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あの時の!

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ユーリに微笑まれ、放心状態の女性をあとにして、私は抱きかかえられたまま、ドラゴン保護センターの外にでた。

そこには、小さな馬車が止まっていた。

「お初にお目にかかります、アデル王女様。ユーリ様の部下でラスと申します」
急に声がした。

だれっ?!

驚いて、あたりを見まわしていると、私の前にすーっと男の人が近づいてきた。

うわ、人がいたのね?! 完全に馬車に同化していたから、気づかなかったわ!

馬車の色が焦げ茶色なのだけれど、この男性も、同じような色の衣服を身にまとっている。
髪の毛の色も同じような色。身長は高くもなく、低くもない。
そして、顔つきは、目立つところはない。怖そうとか、優しそうとか、まじめそうとか…、特に、そういう何かしらの第一印象はわいてこない。

でもね、…何かひっかかるわ? 
この方、ラスさんと言ったわよね? お名前に聞き覚えはないのだけれど、うっすらと見覚えがあるような…。

「ラスさん。私、あなたを見かけたことがあるような気がするのだけれど…」
そう言うと、ラスさんが目を見開いた。

ありふれた茶色の瞳に力がこもった。私を興味深そうに見ている。

…あっ、そうだわ! この目を見たことがあったんだわ! 今のように、一瞬、興味深そうにこちらを見た目。あの時も、そうだった! 

「あの孤児院だわ! ほら、デュラン王子とマルクと一緒に行った孤児院があったでしょ? あの時、ユーリが私を迎えに来たわよね。その時、子どもたちのお土産のお菓子の箱を持って、ユーリにつきそって来ていた方でしょ?」

「…え、うそだろ…」
ラスさんは、ぼそっとつぶやいた。

「いえ、嘘じゃないわ! 私、はっきり思いだしたの。ほら、リボンのかかった大きな箱よ。その箱の中には、動物たちのかわいらしいお菓子が沢山入ってたじゃない? 休業中のお店なのに、ユーリがなにかしら弱みをにぎって、無理やりそのお菓子を作らせたんでしょ? マルクから聞いたとたん、そのかわいい動物たちの姿が涙をさそったもの」

そう、愛らしい動物たちのお菓子に潜む、悲しい裏事情!
まざまざと思い出したわ!

突然、ラスさんが、ケラケラと笑いだした。

「やっぱり、おもしろいな、王女様! 仕事中の俺を覚えていた人、初めてなんだけど? なんだろう、ときめくな…。主から逃げるなら、いつでも手伝いますよ。それと、王女様。俺の本当の名前を教えましょうか?」
そう言ったラスさんは、表情をがらりと変えている。

そうなると、没個性だったのが嘘のように、はっきりとその容姿を認識できる。鋭すぎる目にすっきりとした顔立ち。

「あなた、ラスさんじゃないの?」

「ええ、ラスは、仕事用の偽名の一つです。でも、王女様になら、本当の名前で呼ばれたいな」
うっすら微笑む顔は、ユーリとはまた違った怖さを感じる…。

これって、本当の名前とか、絶対聞いてはいけないパターンよね!

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