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魔王と使い魔

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「魔王の話を書いてもいいな……」
という紳士の言葉に、「何者?」って思ったけれど、もしかしたら、趣味で小説を書いている人なのかも。

だって、ノートに何か書いてばっかりいるし。

ということは、当然、本好きよね。
是非、話をしたいわ!

ということで、紳士に話しかけようと近づいた私。

すると、ざわざわと人の声がしはじめて、カフェの開いたままのドアから人が飛び込んできた。
あ、ランディ王子だわ。

「ユーリさんっ!」
と、大声をあげて、ユーリに駆け寄るランディ王子。

その後から、ジリムさんとイーリンさんが続いて入ってきた。

「ユーリさん、遅くなってごめんなさい! ユーリさんのバッグを持たせてもらっているのに、弟子の俺が離れてしまって……! 不便だったでしょう? 大丈夫でしたか?」
と、大事そうにユーリのバッグを抱えたまま、謝るランディ王子。

「うん、大丈夫だったよ、ランディ」

ん……? この会話、おかしいわよね?
ということで、口をはさんだ私。

「ランディ王子は、ユーリのせいで氷の壁の中に閉じ込めらていたのよね? どう考えても、謝るのなら、ユーリの方じゃない?」

「なんで、ユーリさんが俺に謝るんだ? 俺は嬉しかったのに」

「……は?」
思わず、聞き返した私。

会話が通じないわね……。

それに、私と会話をしていても、ランディ王子の関心はすべてユーリに注がれているよう。ずっと、ユーリを見ているもの。

久々に飼い主に会った子犬みたいな感じかしら……?

視線は合わないものの、めげずに、私はランディ王子に聞いてみた。

「ランディ王子、氷の壁に閉じ込められていたけれど、体は大丈夫なの?」

「もちろん、体は最高だ! ユーリさんの魔力の中に閉じ込めらてたんだぞ。うらやましいだろう?」

「いえ、全く」
と、即答した私。

なのに、ランディ王子は、まるで聞いていないらしい。
今度は自分の胸を指さして、誇らし気に言った。

「それに、ほら、これを見てみろ、アデル! すごいだろう?」

ランディ王子の指先は、自分のシャツについている、まるいものを示している。

そう、私があげた幸運をもたらすマカロン、……のはず。

「ねえ、そのマカロン、色が違うんだけど……」
と、私はとまどいながら聞いた。

ランディ王子の高級そうなシャツにつけている、厚みのあるまるいもの。

それは、マルクからもらった、幸運をもたらすマカロン。私は気に入って、バッグにつけていたのに、ユーリに指示されて、譲ったのよね。で、ユーリはそこへ魔力をこめた。

が、今、そのマカロンは、色がきれいなブルーになっている。
私の記憶が正しければ、あれはピンク色だったはずよね……。

「氷の壁から出た時には、色が変わってたんだ。しかも、これ、ユーリさんの瞳の色だろう? あまりに強いユーリさんの魔力によって、色が染まったんだな。もう、俺、嬉しくて、嬉しくて!」

「そう……良かったわね……」
と、棒読みで言ってみる。

が、ランディ王子はまたもや聞いてもいない。

「ここから、ユーリさんのひんやりとして、心地がいい魔力がでてくるから、ユーリさんに包まれているようなんだよな。どうだ、うらやましいだろう、アデル?」

そう言って、恍惚とした表情で、胸の青く変色したマカロンを大事そうに両手でおさえるランディ王子。

「面倒な反抗期が収まったと思ったら、今度は、別の面倒さがでてくるとは……。まさか、あの丸いへんなものを、毎日、胸につけるつもりか? やばすぎるだろう……。仮にも王子だぞ? しかも、次期公爵様の瞳の色と一緒だと、王子というよりは、従属させられている使い魔のようだな。もはや、魔王と使い魔……」
と、つぶやいたのはジリムさん。

確かにね……。
そして、ユーリとランディ王子を見ると、うん……すごい既視感。

そう、私がユーリにもらった、あの青い石のついたチョーカーを付けて、ユーリと並んだ時と同じなのよね。
まさに、私も使い魔だった……。

つまり、今、私があのチョーカーをつけていたら、ランディ王子とは使い魔仲間みたいに見えるのじゃない?
それだけは絶対に嫌だわ。

ということで、この国にいる間は、あのチョーカーは使わないでおこう。
魔王と愉快な使い魔たちみたいになるのは避けたいもの……。


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