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生贄?

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でも、この声、聞いたことがあるのよね…。一体、どこで聞いたのだっけ…。
と、考えていると、更にヒートアップした声が響いた。

「どうせ、前にとまっているボロ馬車に乗って来た人なんでしょう? 私は席料を払うから、譲りなさい!」

なんだか、人を見下した物言いね…。

「それに、ボロって…。ラスさんの馬車は、こじんまりとして、無駄な装飾のない素朴な馬車なのに…」
と、私がつぶやくと、ユーリがさらっと言った。

「というか、みずぼらしい馬車だけどね」

「こら、ユーリ! そんな言い方、ボロよりひどいわよ! お友達の馬車を、そんな風に言うものじゃないわ!」
と、ぴしっと注意した。

「だから、友達じゃないから」

「あ、ごめんなさい。親友だったわね」
すぐに、私が訂正すると、ユーリは、まぶしいほどの金色の髪の毛をかきあげて、気だるげにため息をついた。

無駄に妖しい何かが駄々洩れている。
これ、夜会でやってしまうと、ご令嬢たちが悲鳴をあげて、倒れるわよね…。

なんて、危ない生きものなの! 

と、思いつつ観察していると、ユーリが急に私のほうにのりだしてきた。
そして、宝石みたいなブルーの瞳で、私の瞳を捕らえる。

「友人も親友も必要ない。アデルだけいたらいい。…ねえ、そろそろ本気だしていい?」
そう言うと、私の顔に手をのばしてきた。

え?! いきなり、なに?!
と、思ったら、頬をなでられた。

「ちょっと、ユーリ…?」
とまどう私を見て、ユーリが微笑む。

恐ろしいほどの美貌に、どろどろとした甘さがにじむ。
慣れている私ですら、ぐらぐらするような感じ。

心臓がバクバクするけれど、ユーリはなでるのをやめない。
さっきまで美味しいハンバーグをほおばって、ふくらんでいた頬が、ものすごい熱さになってきた。

このままだと恥ずかしすぎて私の命が危ないわ…。

一刻も早く、ユーリの手を払いのけないと! なのに、金縛りにあったみたいに動けない。
魔王を目の前に、食べられるのを待つだけの、かよわい生贄になったような感じ…。

どうすればいいの?!と、思ったその時、ついたての向こうから、ひときわ大きな声が響いた。

「私は、筆頭公爵家、ジェフアーソン家の娘よ! 名乗ったんだから、さあ、早く席をかわって!」

名乗ったから、席を変わるって、なんでそうなるの…?

というより、名前を聞いて、やっと声の主を思い出した。

あのイーリンさんを長く苦しめてきた令嬢よね…。
どおりで聞き覚えがあると思ったわ。

しかも、ユーリに凍らされて、確か、10分後に解凍されたのよね…。
うん、後遺症もなく、ものすごく元気そう。

誰だかわかって、すっきりしたわ! 
おまけに、私の頬をさわっていたユーリの手も離れ、動けるようになったしね!

と思いつつ、ユーリを見たら、今度は恐ろしさで固まった。

「いいところで邪魔するなんて、やっぱり、あの時、凍らせたままにしといたら良かったね…。というか、害にしかならないから、永遠に凍らせといたほうがいいかもね」
と、恐ろしいことをつぶやくユーリ。

さっきまでの甘さは完全に消え、美貌は冷たく冴えわたっている。
しかも、冷気まで放ち始めている魔王ユーリ。

熱かった頬が、一気に冷えてきた。

ユーリさん、寒いです!





※ 更新が大変遅くなりました! 不定期な更新のなか、読んでくださった方、本当にありがとうございます!
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