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そんな子じゃありません!

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「じゃあ、急いで採って戻らないとね。あんな大きなドラゴンだから、沢山、食べるかな?」
私が聞くと、イーリンさんが、アンドレさんから渡された大きな布袋を差し出した。

「そうだね。少なくても、この袋にいっぱいになるくらいは採って持っていこうよ」
イーリンさんの言葉に、私はうなずいた。

それから、私とイーリンさんとユーリとランディ王子の4人、離れた場所で、デュラン王子とジリムさんがモリスを収穫して、あっという間に、大きな袋が二つ、いっぱいになった。

「とりあえず、これくらいでいいでしょう。足りなければ、王宮の人間に収穫させて、保護センターに運ばせますから」
ジリムさんが、てきぱきと言った。

「ヨーカン! 帰るよ!」
私が呼ぶと、空高く、気持ちよさそうに飛んでいたヨーカンが、すぐに私のそばに舞い戻って来た。

(たのしかったよ、かあさん)
ヨーカンの声が頭に響く。

「良かったわね! もう、山に帰りたくなったんじゃない?」

(うーん。山は広くて気持ちがいいけど、山に帰ったら、ぼくだけだからさみしい)

「えっ、ヨーカン…」

(かあさんが、一緒ならいいのにな。ダメ?)
と、さみしそうな声で聞いてくる。 

ユーリの魔力にはじかれない距離、2メートル先で、うるうるとした瞳でこちらをみつめてくるヨーカン。

なんて健気なの?! 泣けてきそう…。
と思ったとたん、またもや、涙がどばーっと流れ始めた。

「ヨーカン、あなたをひとりにはさせないわ!」
泣きながら叫ぶ私。

その瞬間、ヨーカンの目がぎらりと光った気がした。

「アデル、だまされないで? あれは、あざといよ?! アデルの優しさにつけこんでるだけだからね?」
ユーリはヨーカンをにらみながら、私に言った。

「ユーリ、なんてこと言うの?! ヨーカンはひとりぼっちで、さみしいんだよ?!」

「いや、確かに…。あのドラゴンの目。演技力がすごいですね…」
と、感心したように言うジリムさん。

「ジリムさんまで、演技力だなんて、ひどいわ! ほら、あの、つぶらな瞳! 嘘のつけない目を見て!」

が、誰も同意してくれない。

「あのね、アデルちゃん。あのドラゴンが何をアデルちゃんに言ってるかは私には聞こえない。でも、会話してる時にだす、オーラみたいなものだけ見えてるの。
人間とは違うかもしれないけど、私の場合、さみしい時は、うすい青だったり、白っぽく見えたり、寒そうな色が見えるのね。でも、さっきから見えるのは、赤いうごめく炎みたいなものばかりなのよね。たくましそうなイメージしかわかないんだけど」
と、イーリンさんが言った。

「ほらね。あれは腹黒いんだって。気をつけて、アデル」
と、だれより腹黒い魔王ユーリが言う。

みんな、なんで、素直でかわいいヨーカンを、そんな風にいうのかしら?!
そんな子じゃありません!

「大丈夫よ、ヨーカン! 私がそばにいるわ! 私が、あなたのお母さんよ!」

「ちょっと、アデル。なに、意味のわからないこと言ってるの? アデルは、あんな奴の母親じゃないからね。 アデルは、ぼくとアデルに似た、天使みたいな子どもの母親になるんだからね?」

「いや、そうとは限らないよ、次期公爵。だって、まだ結婚まで2年もあるんだろ? ブルージュ国の王子妃になるかもね。ああ、そうなったら、そこのドラゴン。ずっと、アディーと一緒にいられるよ? ドラゴンも、アディーにこの国にいてほしいよね?」
と、にっこり微笑むデュラン王子。

そこで、ヨーカンがキィーっと鳴き声をあげる。

「あっ、ドラゴンの鳴き声に、アデルちゃんがドラゴンに乗って空を飛ぶ映像が見えたわ。デュラン兄様の意見に賛成してるみたい!」
イーリンさんが驚きの声をあげる。

「君たち、妄想というより、もう、ぼけたの? そんなこと、させるわけないでしょ? あんまり、ふざけてると、永久凍土にするよ、この国? そこのドラゴンも調子にのってると、氷漬けにして海に流すよ?」
ユーリが、ブルーの瞳を魔力で揺らしながら、あたりに冷気を放出する。

やめなさい、ユーリ! せっかく採ったばかりの新鮮なモリスを冷凍にしないで!
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