、…ちっとも」

あわてて、私が顔をそむけると、ぐいっと頭を両手でもたれて、ラルフの方にむかされた。
エメラルド色の瞳が目の前にある。

この瞳、ほんときれいで、思わず見とれてしまう。
いかんいかん、ラルフなのに! 悔しい!

ジャンさんが、フフッと笑った。
「二人って、兄妹みたいだね」

一気にラルフから、冷たいものが放出される。ご機嫌がさらに下がったわ…。

「あ?! 兄妹じゃねーよ」
またまた、ガラのわるいラルフが登場。

そんなに私と似てると言われるのが嫌なのかね。失礼だよ、ラルフくん。


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