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第一章

馬車の中で

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ひろびろとした立派な公爵家の馬車にゆられ、ラルフと二人、王宮へ向かっている。

気持ちは、すでに溺愛観察準備中に入った。
期待に胸がふくらむわ。うきうき。

なのにだ! 

「ちょっと、ラルフ、さっきからしつこい!」
さすがに、温厚な私もきれたわ。

「だって、おまえ、全然聞いてないだろ? 俺が言ったこと、言えるか?」
と、ラルフ。

「言えるよ! ちゃんと聞いてたから」

「じゃあ、復唱してみろ」

ラルフは、私の先生ですか?!

と、言いそうになったが、言うと更に面倒になりそうなので、とりあえず、言われたとおりにする。

「パーティー会場では一人にならない」

「はい、次」

「知らない人にはついていかない」

「他には?」

「飲み物に注意する」

「知らない人から差し出されたら、絶対飲むなよ」

「わかってるって…」

「じゃあ、他にもいっぱいあるだろ。言ってみろ」

「食べ過ぎない」

「それから?」

「…ええっと…なんだっけ」

「ほらみろ。全然聞いてないじゃないか」
ラルフが、凍りそうな目で私を見る。

そりゃ、あんなにいっぱい言われてもね? すでに、気持ちは、すっかり王宮へ飛んでるからね。 

私は、はーっとため息をついて、
「本当、大丈夫だから。ラルフは、心配性なんだよ! そりゃあ、背は小さいけど、もう、私は子どもじゃないよ?」
と、言いきった。

「子どもじゃないから、心配なんだけど?」
ラルフは眉間にしわをよせ、いらだった口調でつぶやいた。

ほんと、どれだけ、心配なんだ?! 

私は安心させるように、付けくわえた。
「それに、ラルフには小さい頃から言ってたでしょ。私には、前世の、しかも、今の年よりもまだ年上の女子高生だった記憶があるんだから。しっかり者のね。だから、大丈夫」

どうだ、これで、安心でしょ?

が、ラルフの鋭い目つきが、一層、鋭くなる。
「いや、全く安心できない。むしろ、不安しかない。その前世の女子高生とやらは、しっかりしてたのは、金の面だけだろ? 子どもの頃から、おまえを見てきた結果、その記憶、節約にしかいかされてない」

「えー?! そんなことないよ。ラルフには伝わってないだけじゃない? 私って、しっかりしてるよ?」

「自分のことを、そんな風にいう、しっかりした奴を俺は見たことがない」

「ほら、ここにいるから!」
私は、自分を指差し、必死にアピール。

「ダメだ。安心する要素が微塵もないな。こうなったら、ずっとそばにいるか…」
などと、恐ろしいことをつぶやいている。

やめてー! 
ラルフと一緒にいたら、目立ちすぎて、溺愛観察ができないじゃないの!









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