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何者?

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ドラゴンたちがお湯につかっている間に、おびえていたカップルと取り残された取り巻き令嬢は、デュラン王子の差配によって、速やかに帰路についた。

「驚かせて悪かったね」
と、甘く微笑むデュラン王子に、令嬢たちだけでなく、カップルの男性まで、真っ赤になってたわよね。

しかも、デュラン王子は、帰りの馬車も手配し、イリスさんに頼んで、お菓子のお土産まで持たせたから、みんな、すっかり、デュラン王子のファンになってしまったみたい。

こちらは、人心を掴むことに長けた、人たらし魔王ね……。

そして、お客様の中で一人残った紳士。
今は、テーブル席にもどり、なにか、猛烈にノートに書いている。

でも、さっきから、一体何を書いているんだろう。
あ、もしかして、起こったことをすぐさま日記に書かずにはいられない人なのかしら?

デュラン王子のお知り合いのようだから、ちゃんと紹介してもらおう。
ヨーカンだけじゃなくて、虹竜にもすごく興味を持っていたもの。
仲良くなれそうだわ。

と、思ったら、デュラン王子がイリスさんと話し始めた。

「僕がドラゴンに乗ってきたから、騒がせてしまい悪かったね。イリスさん」

「いえ、間近で本物のドラゴンが見られるなんて感動しました。デュラン様」
と、微笑みながら答えるイリスさん。

あれ? 二人のお互いの呼び方……。

「あの、お二人はお知り合いなの?」
と、聞いてみた。

「うん、ここは僕の隠れ家的なカフェなんだ。オープンしたての時に、ふらっと来てから、気に入っちゃって。ちょくちょく寄らせてもらってる。何を食べても美味しいし、なにより、イリスさんが店主なら、安心してくつろげる。イリスさんのカフェにのりこんでくるような、命知らずの暗殺者はいないだろうしね」

つまり、デュラン王子も、イリスさんの前職を知ってるのね。

「フフ……。今は、私は普通のカフェ経営者です。が、そう言っていただけて嬉しいです。そう言えば、今日はお連れの方は、いらっしゃらないのですか?」

イリスさんの言葉に、ユーリが反応した。

「へえ、お連れって、ここをデートで使ってるの? まあ、遊んでそうだもんね?」
と、意味ありげな口調で言った。

「まさか。ここへ女性を連れてきたことはない。いつもは、ジリムと来ているだけだ。というか、ジリムが勝手に僕について来るんだが。遊んでいるなど、アディーに誤解されるようなことは言わないでもらいたい」

「誤解? おかしいな? ちょっと調べたら、女の影が、ちらちらしてたよ?」
と、ユーリが冷たい声で言った。

「え? 調べた? ちょっと、何してるの、ユーリ! ダメよ、そんなことしちゃ。デュラン王子のプライバシーはそっとしとかなきゃ! ごめんなさいね、デュラン王子」
と、あわてて、デュラン王子に謝った。

気を悪くされたら、どうしよう。あ、そうだわ!

「デュラン王子。ユーリが調べた内容は、私が責任を持って闇に葬りますから、安心してください!」
と、宣言する。

すると、デュラン王子が、プハっと吹きだした。
え? 怒らないの?! 

とまどう私に、デュラン王子が、それはそれは艶やかに微笑んできた。

「アディー、大丈夫だよ。調べられて恥じることは何もない。私も成人しているし、アディーと出会う前に、女性と何もなかったとは言わない。だが、こんな真剣な気持ちになったのは初めてなんだ。僕は君をあきらめない」

「はあ? 人の婚約者に、何、堂々と言い寄ってるの? もう、この国とは国交断絶でいいよね」
ユーリが、魔王感満載で冷気を放ちながら言い放った。

もう、本当に魔王同士だと、つっかかってばかり。
それにしても、私を出しにして言い争うのはやめてほしい。

ふと、まわりを見ると、イリスさんは仕事に戻っていて、ラスさんも姿を消している。
さすが、二人ともユーリのお友達ね。こんな殺伐とした空気が流れているのに、まどわされない。強心臓だわ。

そして、気が付けば、紳士が、また、近くにいた。
目を輝かせて、二人の争いを見ている。

「魔王の話を書いてもいいな……」
と、聞こえた気がした。

やっぱり、紳士にも二人が魔王に見えるのね。

あ、でも、今、話しを書くって言わなかった?
この人、何者? 
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