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先が思いやられる

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馬車がとまった。

「では、到着しましたので、皆様、降りてください」
と、ジリムさんが声をかけ、扉をあけながら、先に馬車から降りる。

が、扉が開いても、幕がたれさがっていて、外から中が見えないように工夫されていた。

続いて、席の並び順に、デュラン王子、ランディ王子、イーリンさんと降りた。

ユーリは奥に座っているので、次は私ね!と思って、席をたった。

すると、ユーリが、
「ちょっと待って、アデル」
と、私のうでをつかんだ。

「どうしたの、ユーリ?」

「先にぼくが降りる。そうでないと、あの王子が、どうせ、降りるところで待ち構えていて、アデルの手をとるだろう? むやみに触られてほしくない。
だから、ぼくが先におりるから、ぼくの手をとって、降りてね。わかった、アデル?」
と、ユーリ。

「え? ちょっと、手をそえるだけでしょ?」
と、私が言うと、

ユーリは、
「ちょっとでも、嫌だ。特に、あの王子は、すごーく嫌なんだよね」
と、鋭い目になる。

よくわからないけれど、魔王同士の攻防なのかしら?

「まあ、いいわ。じゃ、先に降りて」
と私が言うと、

ユーリは、立ちあがり、私の前に立つと、私の両肩に手をおき、いきなり、その美しすぎる顔をちかづけてきた。

え? なに?! どうした?!

目をむいている私に、ユーリは、
「じゃあ、先にごめんね」
と、耳元でささやくと、軽くハグするような感じで、私を座らせてから優雅におりていった。

…時間差で、心臓がバクバクしてきた。顔が一気に熱くなる。

なんだ、あれ?! こんなに広い馬車なのに、あんな接近して、すれ違う必要ある?
しかも、耳元でささやく必要ある?
なんて、危険な生き物かしら!

とりあえず、息をととのえ、手で顔をあおいでから、席を立つ。

開いた扉にたれている幕をめくって、外を見ると、馬車の近くで待っている皆の目が一斉に集中した。

ひえっ! やっぱり、私、顔が赤いよね?! 変よね?!

そして、目の前には、美しすぎる笑みをうかべた、ご機嫌のユーリがいて、手を差し出してきた。

とりあえず、さっと、手をおき、下をむいて、さっさと降りようと思ったら、ユーリが手をぎゅっとにぎってきた。

ぎゃあっ! なにしてるの、この魔王め?!

ボンッと、顔が更に熱くなった。

とりあえず、馬車から降りると、イーリンさんが寄ってきて、
「アデルちゃん、顔が真っ赤になってる。もしかして、暑い? 何か飲む?」
と、心配そうに声をかけてくれた。

「…だ、大丈夫だよ! 今はもう普通だから!」
と、あわてて言う。

が、デュラン王子は何かを察して、ユーリをすごい勢いでにらみつけていた。

すると、ランディ王子が、さささっと寄ってきて、
「降りるのが、おせーよ。ユーリさんを待たせるな」
と、小声で注意してきた。

ユーリに聞かれたくないから、小声なんだろうけれど、私も言いたい!
待たせたのは、そのユーリのせいなんだからね!

そして、ジリムさんは、はーっとため息をつき、
「まだ、何ひとつ観光していないというのに、精神的に疲れた…。先が思いやられるな…」
と、ユーリとデュラン王子を見ながら、つぶやいた。

確かにね…。

睡眠不足なのに、ご迷惑をかけてすみません、ジリムさん…。
と、心の中で謝っておく。

ジリムさんが、気合を入れるように、パンと手をうつと、
「では、こちらにどうぞ」
と、私たちを引率して、歩き出す。なんだか、先生みたいだね…。

石畳の道で、その両脇には、かわいらしいお店がずらりと並ぶ。
お土産物も並んでいて、観光地っぽい雰囲気。

人もいて、ざわざわしていたけれど、一気に私たちに視線が集中して、静かになった。

まあ、きらびやかな集団に、まわりには護衛の人たち。
注目されるよね。

そんな中、ジリムさんのあとをついて、角を曲がった。

えっ…、なに、あれ?!

目の前には意外な景色がひろがっていた。

空高くまで、ふきあがる水だ。
しかも、虹色に輝く水が、すごい勢いでふきあがっていた。

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