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体の芯が凍りそう

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「アディー、お待たせ」
デュラン王子が私を見て、甘い笑みを浮かべた。

「いや、待ってないし。相変わらず、人の婚約者をそんな呼び方して、厚かましい。それより、さっさと、自分の婚約者を回収してよ? じゃないと、本当に消すよ。邪魔だから」
そう言いながら、ユーリは、冷たい視線を、筆頭公爵家の令嬢にちらりと投げた。

あ、こら、ユーリ! そんなこと言ったら、デュラン王子が嫌がるじゃない!
彼女はデュラン王子の婚約者じゃないし、彼女のイーリンさんへの仕打ちを知って、公爵家ごとつぶそうとしてたのに……。

と、思った時には遅く、デュラン王子の顔から、甘い笑みがまるっとはがれた。

「消そうがどうしようが、どうぞ、お好きに。僕には一切関係ないから」

その時、ヨーカンの出現でおびえて、固まっていた筆頭公爵家の令嬢がはっとしたように、デュラン王子を見た。

「デュラン様~!」
と、媚びを含んだ声でそう叫ぶと、デュラン王子めがけて駆け寄っていく。

え……? 今のデュラン王子のセリフ、聞いてなかったの……。
あなた、消すことを承認されてましたよ?

それになにより、さっきまで、あれだけ、ユーリにロックオンしてたのに、すごい変わり身の早さよね。

しかも、どちらも中身が魔王。魔王でもいいの? 見た目がよければそれでいいの?
と、心で叫ぶ。

「こっちも面白そうだ……」
と、つぶやく声がお隣から聞こえた。

ふと見ると、紳士が、楽しそうな顔で、デュラン王子と、そばに駆け寄った筆頭公爵家の令嬢を見ている。

確か、さっき、デュラン王子が身元を保証するって言ってたから、お知り合いなんだよね。
ちょうど良かったわ。
ヨーカン仲間として、あとで、きちんと紹介していただこう。
それなら、警戒心がないなんて、ユーリに怒られることもないしね。

そんなことを考えていると、筆頭公爵家の令嬢の媚びを含んだ声が響いた。

「デュラン様~! 恐ろしいドラゴンがいて、私、怖かったんですの! 一緒にいてください」
そう言って、デュラン王子の手をとろうとした瞬間、デュラン王子が、さっとよけた。

この先を想像すると怖い……。見てるだけで、どんどん心が冷えてくる。

が、そんななか、やけに楽しそうに見つめているのは紳士だ。
窓を見ると、ヨーカンが消えているので、紳士の興味は今やお二人に集中しているみたい。

そして、いつもとは真逆の冷たい顔をしたデュラン王子が、筆頭公爵家の令嬢に言った。

「近づくな」

「え……?」

「金輪際、俺に近づくなって言ってるの。ああ、もちろん、話しかけることもしないでね」

「は……? 私、筆頭公爵家の娘ですのよ? 結婚したくないんですの?!」

「妹をいじめてきた令嬢と結婚したいだなんて思うわけがない。そんなことになるなら、公爵家ごとつぶす」

え、デュラン王子!? もちろん、気持ちはわかるよ! 
イーリンさんのことを思うと、すっきりする。
でも、今ここで、それを言うの! それって宣戦布告だよね?

すると、令嬢が怒りのあまり震えはじめた。

「…なんですって!? 私には、大きな国の王族との縁談もきてるのよ! それに、うちの家が本気をだせば、王家だってつぶせるほど財力があるって、お父様が言ってたわ! ……私を侮辱したこと、後悔させてあげる! 覚えてなさい!」
と、捨て台詞を残して、ものすごい勢いでカフェから出て行った。

なるほど……。今の令嬢の言葉で、腑に落ちたわ。
王家を下に見ていたから、王女であるイーリンさんをいじめるなんてことができたのね……。

と、一人納得していたら、いつのまにか、背後からユーリに捕獲されていた私。
そのユーリがつぶやいた。

「ほんとにバカすぎるよね、あの女……。あれを聞いたら、まず、財源をとめるでしょ。金だけある家みたいだし。自分から、弱点を教えてどうするの。つまんなくて、敵にもなんないよね。あんな家を筆頭公爵家として、今まで、のさばらせとくなんて、この国、大丈夫? ……っていうか、妹がいじめられているのに気づかないなんて、そもそも信じられないよね。あの王子、目が節穴なんじゃない?」
と、恐ろしく冷たい声で、最後にデュラン王子の悪口でしめくくった魔王ユーリ。

後ろから捕獲されているから、背中はあったかいんだけど、耳から入ってくる冷気で、体の芯が凍りそう……。

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