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静けさを打ち破る

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疲労感いっぱいの顔でジリムさんが説明を始めた。

当初の予定としては、ドラゴン保護センターの観光を終えたあとに、少し早めに昼食をとり、そのあと2か所ほど観光してから王宮へ帰り、そこで、王太子様も交えてお茶をする予定だったそう。

が、ドラゴンうんぬんで大幅に予定が狂ったため、あと2か所の観光はやめて、王宮へ戻り、王太子様とお茶をすることに変更したとのこと。

と、そこで、デュラン王子が私に向かって言った。

「アディー。イリスさんのところのお菓子、僕が全種類買うから、お茶の時間にだしてもらうよ。それなら、王宮に戻ってもいいよね?」

「え、全種類!? それは嬉しい!」
と、思わず声をあげた私。

が、ユーリが私の顔をのぞきこむ。

「アデル、まだ、僕とのデート中でしょ? ここで、デザートまで一緒に食べよう」
そう言った後、ユーリは顔をあげ、底冷えする視線を、デュラン王子に向けた。

「そっちの仕切りが悪くて、アデルを飢えさせる気かと思ったんだけど? 今更、僕たちの邪魔をせず、先に王宮へ帰ってて? 僕とアデルは、ここでデザートをゆっくり食べてから戻る。王太子とはその後に会えばいいでしょう?」

ちょっと、ユーリ! お邪魔している身なのに、他国の王子様になんて失礼なことを! 
それに、その言い方だと、おなかがすいたって、私がユーリに言いつけたみたいじゃない? 
お昼の時間を過ぎていることすら忘れていたのに! 
ランディ王子の言うとおり、食い意地が張った王女に思われるわ!

私はあわてて言い訳した。

「ええと、ユーリが失礼なことを言って、すみません! ドラゴンさんたちとのことは夢のようで、ものすごく楽しかったです。それと、お昼のことは、ユーリに言われるまで、すっかり忘れていました。ユーリは私に過保護なので、気にしないでください。王太子様がお待ちなのなら、すぐに、王宮へ戻りましょう! お茶の時間に、イリスさんのお菓子を食べられるのなら、私は大満足ですから」
と、一息に言いきった私。

「ありがとう、アディー。君は優しいね」
デュラン王子は、私に向かって、とろけるように甘く微笑んできた。

すると、ここで口を開いたのはジリムさん。

「アデル王女様とドラゴンたちとの強い結びつきは驚きの連続でした」
と、驚きのかけらも感じられない冷静な口調で、淡々と話し始めた。

みんなが、ジリムさんに集中する。

「が、どれほど想定外のことが起き、予定がかわろうが、アデル王女様を空腹にさせてしまったことは私の責任でございます。仕切りが悪くて、申し訳ございませんでした。が、アデル王女様のお言葉に甘えまして、これから王宮に戻り、王太子様を交えてお茶の時間にさせていただきます。もちろん、お茶菓子として、こちらのお菓子を全種類おだし致しますので。……あ、それと、次期公爵様」
と、ユーリをひたと見据えた。

ジリムさんから挑むような気配を感じるのはなんでかしら?

「なに?」
ユーリの冷たい声。

「アデル王女様の保護者であられる次期公爵様が、お怒りなのはごもっともでございます。お食事もデザートが残っておられるのですよね? が、アデル王女様とお茶の時間を持てることを、わが国の王太子が楽しみにしておりますので、ここは譲れません。もしよろしかったら、代わりにランディ王子を置いていきます。もちろん、ランディ王子では役不足だとは承知しております。が、せっかく師弟になられたのですから、お二人でデザートでも食べながら、じっくりとお話をして親交を深められたらいかがでしょうか? その間、アデル王女様のことは、安心して我々にお任せください」
そう言い放って、強い視線をユーリに向けるジリムさん。

え……? 代わりにランディ王子って……。
ジリムさん、何か変ですよ? 

しかも、ユーリに対して毒っぽいものを感じるのだけれど、気のせい?

もしかして、疲れすぎて、心が荒んでいるのかしら!?
目の下のクマが、一層、ひどいことになっているものね……。

そして、ジリムさんの言葉を受けて、ユーリから冷気があふれだす。
うん、またもや、一気に気温が下がったわ。

しかも、寒いうえに、凍りつくような静かな空気がいたたまれない……。

が、そんな空気の中、口を開いたのは、名指しされたランディ王子。

「ユーリさんと俺でお茶ができるの? それいいな……! ユーリさん、俺で良ければ喜んで!」
と、やたらと大きく明るい声が、この緊迫した静けさを打ち破った。
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